小説「星人募集中2」(推敲前)
折原誠は丘を一気に駆けあがった。無駄なカロリーを消費しているなと、心の一部が皮肉っていた。
丘の上からは草原が一望できた。吹く風に草が波打っている。
折原の鼻が匂いにひくついた。風に運ばれてくる草いきれにではない。肉の焼ける香ばしい匂いが、かすかにしているのだ。
腹の虫が鳴いた。口中に唾液がじわりとにじむ。脳からの命令をまたずに、脚が走り出していた。
だれが肉を焼いているかなど考えられなかった。なんの肉かもおかまいなしだ。
「肉、肉、肉!」
かすかな匂いを追って駆けた。走れば走るほど匂いが強まってくる。空腹の身体が匂いを正確にトレースしていた。人間にこんな能力があったとは意外だった。
どれほどの距離を走ったのか。もうひとつ丘を越えると森が姿をあらわした。森の入口には焚き火がくまれ、煙がたちのぼっている。
折原の鼻は敏感に匂いを感じとった。肉の焼ける匂いは、その焚き火からしているのだ。
「肉!」
ひとの姿は見えなかった。焚き火だけがポツンとあるだけだ。肉を刺した串が三本、火にあたる角度で地面に刺さっている。
折原は焚き火に駆けより、生焼けの肉にむしゃぶりついた。筋張った肉で、おまけに生焼け。なかなか噛み切れなかった。しかし、口腔にひろがる野趣あふれる味に涙がでそうになった。
焚き火のそばには竹筒があった。想像通り、なかには水がはいっていた。噛み切れなかった肉は水で流し込んだ。
三本すべてたいらげて、ようやく人心地つけた。満足のため息をつき口元をぬぐう。そこでようやっと、疑問がわいた。
だれが焼いた肉なのか、と。
そして、なんの肉なのか、と。
ふと思い出した。不時着してから今日まで、動物はおろか虫のたぐいすら見ていなかった、と。
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