小説「死神の手(仮)」8
体格と比例するように顔も小さく、陶器を思わせるような滑らかな肌だった。涼やかな目元には力がこもり意思の強さを伝えている。スカートと同じで動きやすさに重きを置いているのか、髪型はショートカットであった。脱色したり染めたりせず黒髪のままなのは、夜闇にまぎれやすくするため──と、これはさすがにうがちすぎか。
彼女や斧について訊きたいことは山ほどあったが少女は戦う気満々だ。問いかけてもすべてには答えてくれまい。まずはもっとも重要な疑問を確かめるべきだった。
「貴様、その男の──」
仲間か? と問おうとしたが、
「問答無用です!」
斧の一振りにさえぎられた。
跳び退ってかわす。
不意を突かれさえしなければ、少女の振る斧など脅威でもなんでもない。
おそらくは、自身の小さな体をカバーするために重い斧を武器として使用しているのだろう。だが、小さな体で巨大な斧を振ろうとしているので、どうしたって予備動作がおおきくなる。スピードがのるのにも時間がかかる。あきらかに武器のチョイスミスだ。
斧をよけながら酒井は首をひねった。今夜この場所に生ける死人があらわれるというのは、未来予知によってわかっていた。予知から十五分遅れたが、それくらいのずれはいつものこと。珍しくはない。だが、死神の使いになってから今日まで、勤務中に邪魔されたのははじめてだった。
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