コンビニの不思議な男
なぜ「そうなのか」「そうするのか」を考えるとおもしろいときがありますよ、奥さん。
仕事帰りにコンビニによりましてね。家に帰って食事のしたくをするのも面倒なので、夕食を買っていこうと弁当のコーナーをのぞきにいったんですが、まあ聞いてくださいよ若奥様。
弁当コーナー前には男性の客がひとりで立っていました。定年間近か定年直後といったくらいのお歳に見えますね。じっと並んだ弁当を睨んでいるわけです。
それだけならどうということもないのですが、立ち位置がちょっぴりおかしい。弁当から離れすぎているんですね。弁当コーナーのむかいには、惣菜パンがならんだ棚があるのですが、そこに背中がくっついてしまっているのです。弁当を吟味しているにもかかわらず、弁当から最大限距離をとっているのです。ね、奥さん不思議でしょ。
なぜそうするのか考えてみましたよ。いの一番に妥当な回答を思いつきました。たぶん、その距離が目のピントがあいやすいのでしょう。こういうと失礼かもしれないが、その男性は老眼じゃないかと、そう考えたわけなんですよ。
でもね、だとしてもやっぱりおかしい。惣菜パンの棚に背中をつけているんですよ。いい歳をした大人が。邪魔になっていることくらいわかりそうなものです。
常識がないようなかたには見えません。髪型はビシッと整えられていますし、服装も普段着のラフなものではありますが、しっかり洗濯されてアイロンもかけられています。
わたしは男性の前をふさぐようにして、弁当の吟味をはじめましたよ。意地悪とかそういうことではないですよ、若奥さん。弁当を買うためにコンビニにはいったんですよ、わたしゃ。
混んでるコンビでは、ほかの客の視界を横切ったり、ふさいだりしてしまうことがたびたびあります。そういうとき、相手の客はちょっと横にずれたりします。
でも、この男性は違った。微動もしません。表情を盗み見ても、視界をさえぎられたいらだちの色すら見えません。
もしかして、弁当を選んでいるわけではないのでは?
わたしはようやっとそのことに気づけました。不思議に思いながらも、わたしはレジで清算をすまし、コンビニをあとにしましたよ。
──男がなにをしていたのか真相の解明なんてありません。賢明な奥さんに解いていただいて、わたしに教えていただきたいくらいです。
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