小説「死神の手(仮)」5

| | コメント(0) | トラックバック(0)

 たしかに、死神の手には酒井自身ですらさわれない。だが、いや、だからこそ、死神の手はこの世にある物体にはふれられないのだ。4mくらいまではのびるが冷蔵庫を物色することすらできない。DVDプレイヤーのディスクを入れ替えるためには、プレイヤーまで歩いていかなければならない。死神の手は、たったひとつの目的以外には、まったく使い道がないのだった。
 死神の手が接触したりされたりできるのは、この世にない物体だけだった。そのひとつが死人の核である。死人の核を破壊することが、死神の手のたったひとつの使い道であった。
「オレたち死神の使いや死神の手を知ってるってことは、埋め込まれた死人の核についても知ってるって考えていいな」
「お、教えて、も、もらった。いろ、いろ」
「そいつのことが知りたい。どんな奴だ。男か女か? いや、第三の性別って可能性もあるな。どうなんだ?」
「し、死人の核をもらうとき、口止めされた」
「義理立てすることもないだろ。いっちゃえよ」
「俺、やばい金、持ち出して、こ、殺されかけ、いや、殺された。それを、助けてくれた。ぎ、義理はある」
「──いっておくが、貴様は死んでるままだぞ。死人の核が体を動かしてるだけだ」
「し、知ってる。それでも、俺……」
 酒井は首をひねった。考え事をするときの悪癖で、敵からも考え中だと看破されてしまうため、上司や同僚からは治せといわれ続けていた。たぶん、これからもいわれ続けるだろう。

カテゴリ

トラックバック(0)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: 小説「死神の手(仮)」5

このブログ記事に対するトラックバックURL: http://asakawa.sakura.ne.jp/cgi-bin/mt/mt-tb.cgi/78

コメントする


画像の中に見える文字を入力してください。

このブログを購読

購読する

このブログ記事について

このページは、浅川こうすけが2007年6月22日 18:03に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「小説「死神の手(仮)」4」です。

次のブログ記事は「小説「死神の手(仮)」6」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

最近のコメント

Powered by Movable Type 4.01