小説「星人募集中1」(推敲前)

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 折原誠は最後の非常食を飲みこんだ。
 仲間のクルーを探しはじめて今日で三日目になる。脱出ポッドに備えられていた食料は一日分しかなかった。遭難した不運に嘆きながらも、食料を三倍もたせたのだ。
 非常食は生存のための備蓄ではない。銀河系からはるかはなれた星系で遭難して、無事でいられるわけがないのだ。非常食があろうかなかろうが、遅かれ早かれのたれ死に。宇宙船の脱出ポッドに非常食が備えられているのは、たんに人道上の問題をクリアするためだった。
「名もない惑星で遭難か」
 苦笑が浮かんだ。泣いても貴重な水分が失われるだけだ。開き直るしかなかった。
 折原たちの乗った宇宙探査船は、突如遭遇した隕石群にエンジンと噴射ノズルを破壊されてしまった。身動きがとれなくなった宇宙船は惑星の重力につかまり墜落。クルーたちは脱出ポッドで逃げおおせたが、ばらばらになってしまったのだった。
 名もない辺境惑星にただひとり。こんな心細いことがあろうか。
「だが、それでもオレはラッキーだぞ!」
 折原は青空にむかって吠えた。気持ちいいくらい声が響いた。見渡せばどこまでも続く草原がひろがっている。宇宙服を着ていなくても生きていける惑星だった。もっとも、未知の病原体がいるかもしれないが。
「そんなの知ったことか! うおおおおおお!」
 折原は叫びながら疾走した。ゴールは二〇〇メートル先の小高い丘だ。
 バカな行為という自覚はある。走る必要も、叫ぶ理由もなかった。だが、精神のガス抜きが必要だった。神経が張りつめたままでは、いつ発狂してもおかしくない状況なのだ。

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このページは、浅川こうすけが2007年8月 3日 22:30に書いたブログ記事です。

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