小説「死神の手(仮)」3
「やはりあったな死人の核」
改心の笑みを浮かべた酒井は、男の胸に埋め込まれた球体をさらに強く握った。五本の指すべてに力を込めて。そう、死神の手には五指がはえているのだった。だからこそ手といわれるのである。
「うぐむぅ」
急所をつかまれて苦しいのだろう。男がまた苦鳴をもらした。血の気が失せた顔には脂汗が滝のように流れている。
死人の核にヒビがはいった。
「がわっ!」
男の体が跳ね、脂汗が飛び散った。
「貴様にかける同情はない」
酒井は声に感情を込めずにいった。
「どういう経緯で死人の核を埋め込まれたのかは知らないが貴様は生者を襲った。それこそが貴様の罰。罪を受けなければ……」
続く言葉を飲み込んで首をひねった。
「ん? 罪と罰の使い方が逆か? ふむ、受けるべきは罰だったか?」
首を反対側にもひねり、しばし考える。そうしながらも死神の手をゆるめず、死人の核にできるヒビを増やしていた。男が苦痛に耐える声をもらし敵意ある視線を送りつづけているというに、どこ吹く風である。
「なんでもいいや」
やがて、酒井は晴れ晴れといった。
「とにかくオレは貴様に同情しない。同僚のなかには情けをかけてできるだけ早く死人の核をつぶすやつもいるが、オレはそういうのは嫌いだ。だから、これからいうことは取り引きと思ってくれ」
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