小説「死神の手(仮)」9

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 斧をよけながら酒井は首をひねった。今夜この場所に生ける死人があらわれるというのは、未来予知によってわかっていた。予知から十五分遅れたが、それくらいのずれはいつものこと。珍しくはない。だが、死神の使いになってから今日まで、勤務中に邪魔されたのははじめてだった。
 未来予知では、死神の使いが生ける死人と遭遇する時間と場所がわかるのである。逆にいえば、時間と場所しかわからない。遭遇のシチュエーションや、ターゲットの人数などはまったくわからないときている。生ける死人たちは単独で行動するので問題にならなかったし、酒井も同僚も気にしていなかった。
 生ける死人同士で助け合ったりするとは考えづらかったが、いま相対している斧少女もターゲットかもしれなかった。たしかめる方法はひとつだけ。死神の手で核を探すのだ。
 酒井は振り下ろされる斧をかいくぐり、右肩から死神の手を出現させた。実物の手と同じで二本あるのだった。
 斧少女の胸へむけまっすぐにのばす。
 彼女は斧を振り下ろした反動で動けない──はずだった。
 死神の手が空をつかんだ。
 視界の外で空気がうなった。少女が斧を振り上げたのだと直感で理解する。
 酒井が少女のほうをむいたのと、巨大な斧が振り下ろされたのは同時だった。
 速い! と電気信号的な思考が舌を巻いた。死神の手をよけられたときもそうだが、斧を振り下ろす速さもいままでのおっとりスピードとはくらべるべくもなかった。
 よけられない。
 瞬間的に確信した。

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このページは、浅川こうすけが2007年6月28日 18:05に書いたブログ記事です。

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