小説「星人募集中3」(推敲前)

| | コメント(0) | トラックバック(0)

 ひさしぶりの満腹感と、ふってわいた疑問によって注意力がにぶっていた。
「動くな。ゆっくり両手をあげろ」
 固いなにかを背中に押しつけられるまで、男の接近に気づけなかった。固いなにかが銃の先かどうかはわからない。
 折原は両手をあげながら、
「地球の言葉だな。ギャレット号のクルーか?」
 ギャレット号とは乗ってきた宇宙船の名であった。この惑星のどこかに墜落しているはずだ。
「ギャレット号?」
 背後の男がつぶやいた。尻上がりのイントネーションだ。知らないとみえる。
「三日前にこの惑星に墜落した宇宙船だ。見てなかったのか? ここから距離は離れているが、かなりのおおきさで火を吹いてたんだがな。そうとう目だってたはずだ」
「知らないな。そんなもの」
 背後の男がにべもなくこたえた。
 ポッドで脱出するさい、射出の角度によっては想定以上に飛んでしまうことがある。思った以上に距離が離れてしまっているらしい。どうりでほかのクルーと会えないはずだ。
 ──いや、そんことよりいまは。
 背後の男の正体が気になった。ギャレット号のクルーではないのに地球の言葉をしゃべっている。してみると、自分たちのほかにも、この惑星に不時着している地球人がいたのだ。
「なあ。ここにあった肉はあんたのかい? 勝手に食って悪かったよ。でも、腹がすいてたんだ。かんべんしてくれないか」
 折原はおどけた調子で話しかけてみた。
「とりあえず、背中にあたってるのをどけてほしいんだけどな」
「──なにもしないか?」
「ああ、もちろん。なにもしやしないよ」
 背後の男がすなおに武器をさげてくれた。
 折原は彼を刺激しないように、両手をあげたままゆっくりと振りかえり、
「あ、ああ」
 と、いったっきり絶句してしまった。

カテゴリ

トラックバック(0)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: 小説「星人募集中3」(推敲前)

このブログ記事に対するトラックバックURL: http://asakawa.sakura.ne.jp/cgi-bin/mt/mt-tb.cgi/104

コメントする


画像の中に見える文字を入力してください。

このブログを購読

購読する

このブログ記事について

このページは、浅川こうすけが2007年8月17日 09:20に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「小説「星人募集中2」(推敲前)」です。

次のブログ記事は「小説「星人募集中4」(推敲前)」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

最近のコメント

Powered by Movable Type 4.01