小説「星人募集中10」(推敲前)
折原は肩を押されてつんのめった。
だがしかし、肩を押されたと思ったのは錯覚だった。押されたのではなく、弾丸がかすめた衝撃なのだ。
「ぐわ!」
と悲鳴をあげたのは折原ではなかった。
岡島が胸を真っ赤に染めている。被弾したのだ。
自分のせいだという慙愧の念が頭をよぎった。駆けださなければ山田も刺激されなかったはずだ。
「すまない」
と心のなかであやまり、折原は走る方向をかえた。もうひとりの岡島にむかう。多勢に無勢である。人質をとらなければ逃げられそうになかった。
岡島にむかって手をのばして、またつんのめった。
弾丸がかすめたのではない。だれかに足首をつかまれたためだ。
「逃がじま、ぜんよ」
足首をつかんだものがそういった。にごった声なのは肺に血が貯まっているからか。撃たれたほうの岡島であった。
「なんで!?」
瀕死のはずだ。逃亡者など気にかけている余裕はないはず。自分の命よりも逃亡者を捕らえるほうが大事なのだろうか。
「離せよ!」
折原は岡島の顔面を蹴った。けが人を足蹴にする行為に良心が痛む。だが、足は蹴りつづけた。
手が離れた。
──いましかチャンスはない!
と、折原は起きあがろうとした。
「逃がしませんよっていってるんです!」
横合いからタックルされた。もうひとりの岡島だ。ふたりで草原を転がる。
両腕が腹にまわされ、逃げられないようにがっちり固定されていた。その細い腕のどこに、と思われるほど力が込められている。はずれない。
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