2007年4月アーカイブ
なれていないと単純な作業でもドキドキしてしまう。おそらく、正解への道筋がはっきりと把握できないためだろう。ひどいときには正解そのものがわからなかったりする。いまやっている作業は正解か否かがわからないため、緊張状態になってしまうにちがいない。
さて、ひさしぶりに新しいパソコンを自作した。今回購入したCPUは「Core 2 Duoファミリーの新モデル」エントリでふれたIntelのCPU「Core 2 Duo E6320」である。このCPUが緊張の元だ。
わたしは長らくPentium 4を使用していた。Pentium 4よりあとにリリースされたCPUには、今回購入したE6320までふれたことがない(使っていないという意味ではなく、文字通りさわっていないということだ)。パソコンを自作されるかたは、わたしがなにをいわんとしているか察しがついただろう。ご想像の通りである。
IntelのCPUについて説明が必要だろう。Pentium 4にはマザーボードと信号のやりとりをするピンがついていた。正方形のダイにびっしりとピンが並んでいるのだ。マザーボード側にはびっしりと穴のあいたソケットがついている。この穴にCPUのピンが挿入されるのだ。しかし、Pentium Dからはこれが逆になる(正確にいうと単純に逆になったわけではないが、その説明については割愛する)。自然、CPUの取りつけかたもかわってくるのだ。はじめてなので手順がわからず、安い買い物ではないので、マニュアルの画像を見ながら取りつけた。単純な作業だが、これでいいのか、これでいいのか、と終始じぶんへの確認もおこたらない。
失敗を期待したかたもおられようが、CPUの取りつけは成功した。従来とくらべて、どちらがカンタンだということもなかった。次回からは緊張することもないだろう。
問題となるのはリテールクーラー(CPUメーカーの用意したCPUクーラーだと思いねえ)のほうだ。取りつけかたじたいは非常に単純になった。道具もいらない。リテールクーラーの四隅にプラスチック製の杭(正式名称は失念した。杭というのはわたしのイメージだ)があり、指で押しこむだけだ。この押しこみがむずかしかった。杭が固定されたときの手ごたえが弱く「はいった」という感触に乏しいのだ。1回目は力いっぱいに押しこんでしまい、マザーボードからいやな音がした。2回目には無意識に力の加減をしてしまい、なかなか食いこんでくれない。セットできても「はいった」感触が乏しいので、PCの電源をいれるまでは安定動作してくれるのか不安だった。
リテールクーラーの取りつけで緊張したのは、まさに正解かどうかわからなかったためだ。「いいのか、これで」と常に不安がつきまとっていた。PCの電源をいれる直前にリテールクーラーがとれたりしないか心配だったのだ。CPUはLGAでもPGAでもいいが、CPUクーラーは従来のほうが取りつけやすくはなかろうか。これもなれの問題だろうか。
ゴールデンウィーク(以下GW)だ、連休だと、大多数のかたが浮かれている。GWといったって休めないよ、と少数のかたが憂い嘆いている。想像してみるにGWをよろこんでいるのは、学生や公務員に代表にされるような、暦どおりに休みをとれるかたたちではないだろうか。逆にGWに休めないかたは客商売のかただろう。とくに観光地などではGWがかきいれどきにちがいない。ほかにはどんなパターンがあるのか──わからない。わたしの矮小な脳ではここまでが限界である。
さて、わたしは学生でもなければ公務員でもなく、厳密な意味での客商売ではない(広義では客商売にふくまれるかもしれないが)。暦どおりに休みはとれないし、だからといって休みがないというわけではない。自然、飛び石連休になる。GWだから休みをとるわけではなく、GWをきっかけに休みを消化するという考え方だ。学生のかたには「休みを消化する」といういいかたは、ピンとこないかもしれない。社会人にはいろいろあるのだ。
社内で飛び石連休をとるのは、わたしだけではない。もちろん、ほかの社員もとる。GWだから休んでもらわないと困る、ということをエライさんがいうのだ。なかば休みを強制されるのである。何人もが同時に休むので、出勤している人間にしわ寄せがきてしまう。客商売というわけでもないのにGWはとにかく忙しいのだ。
だから、GWだからといってどこかに遊びにいくわけではない。自宅でだらだらすごすだけである。
いや、ゴキブリホイホイは進化してるのだね。びっくりしたよ。ゴキブリホイホイの実物を見たのは二十年ぶりくらいになる。わたしの知らないあいだに人間対ゴキブリのあらそいも、またかわっていたということか。
進化したゴキブリホイホイには足ふきマットがついている。従来モデルでは、ゴキブリの体に付着したほこりや水気が、ゴキブリを粘着シートから保護する問題があった。足ふきマットのうえをゴキブリがとおれば、埃や水気がとりのぞかれるという。ゴキブリが粘着シートにくっつきやすくなるのだ。
ゴキブリホイホイを購入したのは、ゴキブリがでたからにほかならない。例年よりずっと早い。今年は苦戦の予感がする。発見即デストロイという去年までの戦術は通じないかもしれない。そんな危機感があり、トラップも併用する方法へとスイッチしたのだ。
ゴキブリホイホイを購入するために、格安を売りにするホームセンターへおもむいた。レジそばの一角に、すでにゴキブリコーナーができているではないか。わたしは長年、殺虫スプレーを愛用していたため、トラップ系にはとんと興味がなかった。だが、十種類以上の害虫駆除グッズが陳列されているところを見ると、世の中ではトラップ系が主流だったのかもしれない。ゴキブリホイホイ以外はちょっとお高かったので、無難にゴキブリホイホイを選択したが、べつのトラップを買って試してみるのもおもしろいかもしれない。
ゴキブリホイホイをしかけて、すでに4時間くらいたっているか。いくらなんでも、まだひっかかってはいないだろう。ひさしぶりのゴキブリホイホイなので、ちょっぴり楽しみである。
オンライン小説なオリジナル小説サイト・うにたなは手探りで運営していたりする。隅から隅まできっちり決めてから開設したのではない。まずは開始。徐々に形を整えていくのである。カテゴリ「頭がいい人、悪い人のオンライン小説執筆術」で顕著だろう。「頭のいい人ほど、オンライン小説執筆でバックアップをとります」と「頭のいい人ほど、オンライン小説でキャラクターを生かそうとします」を読み比べていただけると一目瞭然だ。とりあえずはじめてみる。そして、いろいろと試行錯誤して理想の形を探っていくのだ。
カテゴリの分け方にしてもそう。「頭がいい人、悪い人のオンライン小説執筆術」と「短編小説」以外のエントリは、なんでもかんでも「ブログ」カテゴリにほうり込んでいる。共通する話題の記事がそろえば新たにカテゴリを作成するつもりだった。過去形である。ことはそう単純にはいかないのだ。オンライン小説なオリジナル小説サイト・うにたなではカテゴリごとにディレクトリを作っているのである(「Movable Typeとアーカイブ・マッピング」を参照されたし)。この振り分け方法だと、エントリページのカテゴリを変更すると新たなディレクトリにコピーされてしまうのだ。管理がややこしくなってしまう。
Movable Typeのデフォルト設定では月ごとにディレクトリが作成される。そこにエントリーファイルが保存されるのである(じつは記憶があやふや。そうなっていたと思う)。なるほど。日付で管理されているなら記事のカテゴリを変更しようがファイルが重複しない。よく考えられている。というよりも、わたしが余計なことをしたということか^^;
オンライン小説において、いきたキャラクターを書こうとしても、なかなかうまくいかないものです。オンライン小説でキャラクターをいかすためには現実にいそうだと読者に思わせればよい。そう耳にしたことがあります。
オンライン小説のキャラクターに現実味をもたせる手段として、そのキャラクターしか知りえない情報を持たせるという方法があります。料理人を書く場合に料理のうんちくをいわせたり、酒飲みであれば酒に対して一家言をもたせたり、という方法です。この方法だけを抜き出せば小手先ととられそうです。しかしなければないで、オンライン小説でキャラクターの奥行きが感じられないでしょう。キャラクターに特定の情報を持たせる方法は、そのキャラクターをいかすために十分な条件ではなく、必要な条件なのではないでしょうか。
先日、テレビのチャンネルがかわらなくなりました。リモコンの電池をかえたりしてみたのですが、改善されません。故障です。電器屋へリモコンを持参しました。できればその場でさくさくっと修理してもらいたいのですが、無理そうなら同等品の取り寄せを考えていました。ところがですね、奥さん。電器屋の店員がですよ。おもむろに携帯電話を取り出してカメラのレンズへむけてリモコンを操作するではないですか。
「あー。リモコンは正常に動作しています。故障してるのはテレビの受光部ですね」
携帯電話でなにがわかるのかと、不思議に思うじゃないですか。もちろん訊いてみましたよ。
「ほら見てください。リモコンからはちゃんと発信してるでしょ」
携帯電話のディスプレイを示されます。なるほど。ボタンを押すたびにリモコンの発信部がテロテロ光っているのが見えます。どのボタンを押しても光るので、リモコンは正常だということなのだ。リモコンの発信部を肉眼で見ても光っているようには見えない。電器屋の店員だから知っているトリビアというところか。
オンライン小説で電器屋の店員を登場させるときは、ぜひ上記エピソードを利用したい。固有の情報を持たせるという法にのっとれば、電器屋の店員というキャラクターに現実味をもたせる一助になりそうです。
Intelから新しいCPUが登場しましたね。Core 2 Duoファミリーの下位モデル「E6420」と「E6320」および「E4400」です。
実はわたくし、E6300を購入しようと思ってました。E6600とどちらにしようかと悩んだのですが、しかしCore 2 Duoでもっとも格安なお値段というのに魅力を感じたのです。L2キャッシュは2MBなのですが、そこはそれ、オーバークロックのお楽しみもあります。
もうE6300にしようと固く決めていたのですが、Intelさんが市場に新たなCPUを繰り出してくれました。上記の3モデルです。E6420とE6320は、L2キャッシュが従来の2MBから4MBになっているのに、E6400やE6300とくらべてお値段はほとんどかわっていません。
お、お、お、お、おっかいどく~。
わたしゃ今度こそ決めましたよ、奥さん。E6320を買うことにしましたよ。もし万が一品薄とかで入手が無理っぽそうなら、E6420に鞍替えしちゃいます。E6420も物がでまわらないようであれば──涙で枕を濡らします。
NvidiaからGeForce8600GTも発売されましたし、ドライバもVistaに対応してきています。本格的な夏を迎えるころには、わが愛機もそうとうパワーアップしていることでしょう。
なぜ「そうなのか」「そうするのか」を考えるとおもしろいときがありますよ、奥さん。
仕事帰りにコンビニによりましてね。家に帰って食事のしたくをするのも面倒なので、夕食を買っていこうと弁当のコーナーをのぞきにいったんですが、まあ聞いてくださいよ若奥様。
弁当コーナー前には男性の客がひとりで立っていました。定年間近か定年直後といったくらいのお歳に見えますね。じっと並んだ弁当を睨んでいるわけです。
それだけならどうということもないのですが、立ち位置がちょっぴりおかしい。弁当から離れすぎているんですね。弁当コーナーのむかいには、惣菜パンがならんだ棚があるのですが、そこに背中がくっついてしまっているのです。弁当を吟味しているにもかかわらず、弁当から最大限距離をとっているのです。ね、奥さん不思議でしょ。
なぜそうするのか考えてみましたよ。いの一番に妥当な回答を思いつきました。たぶん、その距離が目のピントがあいやすいのでしょう。こういうと失礼かもしれないが、その男性は老眼じゃないかと、そう考えたわけなんですよ。
でもね、だとしてもやっぱりおかしい。惣菜パンの棚に背中をつけているんですよ。いい歳をした大人が。邪魔になっていることくらいわかりそうなものです。
常識がないようなかたには見えません。髪型はビシッと整えられていますし、服装も普段着のラフなものではありますが、しっかり洗濯されてアイロンもかけられています。
わたしは男性の前をふさぐようにして、弁当の吟味をはじめましたよ。意地悪とかそういうことではないですよ、若奥さん。弁当を買うためにコンビニにはいったんですよ、わたしゃ。
混んでるコンビでは、ほかの客の視界を横切ったり、ふさいだりしてしまうことがたびたびあります。そういうとき、相手の客はちょっと横にずれたりします。
でも、この男性は違った。微動もしません。表情を盗み見ても、視界をさえぎられたいらだちの色すら見えません。
もしかして、弁当を選んでいるわけではないのでは?
わたしはようやっとそのことに気づけました。不思議に思いながらも、わたしはレジで清算をすまし、コンビニをあとにしましたよ。
──男がなにをしていたのか真相の解明なんてありません。賢明な奥さんに解いていただいて、わたしに教えていただきたいくらいです。
じつはいまだにブラウン管式のモニタを使用しています。ソニー製で、前面右肩にMultiscanG500と記されています。型番は──見るのが面倒^^;
壊れたら液晶タイプに買い換えるつもりなのですが、丈夫にできていてなかなか壊れません。メーカーはソニーなのですが、巷でいうタイマーは内蔵されていないようです。
もう何年くらい使っているのだろうか。少なくとも購入してから7年はたっているはず。表示に関してはなんの不満もないのですが、たったひとつ気になる点がございます。
とくかく重い。
21インチの平面ディスプレイといって重さの想像がつくかたは少ないでしょう。パソコン用に作られた木製ラックを使っているのですが、モニタがのっている天板がゆがんでいます。
なにかのひょうしに天板がわれて、モニタが足に落ちてくるんじゃないかと想像すると、ちょっと恐いです。
モニタが落ちてきてわたしの足をつぶす前に、液晶ディスプレイに買い換えたいのですが、さて、いつになることやら。
いま、地球人は選択を迫られていた。
UFO研究家が感涙にむせんで、はや三年になろうか。記念日となったあの日、宇宙の彼方から飛来してきたUFOは、円盤型でも葉巻型でもなかった。巨大な白玉の真ん中に、エメラルドグリーンの瞳が輝く眼球だったのだ。
地球人たちが戸惑いつつ見守るなか、はたして眼球が泣いた。陽光にきらめく涙が数粒、地上にむかって落下してくる。
着地した涙たちには小さな手足が生え、かわいらしい目も開いた。マスコットキャラクターかと見まごうばかりの彼らは、外宇宙からやってきた知的生命体であったのだ。
人びとは温厚な彼らを歓迎し、抱擁をもってむかえた。ある婦人などは、宇宙人の愛らしさに、五分以上も抱きしめていたほどだ。
地球を気にいった宇宙人たちが、お願いをしてきた。故郷の同胞にもこの星を紹介したいので、遊びにくるよう誘ってもよいか、と。
人類はみな、こころよく同意した。
そして、三年後にやってきたUFOは、円盤型や葉巻型ではなく、眼球ですらもなかった。
巨大なヒップだったのだ。
いま、臭い立つ宇宙人たちが、ブリブリと降りてくる。
官能小説ってジャンルとしてはアダルトにふくまれるのだろうか?
わたしはふくまれると考えました。
当サイト「オンライン小説なオリジナル小説サイト・うにたな」の開設からきていただいているかたならご存知でしょうけど、一時期、官能小説をアップしていました。一応、リンクは隠していましたが、読まれないと寂しいので、すぐに発見されるだろう場所に貼っていました。
ですが現在、この官能小説へのリンクははずしましたし、ファイルも削除しています。
「オンライン小説なオリジナル小説サイト・うにたな」は「さくらインターネット」さんのサーバーでを開設させていただいてるんですが、よくよく確かめてみるとアダルトはダメと書かれているじゃありませんか。
だから、官能小説を削除したのですね。
もちろん、「オンライン小説なオリジナル小説サイト・うにたな」はアダルトじゃございません。アップしていた官能小説も、わたしが「これは官能小説である」といいはるから官能小説なのであって、世間でのジャンルはどうなるかはわかりません。コメディだという人のほうが多いかもしれない。
「さくらインターネット」のいうアダルトというのは、画像や広告がべたべた貼られたサイトであって、厳密な意味でのアダルトを指しているわけではないと思うんです。あのまま官能小説をアップしていても、「さくらインターネット」から「コラッ!」と怒られることもなかったのかもしれません。
不安なら「さくらインターネット」のスタッフにお伺いをたててもよかった。あの内容なら、たぶん「OKです」といわれたとも思う。
お伺いもたてずに官能小説を削除したのは、面倒くさかったというのもあるのですが、官能小説はその内容にかかわらず、官能小説とうたった段階で立派にアダルトに分類されると、そう考えたからです。
ただ、それはわたしの独りよがりなんですけどね。
Movable Typeがバージョンアップしていた。
いつの間にやら、だ。
いや、正確な日付はわかっている。2007年4月17日だ。わたしがバージョンアップを見逃していただけである。
Movable Typeの日本語版は3.35になっていた。修正点はセキュリティ上の不具合への対策と、インストールの簡略化だとか。インストール簡略化はともかくとして、セキュリティ上の不具合対策は魅力だ。いますぐにでもアップグレードを行いたい。
だが、しかし、Movable Typeを御しきれず振りまわされているばかりのわたしがアップグレードを行うと、なにもかもがめちゃくちゃになるような気がする。もう少しMovable Typeに馴れてからでないと、アップグレードするのはちょっと恐いなあ。
Movable Type 3.35のバージョンアップで、わたしにも関係のありそうな箇所は、コメント・プレビュー画面でスクリプト実行を許す脆弱性への修正でしょう。具体的には不明なんですが、これを利用されるとちょっぴり困ったことになりそうです。実際にスクリプトを実行するものがあらわれるかは別にして、脆弱性があるのは不安です。早めにアップグレードしたいですね。
以下、six apartからの引用です。
3.34から3.35の変更点インストール作業の簡略化
mt.cgiにアクセスしたときに構成ファイルが用意されていない場合、自動的にmt-wizard.cgiにリダイレクトされるようになりました。コメント・プレビューでクロスサイトスクリプティングを許す脆弱性
コメント・プレビュー画面でスクリプト実行を許す脆弱性がありました。この不具合を修正しました。convert-dbおよびmt-db2sql.cgiで文字化けする可能性
convert-dbおよびmt-db2sql.cgiで別のデータベースに移行すると移行先のデータが文字化けする可能性がありました。この不具合を修正しました。MTDateタグでutc属性を利用すると夏時間の間に不正な日付が出力される
MTDateタグでutc属性を利用すると夏時間の間に不正な日付が出力される不具合がありましたが修正しました。テンプレートの名前カラムのサイズを拡張
テンプレートの名前カラムのサイズを拡張しました。これに伴い、データベーススキーマが更新されました。
NVIDIAからGeForce8ファミリーのミドルレンジ向けGPUが発表されましたね。
現在のミドルレンジ最上位となる「GeForce8600GTS」と、ミドルレンジオブミドルレンジ「GeForce8600GT」、ミドルレンジの下位モデル「GeForce 8500 GT」です。
わたしはGeForce6ファミリーのGeForce6600GTを使用しています。2世代前のモデルを使っているわけは、マザーボードが古く、GPUを利用できるスロットがAGPのため。WindowsVistaが発売されたので、メインマシンを一新する予定だったのです。GeForce8のミドルレンジがでるまで待っていました。ようやっと新しいPCが組めます\(^o^)/
ドライバの作りこみがたりなかったり、しょせんミドルレンジの性能といわれそうですが、GeForce6600GTとくらべれば、格段にパワーアップされております。オンラインゲームのMMORPGをプレイするくらいであれば、十分なスペックでしょう。
GeForce8ファミリーのミドルレンジは2007年4月17日に発表され、18日に発売されたらしいので、極端に品薄だったりしないかぎり、すでに店頭にならんでいるはず。仕事があるので、今週はちょっと手がだせませんが、来週中には新しいメインマシンを組みたいですね。
ちなみには、わたしが使用しているモニタは液晶ではなく、ブラウン管式(正確にはトリニトロン管)なんですよね。液晶では関係ないのですけど、ブラウン管だとリフレッシュレート60Hzだとちらつきます。せめて75Hzにしたい。現在のForceWareではリフレッシュレートの変更ができませんが、レジストリをいじれば可能となります。
HKEY_LOCAL_MACHINE\SOFTWARE\NVIDIA Corporation\Global\NVTweak
に、
"NvCplDisableRefreshRatePage"=dword:00000000
を追加すればリフレッシュレートを変更できるようになります。
GeForce8600GTを入手し、新しいパソコンを組んだあと、忘れずに変更しなければ。
オンライン小説を書いているかたで、頭のいい人は必ずバックアップを保存しています。
バックアップというのは、今回の場合、書きあげたオンライン小説を失くしてしまわないように予備を保存しておくことです。
完成したオンライン小説のファイル名を「オンライン小説.txt」と名づけているとして考えてください。操作のミスなどで、「オンライン小説.txt」を消去してしまったり、内容を書きかえてしまっては、泣くに泣けませんよね。予備があれば、消去してしまった「オンライン小説.txt」を元に戻せます。
「オンライン小説.txt」のバックアップをとる方法はカンタンです。どのアプリケーションでも、ファイルメニューのなかに「名前を付けて保存」があると思います。「名前を付けて保存」をクリックして、ファイル名の欄に「オンライン小説予備.txt」や「オンライン小説.bak」と、バックアップファイルとわかる名前をつけて保存するだけです。
ただし、この方法だけだと、同じフォルダに似た名前のファイルが並ぶことになりますので、バックアップファイルは別のフォルダに移動させたほうがいいでしょう。
マイドキュメント内やCドライブのルートなどに新しいフォルダを作成してください。「オンライン小説バックアップ」とか「バックアップ原稿」と、オンライン小説のバックアップであると、ハッキリわかるフォルダ名をつけたほうがわかりやすいでしょう。
新しく作成したフォルダに、「オンライン小説予備.txt」や「オンライン小説.bak」をマウスで移動させてください。
できるなら、CD-RやUSBメモリなど外部メディアへの保存もおすすめします。
HDDは消耗品ですので、今日使えるからといって明日も大丈夫とは限りません^^;
IntelからLinuxベースの新しいモバイルプラットフォームMIDが登場するらしいです。
ウルトラモバイルPC「オリガミ」と同種のコンセプトかしらん。ビジネスむけとして発売されているオリガミと違いコンシューマーをより意識しており、主な用途として動画、音楽、ゲーム、テレビがあげられています。もちろん、Webブラウジングやメールの閲覧にも使用できます。
お値段もコンシューマーレベルになるのだとか。オリガミのときは手がだせませんでしたが、今回は魅力的なお値段になるかもしれません。
日本の一般的なユーザーから見て、いわゆるUMPCは、ノートPCと携帯電話(あるいはPHS)のあいだに位置づけられるのではないでしょうか。携帯電話でも、Webのブラウジングやメールのやり取り、ゲームに動画とひと通りは楽しめるようになりましたが、へビィに使いたいユーザーには物足りないかもしれません。
なにより、Intelの新しいモバイルプラットフォームMIDには、小さいながらもQWERTYキーボードがついています。これ魅力。いよいよとなれば、USBで外付けキーボードも接続できるのではないかと期待しています。
Movable Type(以下MT)を導入して、はや──何日になるのだろう。もうしわけない、忘れてしまった。
今回も、興味のないかたにはとことん興味がないだろうMTのお話し。
現在、MTでいろいろ試行錯誤中です。気にいったテンプレートがなかなかないので、ありものを修正したりなどして対応しています。いきなり1から作るのは無理と判断、あきらめました。MTの専用タグを多少なりとも覚えてからでないと、とてもとても……。
さて、前置きも終わり、ここからが本題。
先日投稿した「頭のいい人ほど、オンライン小説執筆で漢字のバランスに注意します 番外編」で、予想だにしないことがおこったのであった!
いや、わたしの頭がよければ予想くらいはできたのだけれど……。
まずは、「頭のいい人ほど、オンライン小説執筆で漢字のバランスに注意します 番外編」をごらんいただ──問題の部分を引用したほうが早いでしょうね。
置換欄には「\1なか」と入力します。
半角¥になるべき箇所が、バックスラッシュ(これね→\)になっています。半角¥とバックスラッシュのどちらでも正常に動作しますが、多くの日本語環境の場合バックスラッシュが表示されないので、読んでくれたかたに誤解をあたえてしまったかもしれません。
投稿するときに気づいていればよかったのですが、わたしの環境では半角¥ではなくバックスラッシュが表示されるようにしてありまして(Windows用のOsakaフォントはバックスラッシュで表示してくれます)、翌日になってからようやっと気づけました。
原因はエンコード(正確にいうならキャラクタエンコードになるのでしょうか?)の種類だと思われます。MTの場合デフォルト(あるいは推奨されているので、テンプレートがそうなっているのか)でUTF-8になっているためでしょう。
わたしもひとに話して聞かせられるほどよく理解しているわけではありませんので、非常に乱暴な説明をさせていただきます。
本来バックスラッシュだったキャラクタコードに、日本で独自に半角¥をわりあててしまったのが原因です。見た目の文字は違いますが、キャラクタコードは同じです。動作に支障がないのはそのため。
使用されているOSやブラウザの種類によっては、常日頃からバックスラッシュで表示されているかたもおられるでしょうけど、当サイトを見にこられるかたの大半のかたはとまどったのではないでしょうか。ごめんして
オンライン小説を執筆する場合、漢字をかなに置き換えたいときどうすればいいか。
という内容の記事を数回にわけて書いていますが、今回は番外編となりますよ奥さん。
「頭のいい人ほど、オンライン小説執筆で漢字のバランスに注意します その1」と「頭のいい人ほど、オンライン小説執筆で漢字のバランスに注意します その2」を読んでくれているという前提でお話しますね。
前回にあたるその2では、オンライン小説内にある「中」を「なか」に置き換えるために、2回置換を行いました。これを1回ですませてしまおうというのが、今回のテーマです。番外編なので、興味のない人は読み飛ばしちゃってください。
いきなり正解を書いてしまいましょう。
例)オンライン小説内の「中」を「ちゅう」に置き換える。置換を行うのは1回だけ。
オンライン小説を執筆するときに、いつもお使いになるアプリケーションを実行してください。
オプションメニューなどで、正規表現を使用できるようにしてください。
置換ウィンドウを開きます。
検索欄に「\f[なの]\f中」と入力します。
置換欄には「\1なか」と入力します。
全置換をクリックすれば、オンライン小説内にある「中」と「中」が「なか」に置き換わっており、開発中や中国などの「中」は漢字のままです。
「\f[なの]\f中」や「\1なか」といわれても、ピンとこないかもしれません。正規表現というルールで文字列を指定しているのですが、オンライン小説を執筆するときに、直接役にたつ知識ではありませんから。
ご使用のアプリケーションによっては、正規表現に対応していないかもしれません。そのときはごめんなさいです
おおざっぱに説明しますと、「\f[なの]\f中」というのは、「な中」と「の中」を意味しています。「\1なか」というのは、この場合、「ななか」と「のなか」を意味します。
上記の例では、「な中」と「の中」を探して、それぞれ「ななか」と「のなか」に置き換えてね、という意味になるんですね奥さん。
記号の意味はともかくとして、文字を置き換えれば応用がききますので、あなたのオンライン小説執筆にも役立つのではと思います。
オンライン小説を執筆するにあたって、正規表現を利用した検索や置換は、作者の強い味方になってくれます。
いずれしっかりと記事にしたいとは思いますが、今回は「こんな方法もありますよ奥さん」という程度にとどめさせていただきます。
Movable Type(以下MT)を導入して、はや一週間となります。
なにしろ、はじめてMTを使用しはじめましたから、毎日が試行錯誤です。設定をいじっては戻し、テンプレートを消してしまってはなおしと、頭を抱えつつもひとつひとつ学んでいます。まだ不可解な動作をするときもありますが、サイトを見てもらうにあたって、最低限の格好だけはついたかなと思います。
ただ、不思議なことに、エントリのファイル名(以下ファイル名)が「_.html」となるときがあり、いままではひとつひとつ手作業でなおしていました^^; (アーカイブ・マッピングの設定は「%c/%f」)。検索して調べてみると、エントリのタイトルが日本語で、かつ文字数が多い場合にファイル名が「_.html」となるようです。
そのつど手作業でなおしてもいいのですが、この先、ついうっかり忘れるときがきっときます。Pingやトラックバックの利便性を考えると、うっかり忘れるのは致命的。なんとかしたい。
そこで、アーカイブ・マッピングの設定を「%c/%e.html」に変更しました。ファイル名は「6桁のエントリID.html」となります。
ファイル名は日付にしようかとも思ったんですが、秒数までいれると桁数が多くなってしまうのでさけました(秒数までいれないと連続投稿した場合にファイル名がかぶる不安があったため。実際にファイル名がかぶった場合はどうなんでしょうかね?)。
ファイル名をエントリIDで管理した場合も、問題がないわけじゃないみたい。いずれかの記事を削除してからエクスポートを行った場合、削除された記事分のエントリIDがつまるので、ファイル名もずれていく問題があるようです(きちんと調べたわけないので記憶があやふやです。鵜呑みにしないでね^^;)。
オンライン小説を執筆する場合、頭のいい人は漢字を適度にひらがなにしています。オンライン小説は漢字ばかりとかひらがなばかりでは、とても読みにくくなるからです。
執筆しているオンライン小説原稿で漢字を使いすぎたなという場合、「頭のいい人ほど、オンライン小説執筆で漢字のバランスに注意します その1」で紹介している方法を利用して、漢字を適度にひらがなに置き換えたほうが、オンライン小説読者によろこばれるでしょう。
ところがですね、奥さん。上記のエントリでは問題が発生しています。オンライン小説原稿にあるすべての「中」を「なか」に置き換えてしまうと、「開発中」も「開発なか」になってしまうのです。
今回はオンライン小説執筆における上記問題への対処方法をご紹介します。
ただし、ちょっぴり想像力が必要です(オンライン小説を書いてらっしゃる奥さんですから、想像力は旺盛でしょう。わたしはなんの心配もしていません)。
問題が発生した原因は、「中」をひらがなにしたいがために、オンライン小説中のすべての「中」を「なか」と置き換えてしまったことにあります。「中」は「ちゅう」とも読みます。「ちゅう」と読む場合には、ひらがなにはしたくないのです。
ですからね、奥さん。オンライン小説の執筆で、「中」を「なか」と読むのはどんな場合かがはっきりすれば、検索条件をしぼりこめるのですね。
ここで想像力を働かせてください。オンライン小説内で「中」を「なか」と読むケースはどんな場合ですか?
ざっとあげると、
船の中、海の中、混乱の中、嵐の中、夢の中、そんな中、あんな中
ほんの一例です。まだまだあります。
ですが、よく見ると、数はあってもパターンはそれほどでもありません。「○○の中」とか「○○な中」という程度です。オンライン小説内で「中」を「なか」という読みでいくら使っていようとも、このふたつのパターンに集約されます。
例)「船の中」「嵐の中」など「○○の中」を「○○のなかに」とひらがなにする
まずは、オンライン小説を執筆するときにいつもお使いになるアプリケーションで、置換ウィンドウを開きます。
検索欄に「の中」と入力します。
置換欄には「のなか」と入力します。
全置換をクリックすれば、「○○の中」が「○○のなか」というふうに、ひらがなに置き換わっています。
例)「そんな中」「あんな中」など「○○な中」を「○○ななかに」とひらがなにする
まずは、オンライン小説を執筆するときにいつもお使いになるアプリケーションで、置換ウィンドウを開きます。
検索欄に「な中」と入力します。
置換欄には「ななか」と入力します。
全置換をクリックすれば、「○○な中」が「○○ななか」というふうに、ひらがなに置き換わっています。
この方法なら、オンライン小説原稿に多くの「中」がふくまれていても「なか」と置き換えられますし、開発中、混乱中、中国などは検索対象から外れますので、開発なか、となるようなこともありません。
──「中」を「なか」と読むパターンはほかにもあるかもしれません^^; ご存知のかたがいらっしゃいましたら、後学のためにお教えください
ソニーのPC、VAIOの新しいモデルが発表されました。なかでも、HDDを搭載せず32GBのフラッシュメモリを搭載というユニークなノートPCにひかれます。
モデル名はVAIOtypeGとなります。従来から販売されている法人向けノートPCで、BTOでの購入となります。HDDではなく32GBフラッシュメモリを選択すれば、あまり見かけたことのない大変ユニークなPCのできあがりです。
いままでのVAIOであれば、おもしろいな、使ってみたいな、と思うモデルは多かったのですが、買いたいとは思いませんでした。VAIOブランドで発売されるPCで、わたしが使ってみたいと感じるモデルは、えらく高価なのです。PCは趣味で使っているのに、50万なんてだせません。
フラッシュメモリ搭載のVAIOノートは、たしかに安くはありませんが、手の届かない値段というわけでもない。現実的なお値段です。
と、思っていたのですが問題発生。40GBのHDDから32GBフラッシュメモリに変更すると、約6万5000円も高くなるのです。
フラッシュメモリに変更するメリットは、バッテリーのもちがよくなるのと静音性だと思います。容量が減るのに目をつぶるとしても、バッテリーのもちと静音のためだけに6万5000円は、ちょっと手がだせません。安手の液晶ディスプレイが買えてしまう値段じゃないのよ、ねえ奥さん^^;
オンライン小説を執筆する場合、頭のいい人は漢字とひらがなのバランスを考えます。
オンライン小説は漢字ばかりとかひらがなばかりでは、とても読みにくくなるのです。パソコンを使用して小説を書くと、キーを押下するだけで漢字変換ソフトウェアが漢字にしてくれますので、漢字が多くなりがちです。
オンライン小説を漢字とかなのバランスに注目して読んでみると、よくわかっていただけると思います。実際に本屋に並んでいる小説を読むと(つまり、プロ作家の小説を読むと)、漢字とかなが絶妙のバランスで配置されていると気づかされるでしょう。
手書きの小説原稿では、おいそれと漢字をかなには置き換えられません。
ですがね、奥さん。
パソコンでの小説執筆なら、時間と手間の節約ができるんですね。
たとえば、オンライン小説中に「地団駄」があったとします。地団駄を踏むの地団駄。これをね、ひらがなに置き換える場合を考えてみますね。
例)地団駄をひらがなにする
まずは、オンライン小説を執筆するときにいつもお使いになるアプリケーションで、置換ウィンドウを開きます。
オンライン小説原稿のなかで地団駄を探すので、検索欄に「地団駄」と入力します。
見つけた「地団駄」をひらがなにしますので、置換欄には「じだんだ」とひらがなで入力します。
全置換をクリックすれば、「地団駄」が「じだんだ」というふうに、ひらがなに置き換わっています。
ただね、奥さんね。
上記はわかりやすい例をだしましたけど、オンライン小説では、もうちょっと複雑なケースもあるんです。
オンライン小説を書いているかたであれば、憧れの作家さんがいたりしますよね。そのかたの著作を拝読していて気づくわけです。
「あら? このセンセ、中をひらがなにしてらっしゃるわ」
憧れの作家先生です。あの人が中をひらがなにしてらっしゃるのならわたしも、となるわけです。
ところが小説原稿のなかには「中」だらけ。「船の中」とか「そんな中」とか、使いまくりです。手作業で小説中の単語を置き換えるのは手間です。
では、ということで、先ほどの例と同じよう方法で、「中」を「なか」に置き換えてしまっては痛い目を見るかもしれません。「開発中」という単語が小説原稿のなかにあった場合、「中」を「なか」に置き換えてしまうと、「開発なか」となってしまいます。では、どうすればいいのか?
──続きはその2で。
オンライン小説を執筆するうえで、頭のいい人は置換をうまく利用します。
置換機能を使えば、文字の置き換えがカンタンにできます。
たとえば、オンライン小説中にでてくる名前の置き換え。「山田次郎」というキャラクターを登場させているとします。
ところが、オンライン小説を書き進めていくと、名前とキャラクタイメージが合致しなくなってしまいました。「山田次郎」という名前を変えたい。「伊集院光利」にしたいという欲求がうまれたとします。
オンライン小説をチェックして、手作業ですべての「山田次郎」を「伊集院光利」にするのは大変で手間です。
もしかしたら、カン違いして「伊集院」ではなく「田中」と置き換えてしまうミスをするかもしれない。
なにより、時間の無駄です。
オンライン小説ですので、原稿用紙に書いているわけではなくパソコンで執筆しているでしょう。オンライン小説の登場人物名を置き換えるという単純作業はパソコンにまかせてしまったほうが、貴重な執筆時間の節約につながります。
例)山田次郎を伊集院光利に置き換える。
まずは、オンライン小説を執筆するときにいつもお使いになるアプリケーションで、置換ウィンドウを開きます。
オンライン小説のなかで山田次郎を探すので、検索欄に「山田次郎」と入力します。
見つけた「山田次郎」を「伊集院光利」に置き換えるので、置換欄に「伊集院光利」と入力します。
全置換ボタンをクリックすれば、オンライン小説中の「山田次郎」が「伊集院光利」に置き換わっています。
ただ、オンライン小説中でキャラクターがフルネームで登場することはまれでしょう。「山田次郎」で検索してしまうと、小説中の「山田」と「次郎」は別の文字列として判定されますので、置換からはぶかれてしまいます。オンライン小説執筆において、より実践的な置き換えを行うなら、苗字と名前は別々に置換しましょうね、奥さん。
例)山田を伊集院に置き換えたのち、次郎を光利に置き換える。
検索欄に「山田」と入力。
置換欄に「伊集院」と入力。
全置換ボタンを押す。
検索欄に「次郎」と入力。
置換欄に「光利」と入力。
全置換ボタンを押す。
──ちなみに、真に頭のいい人はミスをしませんので、こんな置換の使い方はしないでしょう^^;
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興奮で額に汗がにじみ、鼻息も荒くなった。
「ふんが~、ふんが~」
わたしの鼻息は、マタドールに挑む猛牛よりも、なお猛々しかった。
それも、むべなるかな。
眼前には、白い肌に密着した深紅のブラジャーがあるのだ。バラをかたどった刺繍がとても優雅で、男心をくすぐってくれる。
わたしは慌てて頭をふって、取りついた興奮を追いはらった。ブラに吸いついていた視界が、ゆっくりと元に戻っていく。
ブラの主が見えた。まなじりをさげ、せつなそうな表情で眠っているのは、まがうことなく鬼瓦則武{おにがわらのりたけ}であった。名前は男っぽいが、性別もやっぱり男だ。
酒に酔って寝転んだ同僚が、真っ赤なブラをつけている。しかも、ハーフカップだ。
心くつろぐはずのわが家に、なぜこんなシュールな光景が出現しているのか。理由はまったくカンタンだった。事のおこりは、鬼瓦を自宅に招いたことだった。お互い独身なので気楽なものだ。部屋に冷房を効かし、おつまみを作る。ふたりっきりの酒盛りは、ひとしきり盛りあがった。
ピークをすぎたころ、わたしは携帯電話を取りだした。
「機種変更して一日たつが、まだ慣れてないんだ。お前はどうだ? 鬼瓦」
驚くことに、鬼瓦も同じ日に同じ機種に変更していた。申しあわせたわけではなく、まったくの偶然だった。
「ぼくも設定とか全然かえてな~い」
などと、とりとめもなく話しているうちに、鬼瓦がうつらうつら舟をこぎはじめ、ついには寝転がってしまった。
服を着たままだと寝苦しかろうと、わたしは同僚のネクタイに手をかけた。ゆるめてやるつもりだったが、どうやらわたしも酔いがまわっていたらしい。手元がおぼつかない。
胸のうえで手をすべらせたとき、シャツごしに、ほんのわずかな抵抗を感じた。気のせいといってしまえばそれまでの、かすかなデコボコ。
そのとき、脳内で発生したものがあった。
スズメの涙ほどの好奇心と、小さじ一杯の探究心と、大ジョックからあふれるほどの悪ふざけ。
気づいたら、鬼瓦の上半身を裸にひんむいていた。
チャッラララ、チャッラララ。
頭のなかで、「トワイライトゾーン」のテーマソングが奏でられていた。新しい携帯電話の着信音はこれにしようと、現実逃避のように考えてしまう。
「あ、そうだ。携帯だ」
わたしは畳に転がる携帯電話を手にとった。脳による行動ではなく、脊椎反射であった。あるいは、血中で暴れるアルコールの所業か。
わたしは携帯電話を両手で構えた。脇もしっかりとしめ、シャッターボタンを押す。ぷろぽろぽ~ん、と存外におおきな音がした。
すわ! 起きるか!?
とっさに猫足立ちで構えたが、鬼瓦は安らかな寝息をたてているだけだった。
わたしは安堵のため息をもらした。撮った画像を確認しながら、首をもむ。熱い。予想以上に、酔いがまわっているようだった。
テーブルの上には、ビールだけでなくウイスキーや日本酒もあった。紅茶や牛乳まであるのは、混ぜて飲みくらべていたからだ。
「そういえば……」
寝ている同僚は、上半身は見えているが、下半身はテーブルの下だった。もしかしてと、いけない想像をしてしまう。
「いやいやいや」
男がブラをつけるのはたしかに異常だが、つけてつけられないことはない。だが、下は違う。男には、心臓と同じおおきさの物体がついているのだ。セクスィーなパンツでは、とてもではないが隠し切れない。
確かめなければならなかった。わたしの好奇心のためではなく、同僚の尊厳のためにだ。
わたしは邪魔になるテーブルの両端をつかみ、部屋の隅に移動しようとした。ビンやグラスは、めんどうくさいのでそのままだ。
「うお」
脚がもつれた。斜めになったテーブルから、ビンやグラスがすべり落ちる。ふたをしていたり、飲みきっていたりして、被害が小さかったのが幸いだった。
いまの騒ぎで、鬼瓦が起きていないかと目をあげて、
「っ!」
声をあげそうになったわたしは、慌てて自分の口をおさえた。
鬼瓦の上半身が濡れていた。ビールや紅茶ならまだしも、こぼれていたのは牛乳だった。深紅のブラに、純白の液体。そのコントラストがエロチックで、わたしはしばし呆然と見とれてしまった。
ぷろぽろぽ~ん。
ぷろぽろぽ~ん。
ぷろぽろぽ~ん。
軽やかな電子音が連続で鳴った。
我にかえったときには、携帯電話をかまえ、様々なアングルで激写している最中だった。
わたしは急いで牛乳をふいた。肌にかかったぶんは問題ないが、ブラジャーの一部が変色してしまっていた。
これは知らないことにするしかない。
わたしはそう決心し、同僚の尊厳を守るため、ベルトに手をかけた。ためらいなく、淀みなく、躊躇も捨てて、拘束をといてゆく。
ファスナーをおろし、ズボンをはだけた。
「ぐ」
驚愕の叫びが、喉につまった。
男物をはいているなら、よしだった。セクスィーな下着がでてきた場合の覚悟もあった。
しかし、これは予想外。「どんな下着なのか?」という問題とは、まったく次元が異なっていた。
正解を先にいってしまうと、鬼瓦がはいていたのは、ブラとおそろいであろう深紅のパンツだった。バラをかたどった刺繍が、洗練された豪華さを演出している。モノはギリギリはみでていなかった。同僚の心臓は、平均よりも小さいのかもしれない。
わたしが愕然と目をむいてしまったのは、そんなことではなかった。
鬼瓦則武は、なんと、パンストをはいていたのだった。光沢のあるベージュが、電灯の光をうけて、きらびやかに輝いている。
同僚の足元を見ると、靴下もちゃんとはいている。暑かったろう、と同情心が芽生えてくる。彼の美意識を理解することはできないが、ここまでされると認めてやるしかない。
「うん、あっぱれだ」
わたしはひとりでうなずいた。まだアルコールに浸っていない分の思考が、さっきからしきりに警報をならしてくる。
ぷろぽろぽ~ん。
ぷろぽろぽ~ん。
ああ、違う。これは携帯電話のシャッター音だ。なんだか夢なのか現実なのか、はっきりしなくなってきた。
「あ~」
かすんできた目に、パンストごしのパンツがうつった。誘蛾灯にまねきよせられる虫のごとく、わたしはなんの迷いもなく、鼻先を股間にセットした。
思いっきり匂いを吸いこむ。
「ふんぐう!」
鼻腔にするどい針が突き刺さった。一本ではなく何十本と。わたしはあまりの痛覚に、床上でもんどりうった。
針が刺さったというのは、もちろん錯覚だった。それぐらい、刺激的で攻撃的で破壊的な臭いだということだ。
おかげで目がさめた。
「危なかった」
わたしは流れた涙をふきながら、身をおこそうとした。途端、すとんと腰が落ちた。鬼瓦の上に、しなだれかかってしまう。
「う~ん」
重さのためだろう。鬼瓦が小さくうめいた。
ま、まずい!
わたしはとにかく同僚の上からどこうとしたが、力がはいらなかった。思うように動けないが、それでもなんとか体をずらしていく。
酔いすぎた──というわけではない。恐るべきことに、手足が痺れはじめている。酔いとは別種の、これはなにかの中毒か!?
思い当たることが、ひとつあった。鬼瓦の股間だ。芳醇を突きぬけて、破壊へと到達した臭い。きっと正体不明の気体が、にじみ出ているに違いない。
視界がせばまってきた。いよいよガスがまわってきたのか。
「だが、しかし」
いま、目を閉じるわけにはいかない。眠るのは、同僚に服を着せてからだった。このまま気を失ってしまえば、鬼瓦になにかしたみたいではないか。
わたしは朧に霞む思考の中で、なんとか打開策を見つけだそうとした。
どうする、どうする、どうする……。
鬼瓦が目を覚ました。
寝ぼけているのか、ぼんやり左右を見渡している。わたしと目があって状況を理解したのか、
「おはよう」
と、目をこすった。窓からはいってくる朝日が、まぶしいのかもしれない。
わたしも「おはよう」と答え、ティーカップから紅茶を一口すすった。
「あ~、飲み物は紅茶でいいかな」
紅茶をいれてやり、さもいま思いついたように、
「そうだ、牛乳いれてみるか。おっと!」
牛乳パックの口をあけてから、わざと転んだ。飛び散った牛乳が、鬼瓦のワイシャツにひっかかる。
「悪い。これでふいてくれ」
差しだしたタオルを鬼瓦が受けとり、染みこんだ液体を叩いてふく。これで、ブラの変色もごまかせるだろう。
わたしは休日なのをいいことに、綿シャツとトランクスという情けない姿で朝食をとった。いっしょに食べている鬼瓦が、わたしの右足を不思議そうに見る。
「すねが青くなってるけど、どうしたの?」
もっともな質問に対して、わたしは乾いた笑みを浮かべながら答えた。
「ちょっと柱にぶつけてね」
ウソじゃない。
あらんかぎりの力をふりしぼり、右足で柱を蹴ったのだ。うずく痛みにより、わたしは意識を失うことなく、中毒が回復するまで耐えたのだった。復調さえしてしまえば、鬼瓦の衣服を整えるくらい簡単だった。
足の痛みがまだひいておらず、昨夜から一睡もしていないのはご愛嬌だ。
朝食がすむと、鬼瓦は泊めてもらった礼をいって帰っていった。
五分間たっぷり時間をおいてから、わたしはおおきくため息をついた。
「さて」
わたしはあえて声をだし、携帯電話のボタンを押した。一夜あけた後の冷静な目で、昨夜の衝撃写真を観賞するためだった。
わたしは眉間にしわをよせた。
写真が一枚も記録されていなかったのだ。
刹那、脳内で電光が閃いた。
「まずい! 待て! 鬼瓦~!」
わたしはドアを蹴破って跳びだし、パンツ姿のまま疾駆した。
同じ種類で、どちらも新品。
すりかわってしまった携帯電話を追って、走る走る。
「どこだ~!? 鬼瓦~!?」
絶叫が青空に響きわたった。
(完)
満月を見上げたぼくは、驚きで息を飲んだ。小学六年生の小さな体が、興奮でおこりのように震えてしまう。
蝶々のような羽をはばたかせて、妖精が飛んでいたのである。
青白い月光幕に、墨で描いたような妖精のシルエットは、胸をかすかに膨らませており、遠目にも女性と知れた。巻き散らかされるリンプンの軌跡が、はかなげにまたたきながら波打っている。
彼女はフェアリーと呼ばれる妖精に間違いない。会えるとしたら、それは欧州を置いてないと思っていたが、まさか日本の、それも平凡な住宅地で遭遇できるとは、なんという幸運だろうか。
「いた。いたんだ」
うわずった声は、思ったより大きかった。前を歩いていた友人たちが、気づいて振り返ったほどだ。ふたりのうち、片方が浴衣姿なのは、夏祭りの帰りのためである。
「なになに、なにがいたって?」
「フェアリーだよ、フェアリー! 羽のはえた妖精!」
ぼくは興奮気味に、空中でスキップしているフェアリーを指さした。
ふと、蝶々じゃん、と一蹴される不安にかられた。彼女は細い手足を振りまわしているうえに、距離もあるので、見間違えやすい。フェアリーなど空想上の生き物だという固定観念にかられていると、虫に見えないこともないのである。
「なんもないじゃん」
浴衣姿の友人は、予想外の言葉を口にした。虫というならまだしも、いないとはどういうつもりだ。
「いるって、あそこ! よく見てよ、いるよ。虫でもないよ」
そういって、ぼくが指さした先には、たしかにフェアリーが飛んでいる。
「しつっこいなあ。いるわけないじゃん。なに? 妖精なんか信じてんの? ばっかじゃないか」
浴衣姿の罵りは、ぼくの内なるマグマを煮えたぎらせた。突き出した右の拳は、友人の嫌みったらしくゆがんだ頬に食い込んだ。
よろめいた浴衣姿だったが、ブロック塀に手をついて体をささえ、
「なにすんだよ!」
と、歯をむきだしにしてむかってきた。
鼻面をなぐられたぼくは、ふんばりがきかず、あおむけに倒れてしまった。
「妖精なんていねんだよ! ばあか!」
馬乗りで殴られた。身につけた衣が汚れるなと、ぼんやりと思った。
もうひとりの友人は、ニヤニヤ笑っているだけである。
「いなんいんだよ、妖精なんて」
馬乗りになった同級生は、そういいながらぼくを殴りつづけたが、抵抗がなくなったと気づくや、舌打ちを残して立ち上がった。
「おい、行こうぜ」
もうひとりと連れ立って、その場を去っていく。
ぼくは立ち上がると、衣の痛んだ箇所をなでながら、フェアリーを目で追った。
彼女はリンプンの尾を引きながら遠ざかっていた。
友人ふたりの背も小さくなっていくが、ぼくが追ったのは、羽のはえた妖精のほうだった。
「妖精がいないだって? 冗談じゃない」
地を蹴って駆けだしたときには、友人たちの存在など記憶から葬り去っていた。
宙に舞うフェアリーを見上げながら全力疾走。T字路を右に、十字路を左に曲がる。道ともいえない細い路地を抜け、犬が吠える庭を横切りもした。
小さかったフェアリーが、徐々におおきくなってくる。手足を楽しそうに振っているのがよくわかった。
まっすぐ飛ばれてしまえば簡単に離されていたに違いないが、彼女は上下に揺れて、遊びながら飛んでいる。空中と地上のハンディは、それで相殺されていた。
いずれ追いつけると確信を強めたが、
「ぜは、ぜは、ぜは、ぜは」
肺が悲鳴をあげていた。
ぼくは前に進もうとしたのだが、小学六年生の小さな体はいうことをきいてくれず、気ばかりあせった結果、両脚がもつれ、もんどりうって転がってしまった。
間をおかず立ち上がったが、膝から崩れた。転倒したときに、負傷してしまったらしい。動きがとれず、空を仰いだまま歯軋りする。
フェアリーのシルエットは、夜の闇へとにじで消えてしまった。
「くっそ!」
アスファルトを叩いた八つ当たりの拳に、輝くリンプンが降りそそいだ。
「はっ、はっ、はっ」
ぼくは息をはずませながら走った。
フェアリーと再会したならば、地の果てまでも追っていけるように、脚力を鍛えているのである。
学校指定のジャージに包まれた体躯は、すでに小学生のそれではない。衣替えを何度か経て、邂逅の日からは、すでに三年が経過している
千を越える日々は、小瓶に保存したリンプンを眺めて慰めた。
「あれ?」
だから、夜空を何気なく見上げ、そこにフェアリーを発見したときには、あまりのあっけない再会に、幻覚だと思ったほどだ。
「本物か」
目をこすってあらためて確認しても、華やかな紋様の羽をはばたかせて空を飛んでいるのは、間違いなくフェアリーであった。リンプンで描かれる軌跡は、見飽きた夜空に神秘のベールをひいていた。
今回は地上に近かった。街灯の光にあおられ、姿がはっきりと見えている。掌サイズを想像していたが、実際には人間の女性と同じ背丈だった。服も既製品であり、羽はどうやってだしているのかと、疑問が浮かぶ。
顔もぼんやりと見えた。細面で目じりがたれており、空中をスキップするにふさわしい、楽しそうな笑顔を浮かべている。
ぼくはフェアリーを追うため地を蹴った。走りこみの成果がでて、手足がスムーズに動いてくれる。月光に照らされた彼女を見失わないですみそうだった。
フェアリーがぼく以外に見えないカラクリは、すでに看破している。リンプンに鏡のような性質があると、毎日の観察でわかったのだ。光を屈折させて、人間たちから自分の姿を隠している。これも擬態といえるだろう。
フェアリーとの距離がつまってきた。
「でも、どうしよう……」
地上に貼りついているぼくでは、空中を舞う彼女に接触できそうになかった。ジャンプして届く距離でもなく、足場をつくる時間の余裕もない。
「待つか」
走りながら考えた結果だった。フェアリーが羽を休めるまで、追い続ける覚悟を決めた。持久力がものを──否、脚を動かすのは執念だ。
想い人との勝負は、しかし、あっけなく幕を閉じた。執念に火をつける前に、フェアリーが高度を下げてきたのだ。民家の屋根すれすれまで、降下してきている。
行く手には林があった。ひと目にふれず羽を休めるには、もってこいの場所である。
風でゆれる枝葉のなかに、フェアリーが埋もれるように消えていった。
ぼくはフェンスの手前で立ちどまった。
私有地らしいので遠慮したわけでも、夜の林に恐怖したわけでもなく、たんに入り口を探しているだけだ。
視線を巡らせて数秒だけ探したが、結局見つからず、ぼくはフェンスに飛びついた。乗りこえるときに有刺鉄線をつかんでしまったが、気にせず地面に着地する。
フェアリーが林にはいったときの方向を考慮して、あてずっぽうで走り出した。
カンがあたったと自信が持てたのは、木々に付着したリンプンを発見したからだ。差し込む月光に輝き、まるで道しるべのようでああった。
リンプンに誘われるようにして、林の奥へむかって進むと、おぼろげな光がまたたくのが見えてきた。
ぼくは歩をゆるめ、慎重な足取りで、光へ近づいていった。
そこは、ひらけた場所だった。近づくにつれ、またたく光の正体に見当がついてきた。フェアリーの羽がひらいたり閉じたりしているに違いない。
幹から顔を半分だけだし、そっとフェアリーの様子をうかがう。降りそそぐ月光で、彼女の姿がよく見えた。
「あ……」
喉から飛び出しかけた叫びをかみ殺した。
フェアリーはうつ伏せに倒れていた。それでもスキップをやめず、だだをこねる子供のように、両手両足を地面にぶつけている。
いや、それはたんなる痙攣にすぎなかった。楽しそうなスキップに見えたのは、空中を飛んでいるという非現実からなる幻だった。
ぼくは自嘲で唇をゆがめた。否定するなら、そんなどうでもいいことではなく、もっと重要な事実を否定するべきではないのか。
横たわって痙攣しているのは、フェアリーではなく、たんなる人間の死体なのだ。顔や手、スカートからのぞく脚が、紙のように真っ白になっているのが、その証拠。生きている者の体色ではありえない。
しかし、リンプンをふりまく羽は、ゆったりと羽ばたいている。飛ぶための動きではなく、くつろぐためのゆったりした動作である。
死体の背中に取りつき、優雅に羽を上下させているのは、ぷっくりした胴体の巨大な蛾だった。
ふいに、脳内に映像が浮かんできた。
家路を急ぐ女性の上空に、赤ん坊くらいおおきい蛾が迫ってくる。リンプンの効果によって、だれにも目撃できない昆虫は、女性の背中にとりつき、そうして、連れ去っていくのだ。目的はおそらく捕食である。死体の体色が白くなっていることから、体液を吸いだしていると推測できた。
連れ去られる女性も、リンプンによって人間の目から隠されている。例外であるぼくも、フェアリーに会いたいという欲求によって、目が曇っていた。羽の動きが蛾の胴体を隠していたのと、暗かったせいもある。
だが、停止したいま、蛾の姿がはっきり見える。
羽のはえた妖精ではなく、死体に取りついた蛾。
前回のときも、この巨大蛾は人間をとらえており、それを目撃したぼくは、てっきりフェアリーだと思い込んだのだ。
失意でめまいがして、うしろへよろけてしまった。かかとの下で、小枝の折れる音がした。
巨大蛾の頭からのびる触覚が、ひくひくと波打った。
降りそそぐ月光に逆らうかのように、巨大蛾が飛び上がった。空中で反転し、丸いふたつの目がこちらをむく。
見つかった。捕まれば、体液を吸いだされてしまう。
ぼくは踵を返して、一目散に走り出した。
自慢の脚は、しかし木々が邪魔してトップスピードにいたれなかった。
それは巨大蛾も同じだけのはず。
ぼくは確認して安心するために、首だけをふりあおがせた。
背筋が凍った。
巨大蛾は木々を物ともせず、ひらりひらりと舞っていた。輝くリンプンが、木々のあいだを縫うようにのびている。
そうだった。ここは蛾の住処なのである。どこに木が生えているのか、熟知しているに違いない。一流のレーサーがここしかないというラインをなぞるように、巨大蛾もベストの道筋を飛来してくる。
「くそっ!」
いまの感情をそのまま吐露した。
左足で思いっきり地を蹴った。ぐんと前に進む。
あげようとした右足が、木の根にひっかかった。勢いがついたまま、もんどり打って倒れる。
直後、ずん、と背中に柔らかくて重いものが乗ってきた。
「うわ!」
悲鳴をあげた口に、リンプンが吸い込まれる。
ぼんのくぼに、管のようなものが刺さった。体液が逆流していく。ときおり、ジュルジュルという音も聞こえた。
蝶が花の蜜を吸うように、こうやって人間の体液を摂取していたのだ。
手足が痙攣しはじめた。つかまれて空中にいたとすれば、スキップしているように見られるだろう。
顔の筋肉も弛緩しはじめている。体液を吸いだされるとともに、痛みを感じなくさせる液体を注入され、それの副作用だろう。
ああ、これは終わったなと理解できた。
巨大蛾がぶるりと痙攣した。全身から力が抜け、羽も地面へついてしまう。
いくつかあるのぞき窓のひとつから、様子を観察していたぼくは、巨大蛾が死んだことを確認した。
出入り口は背中にある。皮膚のつなぎ目をひらき、シャツとジャージのすそをめくる。
蛾の白い腹が見えた。
「ああ、重いったら」
巨大蛾の体と、衣の隙間から、ぼくはようやっと這い出した。
外から見ると、元人間である衣は、体液をすべて抜き取られ、予想通り死んでいた。
いや、ぼくが襲って中にもぐりこんだときに、すでに死んでいるともいえるが、心臓が動いて呼吸をしていたのだから、生きていたといえなくもない。
「こいつ!」
巨大蛾を蹴っ飛ばす。ぼくよりもはるかにおおきなな蛾は、びくともしなかった。
しかし、ぷっくり膨れた腹の末端から、緑色の液体が滲んでいた。
衣の濁った血が、毒になったのだろう。いい気味だ。フェアリーがいるように思い込ませた罪だ。
同じ妖精でも、羽のはえている妖精は気品がある。ぜひ、妻として娶りたかったのに、たんなる昆虫だったとは。
ぼくはため息をひとつつくと、人間社会にもぐりこむための新しい衣を求めて、月光の降りそそぐなかを歩き出したのだった。
(完)
坂を下るタクシーを見送りながら、床町茂{とこまちしげる}は慙愧の念に心を痛めた。
こんな気持ちになったのは、二十ニ年間生きてきてはじめてのことだった。
見上げれば、白い建物が小さく見える。あそこに行くために、ここまでタクシーを飛ばしてきたのだ。
小高い山の頂上に鎮座ます白い建物、それは病院であった。
床町はなんとか視線を引き剥がし、道路脇の草むらに足をふみいれた。靴底に感じる感触が、アスファルトの硬さから土のやわらかさにかわった瞬間、世界も同時に変形したような気がしたが、それは気のせいであろう。
伸び放題の雑草は、その周辺だけは侵食していなかった。いや、逆か。雑草がその周辺だけ侵食されているのだ。
タクシーのなか、流れる窓外の景色のなかから「それ」を確認できたのは、偶然ではないという気がした。同好の士なのだ。ひかれ会って当然であった。
床町は「それ」の手前で足をとめた。カンバンが立てられている。小学校の花壇などで、花の名前を書いた小さなカンバンがあるが、あれと同種のように思える。
そして、カンバンには、こう記されていた。
『ジャンケン勝負!』
相手はどこだと探す必要はない。カンバンの根元にいる。白い手袋をはめた右手首が、地面から突き出ているのだ。
床町茂は微苦笑を浮かべた。
地面から突き出ている手首よりも、カンバンのほうに心動かされている自分がおかしかったのだ。
正確には、カンバンに書かれた「ジャンケン勝負」の文字に強くひかれていた。「それ」こそが重要であった。地面からはえた手首。そんなものはジャンケンの相手でしかない。
ジャンケン勝負に命をかける。他の事象はすべて些事だ。
そんな自分がバカみたいに思え、また苦々しくもあり、浮かべた微苦笑。
しかし、その微苦笑には、だれもがつかみたいと思ってつかみえない誇りがにじんでいた。
「その勝負、うけた」
床町茂は手首を見下ろしながら、そう宣言した。
見下ろされた手首が、スナップをきかせてカンバンをはたいた。
まるでヘリコプターのプロペラのようにカンバンがクルクルと回転して、そして止まった。
『OK! 三回戦勝負だ』
床町は内心で舌を巻いた。この手首、相当できるとふんだのだ。
一本勝負なら、運の要素が非常に強い。もちろん戦術はもちいるが、素人相手でもないかぎり、勝率にはあまり影響してこない。これでは、勝負の面白味にかける。
そして、三本勝負なら泥沼になってしまう。なぜなら、先に三勝したほうが勝ちというルールなので、引き分けが続けば永久に勝負は終わらないことになるからだ。
引き分けがそんなに続くわけがないというのは、素人考えだ。運と戦術を同時にもちいることを好む玄人同士がやりあった場合、引き分ける確率はグンとはねあがる。
一九九四年のことだ。日本の広島市でこんな勝負が行われた。綴喜商店街{つづきしょうてんがい}の近くに、大手のスーパーがチェーン店をオープンさせることになった。もちろん、商店街の住民は猛反対だ。しかし、スーパーはすでに建設にはいってしまっていた。地元住民への説明会は、反対派をのぞいて行われていた。そのアンフェアな行為に、魚屋の啓三さんの怒髪が天をついた。支店長の家に殴り込みをかけたのは、その夜のことであった。普通なら、警察に通報されても不思議ではなかったが、啓三さんにとって幸運だったのは、支店長の榊原がジャンケン愛好家であったことだ。彼は啓三さんの腕の筋肉の動き、視線の運び方からおなじジャンケン愛好家であると看破した。ジャンケン愛好家が出会えば、することはたったひとつしかない。しかも、お互いが対立する立場にあるというのが、またふたりを燃えさせた。
かくして翌週、スーパーの建設をかけたジャンケン勝負がおこなわれることとなった。市内の中央公園に仮設ステージが立てられ、審判として遺恨の残らないように市長が呼ばれた。
だが、この市長がいけなかった。まったくの素人であればよかったのだが、多少の毛がはえたジャンケン愛好家だったのだ。彼が選んだ勝負の方法は三本勝負であった。一本勝負の緊張感もいいが、戦略を競う三本勝負のほうが見ていておもしろいというのが、その理由であった。それは素人の場合だ、と啓三さんも榊原もいわなかった。抗議して自分に不利な判定を下されるのを恐れたのだ。
その話を聞いたとき、ジャンケン愛好家としての堕落だと、床町茂は思ったものだ。そんなジャンケン勝負は放棄してもかまわない。
しかし、ふたりのジャンケン愛好家は三本勝負でぶつかった。責任がふたりの肩を押さえていた。
啓三さんと榊原のふたりがステージ上に立ってむかいあうと、市長が間髪いれずに「ジャンケン!」と叫んだ。驚いたのは啓三さんと榊原のふたりだ。はじめての相手と対する場合は、まったく手が見えず、戦略もなかなか練れないものである。だからこそ、相手の腕の筋肉の動き、視線の運び、呼吸の間合い、流れる風のむき、そこに乗る匂いなどから、相手の手を読まなければならない。観察力、経験、そして運。それらを研ぎ澄ます前に、市長は「ジャンケン!」といってしまったのだ。戦略を競うのがおもしろいといっていたくせに、これだ。素人はなにをするかわからない。
とにかく「ジャンケン!」の号令がかかってしまっては、「ポン!」といってなにか出さなければならない。野球では、ピッチャーが投球モーションにはいってからのタイムは認められないが、それとおなじことだ。
「ポン!」
ふたりがだしたのは、共にパーであった。目線をあわせた啓三さんと榊原は、微笑を浮かべあった。お互いに相手がパーを出すと電気信号的に判断し、引き分けるためにパーを出したのだ。これで、観察力、経験、そして運。それらを研ぎ澄ます時間ができた。
人間の思考は、ともするとスーパーコンピューターよりも早いといわれるが、この瞬間のふたりがまさにそれであった。なぜふたりともパーを出したのか? それは市長にむかっての訴えであった。あんたはなにも知らないパーだと。
このパーの引き分けによって、運の配分はおおきく崩れた。市長のもつ運が、ふたりのジャンケン愛好家へと流れたのだ。
「ジャンケンポン!」
「ジャンケンポン!」
「ジャンケンポン!」
「ジャンケンポン!」
「ジャンケンポン!」
何度やっても引き分けで、市長のこめかみから汗が流れ出した。掛け声をいい続ける疲れ半分、冷や汗半分だ。ふたりとも市長を困らせようと、引き分けにしているのではない。真剣に勝利を狙っていた。引き分けになってしまうのは、実力伯仲ということもあるが、市長から流れた運の作用もおおきかった。
昼からはじめた勝負は、夕日が落ちるころになっても終わらなかった。ともに一勝もせずに、引き分けだけを続けていた。音をあげたのは、やはり市長のほうであった。この勝負は無効との宣告をしたのだ。つきあいきれないと。
床町茂は思う。自分なら、喉がつぶれようとも決着がつくまでつきあうと。
かくて、ジャンケン勝負は無効となってしまったが、啓三さんと榊原の間には同好の士としての友情が芽生えていた。お互いにゆずりあった結果、スーパーのテナントを格安で契約するということになったのである。結果、店の売り上げは前よりものびているということだ。
「三回勝負なら、三回しか勝負をしないのだから、引き分けが三回続いても勝負は終わる。それでは決着がつかないという人もいるが、オレの場合は違う。オレは常に決着をつけてきた。すべてオレの勝利でな」
床町茂は手首にむかって胸をはった。
はたかれたカンバンがまわる。
止まった。
『おもしろい』
口はないはずだが、手首が微笑を浮かべたような気がした。
漫才師が相棒のボケにつっこみをいれるみたいに、地面から生えた手首がカンバンをはたいた。
ヘリコのプロペラのようにクルクルまわった後、カンバンがとまった。
『勝てば最高の報酬』
「レベルの高いジャンケン勝負ができればオレは満足だが、なにかをかけたほうがやりがいがあるよな」
しかも、それが「最高」ときた。もっとも、あまり期待してはいけない。勝負を挑んできた以上、手首は自分の勝利しか信じていないのだから、報酬を用意しているかどうか疑わしいのだ。
カンバンがまた回り、そして止まった。
『ただし、負ければペナルティーだ』
用心すべきはこちらのほうだろう。地面からはえた手首のいうことだ。ペナルティーもそれ相応のものだという覚悟はしておくべきだ。
たとえば、負けた時点で地面のなかに封じ込められ、手首だけが外にでた状態になる。そして、ジャンケンする相手を待つというペナルティー。
それはそれでジャンケン人生を歩むのはいいかなと床町茂は考えたが、慌てて頭をふって追い払った。
勝負への渇望を失ってはいけない。勝つことだけを考える。それが勝利への秘訣であった。
床町茂は右手でチョキをだした。
「一回目の勝負。オレの手はこれだ」
といって、チョキの形をした右手を手首にむかってさらに突き出す。
だが、左手はパーの形を作っていた。
駆け引きはすでにはじまっている。手首がこのパフォーマンスをどう判断するか。それがこの勝負を握っている。
床町は一回目の勝負は捨ててもいいと計算した。後の二回で勝てばいいのだ。そのためには、手首の思考を読まなければならず、推理の材料を集めるための予告パフォーマンスであった。
もし逆に予告パフォーマンスをやられたら、と床町は考えた。
相手が素直に右手のチョキなら、当然こちらはグーをだす。ところが、相手は左手のパーをだすかもしれない。それならチョキをだす必要がある。
相手がグーをだすことは、あまり考えなくていいだろう。そこまで勝負の枠を広げてしまったら、お互いに思考の泥沼にはまってしまう。最低限の暗黙の了解というものはあるのだ。それを破ってくるとなると、そういう勝負が好きなのだとタイプわけができて、それはそれで思考経路の推理ができる。
床町茂は、自分ならチョキをだす、と心のうちでつぶやいた。
パーをだした場合は、負けるか引き分けるかのどちらかで、この手は無謀である。グーをだしたのであれば、勝ちか負けかの五分五分になる。これはこれでおもしろいが、確実性をとって、負けのないチョキのほうを良しとした。ただし、相手がグーを出さないという前提があっての話である。
手首はどう戦略を練ってくるか。一か八かのグーか? 負けのないチョキか? それとも深読みしてパーを出してくるか?
床町は、とりあえず手首は自分と同じタイプだと仮定して、チョキを出してくると決めた。
手首がチョキを出すと予想したのだから、こちらの手は当然グーになるのだが、それは暗黙の了解にひっかかるので出せない。だったら引き分け狙いのチョキしかない。
一回戦を捨てて相手を探るようにしているのだから、勝ち負けは問題ではない。
手は決まった。
手首のほうでも用意ができたのか、しきりに指を広げたり閉じたりしている。
「用意はできたぜ」
そういってやると、手首がまたカンバンを叩いた。回転。止まる。
『ジャンケン!』
「ポイ!」
床町茂は瞠目した。
みずからのチョキと、そして――手首のチョキが空中に火花を散らしたように見えたのだ。
第一回戦の、それが結果であった。
床町茂は草むらのなかにわけいった。
なにか適当な物はないかと探していると、それ以上都合のいいものはないというほどのアイテムを発見してしまった。
空きビンである。
ビールビンよりも一回り大きい。ちょうど猫一匹がはいれるくらいの広がりをもったビンだ。もっとも、口は細いので、実際に猫をいれようとすると、動物愛護団体から殴る蹴るのリンチを受けることになるだろう。
「いままで待っててくれたんだ。ついでに、もう少し待っててくれ」
手首の元に戻ると、床町はそういいながら、今度は道路のほうへ歩いていった。上半身をかがめると、空きビンの細長い口をもって、底のほうをアスファルトに叩きつけた。
「あんたは強い」
ふりかえって、手首にそう訴える。
第一回戦は捨てていた。負けてもいいと。結果はもうけもうけの引き分けであった。
しかし、引き分けた瞬間、体中に電流が走ったようなショックをうけた。理屈ではなく感覚で、手首の強さを知ったのだ。少なくとも自分よりも上のレベルにいる、と。戦略では勝てない。
床町は右手にもった空きビンを視界の隅で見た。
底がわれた空きビンは、サメの鋭い顎のように牙をむいていた。これで突けば、人間の皮膚などズタズタに裂けてしまうだろう。
「あんたは、尊敬に値するくらい強い。だが――」
床町は右手をふりあげた。
だが、その手には空きビンはなかった。力強く拳を握っているだけだ。
括目して見よ!
空きビンははるか頭上にあるではないか。太陽の光をその牙に煌かせながら、垂直に落ちてくる。しかも、回転して。
もしぶつかれば、その鋭い牙によって肉は裂かれて、骨まで削られるだろう。
床町は頭上の危機はまるで気にせず、拳を突き上げたまま、
「だが、勝つのはオレだ」
突き上げた拳に、空きビンが突き刺さらんとした。いままさに!
床町は拳に軽い衝撃を感じた。
視線をあげると、拳に空きビンが乗っていた。そう、まさに乗っているというのがふさわしい。空きビンの鋭い牙は、まるで床町の拳をよけるみたいに、その周囲をかこっている。
括目したうえに瞠目せよ!
床町の拳は、われたビンのなかにおさまっているのだ。
あと数ミリずれていれば、間違いなく鋭い牙が拳に突き刺さっていたはずなのに……。
床町は拳を右にふった。飛んでいったビンが、草むらの影でガチャンと鳴いた。
「普通なら、オレの手はいまごろズタズタのザクロになっていただろう。だが、見ろ」
床町は手首に手首を突き出した。傷ひとつない。
「これで、運は、オレのほうへ巡ってくる」
地面から生えた手首が、カンバンをはたいた。回転して、止まる。
『やるじゃないか』
そして、人差し指をたてて左右にふった。チッチッチという舌打ちの音が聞こえてきそうだった。
その人差し指が、坂の上方を指差した。
仰ぎ見ると、自転車に乗った少年が見えた。ペダルから離した足を八の字にして、惰性で坂を下りてくる。あと数十秒で、この前を通過するだろう。
「あの子がどうし……」
ふりむいて手首にむかった床町は、言葉をそこで飲みこんだ。
手首のわきに、いつの間にかロケット花火が突き刺さっていたのだ。それも、ほぼ地面と平行になるほどのゆるい傾斜で。
「なにを……」
床町はみなまでいえなかった。
手首がいつの間にか手にしていたライターで、ロケット花火に点火するほうが早かったからだ。
次の瞬間、床町の耳のなかで二種類の音が交錯した。
坂を下りてくる自転車の音と、ロケット花火の導火線が燃えながら縮む音だ。
「まさか! あの子にあてるつもりか!?」
と叫んだ床町の股下をロケット花火が飛燕の速度ですっ飛んだ。
コンマ何秒かの出来事で、いつ発射されたのかわからなかった。
それでも、なんとか、床町はふりむけた。
地面スレスレを飛んでいるロケット花火と、少年の乗る自転車がいまにも接触しようとする。
刹那!
驚くべきことがおこった。
否!
驚くよりもはやく事態はすぎていった。
なにごともなく。
「なんだと」
床町は口のなかだけでつぶやいた。うなじの毛が逆立つ。
自転車に乗った少年は自身におこった驚嘆すべき現象も知らずに坂を下り、やがて見えなくなった。
ロケット花火の行方は――わからない。どこかそのへんの草むらにでもまぎれこんだのだろう。
しかし、ロケット花火の描いた軌跡は、いまも目に焼きついている。
ロケット花火は、なんと自転車をすりぬけたのである。もちろん、幽霊みたいに透過したというわけではない。スポークの隙間をぬって通過したのだ。
タイヤの内側に放射状にはられた針金。その隙間のなんと狭いことか。しかも、回転しているのだ。その間をぬけさせるという芸当を、手首に見せつけられたことになる。
床町の体は震えるはじめた。
『これで運がこちらに流れてくる』
回転がおさまったカンバンには、そう記されていた。
手首がはたき、また回転――止まった。
『これで運は、プラスマイナスゼロってところだな』
「そのようだな」
床町は声まで震えていた。
体も震えている。
寒いわけではない。
むろん恐怖からでもない。
この震えは武者震いであった。
これほどの強敵に出会えたうれしさよ。
歓喜が体を震わせる。
床町は頭上に右手をふりあげた。
手首がカンバンをはたいた。
『ジャンケン!』
床町は右手をふりおろしながら叫んだ。
「ポイ!」
床町茂がジャンケン狂になったのは、十数年前のある出会いがきっかけであった。
その日、床町茂少年はいつもよりも遅く帰宅した。放課後の掃除当番をひとりでやっていたからだ。罰当番ではなく、ジャンケンに負けて、友達に押しつけられたのであった。
雑きんがけですっかりふやけた手をポケットにしまったまま、床町少年は自分の家に帰りついた。
そして、おや? と思った。隣の門前から、トラックが走り去っていったからだ。
林さんが引っ越してから、丁度一週間。もう次の人がはいってきたのかな。そんなふうなことを思った。
「脱臼するとくせになるというね」
突然、そんな声がして、床町少年はびっくりして周囲に首を巡らした。
だれもいない。
「転校も脱臼と同じでね。一度やってしまうとへんな癖がついて、次の転校も意外とはやくやってくるようになる」
隣家の門の影から、詰め襟の学生服を着た青年があらわれた。黒の制服には見覚えがある。海鳴中学のものだ。
「今度隣に引っ越してきた悠木翼だ。よろしくな」
「は、はじめまして」
「きみ、ここの家の子だろ。とすると、名前は床町くんだね。表札でわかるよ。ところで、ちょっとジャンケンしないかい?」
「え?」
床町少年がなにかいう前に、悠木翼と名乗った青年が、チョキを突き出してきた。
「ぼくの手はチョキだ」
その予告に、床町少年はびっくりした。これから出す手をわざわざ教えるとは、それじゃあ絶対に勝てないじゃないか。
しかし、ビックリ眼になったのがかえってよかった。悠木の左手がパーになったのが見えたのだ。
「プププ」
床町はこっそり笑った。悠木の悪巧みがわかったのだ。出すべきはチョキだ。
「いくよ。ジャンケンポン!」
悠木の言葉の勢いに、床町少年は慌ててチョキをだした。
結果は――引き分けであった。
「あっ。チョキだ。パーを出すと思ったのに」
「ぼくはきみがチョキを出してくるとわかってた」
「え?」
「だけど、グーは出さなかった。暗黙の了解にひっかかるからね」
「暗黙の了解?」
「今度、教えてあげるよ。きみとは気があいそうだ。それよりも」
といって、悠木青年が床町少年の手をとった。まだチョキの形をしている手を眺めて、
「ふやけているね」
床町少年は慌てて手を引っ込めた。
「小学校にしては、帰りが遅い。遊んでいたとすれば、今度は帰りが早すぎる。学校に残されていたね。手がふやけているということは、雑きんがけでもしていたのかな」
床町少年は目を見開いた。ピタリあたっているではないか。
「ビックリすることじゃない。ぼくはみたままの感想をいったまでだ。あたったのはたまたまだよ」
それと、と悠木青年が続けた。
「ジャンケンに勝つには、洞察力が優れてないといけないからね」
その日から、床町少年は悠木青年にジャンケン道を伝授されるのだが、その間、ただの一度も勝てた試しがなかった。
あるとき、町内会でジャンケン大会が行われた。
ふたりは当然出場した。床町少年にとっては、初の公式戦ではりきっていた。
ふたりは、順当に決勝に残った。
「手加減はしないよ」
「ぼくもだよ」
結果は二勝一分け。どちらが勝ったかはいわずもがなだ。
「凄いね」
試合後、悠木青年がそういった。
彼の胸には、金メダルがかけられていた。厚紙に金色の折り紙を貼りつけただけの物だが、床町少年の目には燦然と輝いて見えた。
「一回戦、ぼくは勝つつもりだったのに、きみは引き分けにしてしまった。正直、びっくりしたよ」
悠木青年が胸の金メダルをとった。
「この大会が、一ヶ月先に行われたならば、このメダルはきみの物になっていたかもしれないね」
そういってから、ポケットのなかにしまった。
「でも、勝ったのはぼくだ」
かすかに微笑んだ口元には、だれもがつかみたいと思ってつかみえない誇りがにじんでいた。
そして、どこか、悲しんでいるような。
悠木青年が引っ越したのは、大会の翌日であった。
床町少年の元に、たった一枚の便箋を残して。
そこには次のように書かれていた。
『引越しは脱臼と同じ。一度やってしまうと癖になる』
床町少年は、それからジャンケンでは負け知らずになった。掃除当番をひとりですることもなくなった。中学、高校、大学と進学し、その間にジャンケンの腕もさらにあげた。悠木青年以外には、だれにも負ける気はしなかった。
だが、この手首は……。
この手首は……。
「うう……」
床町茂は喉の奥からうめきを発した。
おおきく広げた右手のひらに、汗がにじむ。
白い手袋をつけた手首も、おおきく手をひろげていた。
パーとパー。二回戦も引き分けであった。
嫌な予感が、汗となって額ににじんだ。
一回戦は負けるつもりで引き分けになった。
しかし、今度は違う。勝つつもりで出して、そして、引き分けで流されてしまったのだ。天運が確実に手首に流れている。
脅威という名札をつけた嵐が、床町の脳内で吹き荒れた。
ふいに、ペナルティーのことが頭に浮かんだ。
地面に封じ込められ、手首だけが外にでた状態でジャンケンする相手を待つ。そういうペナルティーを想像して、まあいいかと一瞬思ったこともあったが、それはこちらの勝手な推測で、実際は全然べつのペナルティーである可能性が高い。いったいどんなペナルティーなのか。
額に浮き出た汗が流れて、目にはいってしみる。
床町は自分を落ち着かせるつもりもあって、ポケットからハンカチを取り出そうとした。
ポケットの中で、手が違うものふれた。
取り出して、太陽にかざすと、それは鈍く光った。
銀メダルであった。厚紙に銀紙を貼りつけただけの。町内会ジャンケン大会の、それが準優勝者におくられた商品であった。
みるみる汗がひいていく。
「危なく、平常心を失うところだった」
考えてみれば、手首も勝ちにきていたはずなのだ。それが引き分けになったのだから、天運の流れは五分と五分ではないか。
「次も引き分けなんてことにはしないぜ」
床町は自信満々で胸をはった。
手首がカンバンをはたいた。回転。止まる。
『のぞむところだ』
床町の頭のなかで、すばやく計算が行われた。
一回戦はチョキ、二回戦はパー、バランスでいけば次はグーだが、それだと素直すぎる。チョキとパーにしぼっていいだろうが、その裏をかいて素直にグーという手もありうる。
三回戦ともなると、むこうもこちらの手を読んでくる。裏の裏の、そのまた裏をかく必要があった。
数秒の思考の後、床町の手は決まった。
「ジャンケン!」
と叫んで、頭上に右腕をふりあげる。
同時に、手首がカンバンをはたいた。回転するかしないかのうちに止まる。
『ポン!』
床町の手がふりおろされた。
形は――パー。
地面から生えた手首は、白い手袋に包まれた手首は――固く拳を握っていた。グーであった。
「オレの勝ちだぜ」
あっけないといえば、あっけない結末であった。
いや、そう思わせられるほど、この瞬間には床町がおおきく優位にたっていたのだ。銀のメダルを手にしたときから。
カンバンがまわって止まった。
『おみごと』
「たしか、勝てば最高の報酬だったよな」
『そのとおりだ』
「どこにあるんだい?」
『そこだ』
と、手首が人差し指で、三十センチほど先を指差した。
『掘れ』
床町は無言でうなずくと、銀メダルをポケットにしまってから、手を土に突っ込んだ。まるで、耕したかのようにやわらかい。数回掘り起こすと、すぐに木箱がでてきた。
「ふん、これか」
手首を見下ろすと、なにも反応を示していなかった。
床町は木箱を慎重に取り上げた。土を払ってから開けようとするが、閉じた貝のように微動だにしない。
よく見ると、鍵穴がついているではないか。
「おい、これ……」
床町はみなまでいえなかった。
いう相手がいなかったからだ。
手首のいた位置には、なにもなかった。痕跡を残すような物はなにも。立っている看板も、古びて黒ずみなにも書かれていなかった。そんなに遠くない昔、ここは花壇だったのかもしれない。その証拠に土もやわらかい。
手首との勝負は夢か幻か、しかし床町の腕のなかには、蓋のあかない木箱があった。
「これが報酬かい?」
聞く相手のいない言葉を、床町は地面に落とした。
「いや、違うな。あの勝負こそが報酬だ」
床町茂はその言葉だけを残して、激闘の地を後にした。
ノックしてはいると、病室のなかは沈黙が支配していた。
遅かったようだ。だが、床町に後悔はなかった。もし手首との勝負を放棄して間に合ったとしたら、逆に叱られてしまっただろう。
ベッドにとりすがってすすり泣いている女性がいた。彼女が知らせてくれたのだ。
悠木翼が危篤状態にあると。彼が肺の病をわずらっていたと、そのときはじめて知った。
医者が目礼して退室していった。
「駆けつけてくれたんですね?」
すすり泣いていた女性が、顔をこちらにむけた。目元が真っ赤で、見ているだけで胸が締めつけられる。
「ありがとうございます。夫はいつもあなたの話をしていました。顔を見てあげてください」
といって、わきにのく。ヒステリックになるかと思っていたが、拍子抜けするほど冷静だ。覚悟ができていたからか、まだ現実を受け止められていないかのどちらかだろう。
床町は悠木の顔をのぞきこんだ。十年前よりも、顔つきがずっと精悍になっている。無精ひげはご愛敬だろう。
そして、口元には微苦笑が浮かんでいた。だれもがつかみたいと思ってつかみえない誇りがにじんでいる。
なぜ? という疑問がわいた。肺の病でずっと寝たきりだったのに、なぜそんな微苦笑を浮かべられる?
抱えていた木箱をベッドサイドのテーブルに置いて、床町茂は視線を横にずらした。
悠木の妻がベッドに取りすがって泣いていたせいだろう。掛け布団がわずかにずれて、病人の細い手が見えた。
固く拳を握るその手首には、茶色い筋がついていた。目を近づけて子細に観察すると、それは湿った土のようであった。
「こんなに力をいれていたのね」
床町の視線に気づいた悠木婦人が、夫の拳を広げさせようとした。
「あら? よっぽど強く握っていたのかしら、開かないわ」
そういう悠木婦人をやんわりと押しのけて、床町茂は悠木の拳に手を置いた。
「あら?」
悠木婦人が頓狂な声をあげた。
なにもしないのに、悠木の手が開いたからだ。
手のひらには、鍵が握られていた。
床町はそれを手に取り、木箱の穴に挿しこんだ。
カチリ、と音がした。
蓋をあけると、箱のなかには……。
「最高の報酬」
床町茂はそうつぶやき、金のメダルをみずからの首にかけた。
(完)
水野昌介{みずのしょうすけ}は陶然とため息をついた。
カウンターに肘をつき、あごを手のひらにのせて、店主のエプロン姿をながめる。ポニーテールが背中で跳ねているのは、フライパンをふっているためだろう。ときおりうなじがうかがえて、そのたびに水野の心臓がおおきく脈打った。
店主とふたりきりだということに、水野の口元がゆるんだ。
大学に近いこともあり、喫茶<慧>は若い学生がよくきていた。店主の木津律子{きづりつこ}とふたりきりになれるというのは、僥倖に近いことだった。
「おまたせしました」
やわらかい声がして、エプロンのすそがひるがえった。木津律子がこちらをまっすぐにむく。
目と目があってしまい、水野は照れて顔をさげた。
エプロンをもりあげる胸に、視線が吸いよせられる。
大きい。
頬が熱くなってきた。
「はい、これがスペシャルメニュー」
といって、木津がカウンターに料理を置いた。
「特製キノコスパゲティです」
木津の楽しそうな声に、水野は巨乳への欲望視線を切った。
料理へとむく。
驚きに目を見張ってしまった。
パスタの山のうえに、これでもかという大きさのキノコがのっているのだ。「特製キノコスパゲティ」というネーミングから、ある程度は大きいだろうと思ってはいた。しかし、予想を遥かに上まわっていた。
「これはとっておきなの」
木津がうれしそうに目を細めた。微笑を浮かべてもいる。
そもそも、木津のほうから「メニューに載せてない特製メニューをだしてあげる」といってきたのだった。いまはふたりきりだから特別に、と。
ふたりの仲は特別だといわれたようで、水野は有頂天でうなずいたのだった。
「いただきます」
水野はフォークにパスタをまきつけ、ソースをからめて口に運んだ。
次の刹那、両目が見開かれた。
舌の上、いや、口中にひろがる、なんと香ばしい味だろうか。極厚ステーキからにじみ出る肉汁に似ているが、はるかに濃厚だ。淡白な味を想像していたが、これはうれしい裏切り行為であった。
「おいしい!」
水野は満面に喜色をたたえ、子供のように目を輝かした。
キノコにも歯をたててみた。やわらかすぎず固すぎず、シコシコとした弾力で楽しませてくれる。先ほどよりも濃厚な味に、口中を支配されてしまうようだった。
水野はじっくりと味わって食べるつもりだったが、しかし口のほうはあっという間にキノコスパゲティをたいらげてしまった。
「ごちそうさまでした。すごくおいしかったです」
「ありがとう」
木津が満足気にうなずいて、上半身をカウンターにのり出してきた。鼻腔が柑橘系の香りに刺激される。
「味の秘訣を教えてあげましょうか?」
木津が下唇をなめ、
「あなただけ特別に」
と、艶然と微笑む。
「奥の部屋に来てくれたら、キノコスパゲティの秘密、教えてあげる」
吐息に耳をくすぐられた。電流が背筋を流れ、水野は身震いした。
誘蛾灯に誘われる蛾のように、ふらふらと木津の背中を追っていく。他の行動は考えられなかった。眼前で揺れるヒップのせいか、頭がくらくらする。
「ここがわたしの寝室」
といって律子がドアを開くと、フローラル系の香りがまろび出てきた。
「さっ、善は急げ」
木津に服をむかれていく。実際にはゆっくりした動作なのかもしれないが、頭が脈打っていて、三倍速で動いているように見えた。
気づいたときには、全裸でベッドに横たわっていた。首をひねって見てみると、ベッドの柱にロープで両手を固定されている。両足も同じ待遇で、×字のハリツケ状態だった。
「あの……」
「──まだ起きてたの?」
視界が木津の笑顔でうまった。
「睡眠薬の効き目がうすかったみたいね」
「すい、みん、やく?」
「そう。料理にまぜておいたのよ」
水野は「なぜ?」と訊こうとしたが、舌が痺れてうまくしゃべれなかった。
「約束どおり味の秘密を教えてあげる。あのキノコ自体が重要なの。だけど、入手が困難なのよね」
木津が肉切り包丁を真っ赤な舌でなめあげた。
「さっきのは、五年前から保存してたのを使ったのよ。使ったら、ちゃんと補充しなきゃね」
恐怖に縮こまった息子に、木津がギラギラ輝く包丁を近づけた。
水野はもがいたが、ロープが食いこんだだけだった。
満面に笑みをたたえた律子が、安心させるみたいにささやいた。
「痛くないようにするから大丈夫。五年前、わたしのを切り取ってくれたモロッコの医師に、ちゃんと教えてもらったんだから」
(完)
ゆうに二人は座れるだろう椅子が、大久保雅也{おおくぼまさや}の体を受けとめて苦しげにたわんだ。同時に発生した音は、一流品の調度に囲まれた部屋にはふさわしくなかった。
たぷん。たぷん。たぷん。
脂肪でパンパンに膨れあがった大久保の腹が、座ったショックでいくどもバウンドし、レストランの支配人が特別にしつらえた椅子に悲鳴をあげさせる。
しかし、大久保の正面に座った折原美奈子{おりはらみなこ}は、それを見て笑うことはなかった。
「今日は好きなだけ食べていいわよ。ただし、明日からはまともな食事はとれないと思ってちょうだい。まあ、言ってみれば最後の晩餐かしら」
美奈子がいたずらっぽく首をかしげると、肩にのった髪がはらりとたれた。玉子型のほっそりとした顔の中で、涼しげな目と流麗な眉がたれさがる。少し薄めの唇が微笑をうかべているのは言わずもがなだ。
「でも、ほんとにおごってもらっていいんですか? それに予約もしてないのに、よく個室がとれましたね」
大久保が落ちつかなげに、首の埋もれた頭を左右にふった。一拍遅れて腹が追随し、また、たぷんたぷんと水袋のような音がした。
「ここの支配人とはちょっとした知り合いなの。実をいうと今夜の食事はロハなのよ」
遠慮するつもりの大久保だったが、ロハだと聞いては張りきらざるおえなかった。運ばれてくる料理に、こうばしい匂いを放つ隙もあたえず、胃袋にすべりこませてゆく。
「明日からはダイエットしなくちゃいけないんだから、今のうちにしっかりと食べて、未練を残さないようにしなさいね」
美奈子のつぶやきも、大久保のブラックホールに吸いこまれた。
最後の晩餐の日から明けて翌日。大久保の体重は、確実に五キロは増えていた。これからダイエットを始めようという者の出足をくじくには、十二分の効力を発揮するだろう。
しかし、大久保は意気揚々としていた。
それもそのはず。
「さあ、始めるわよ。まずは水泳から」
「食事はわたしが用意するものだけを食べるように」
「ジョギングをさぼっては駄目よ」
「サウナスーツをつけて寝るように」
完全なるマンツーマン指導によるダイエットは、ここ折原ダイエットセンターの専売特許であった。過去、このセンターに入会し、太ったまま出ていった者はいない。
しかも、大久保はこのセンターの所長である折原美奈子に、直々の指導をうけているのだ。ダイエットの成功は、約束されたようなものだった。
その自信が崩れたのは、一ヵ月後だった。
「どうして痩せないんですか?」
「一ヵ月では無理よ」
「ここを紹介してくれた奴は、二週間でスマートになったんですよ」
「そう言われてもねえ」
「やっぱり、ダイエットをはじめる前に、あんなに見境なく食べたせいですかね?」
「あなただけじゃなく、入会した全ての人に、最後の晩餐はうけさせてるわ」
「けど……」
「しょうがないわ。特別室を使いましょう」
特別室の床には、掘り炬燵みたいな窪みが規則的に並べられていた。
それらのそばには、伴侶のように樽がつきしたがっている。金属で縁取られた大口から、白い粉の小山がのぞいていた。あれはいったいなんなのだろう?
「今日は誰も使ってないみたいね」
美奈子が窪みのひとつに近づき手招きするのへ、大久保は腰にタオルを巻いた状態で、たぷんたぷんと地響きをおこしながらしたがった。
「タオルを取って、この窪みの中に寝そべるのよ」
「えっ?」
「いいから、言うとおりにして」
大久保は真っ赤になりながら言われたとおりにしたが、ナニを手で隠してもじもじしている様は、B級ホラーも真っ青かもしれない。
窪みは見た目より深く、大久保の巨体もすっぽりと納まった。
「こ、これからどうするんですか?」
「いいから黙ってなさい。ああら、よっこらしょっと!」
美奈子がおよそイメージとかけ離れたかけ声をあげるや、白い粉を満載した樽が倒れこみ、窪みの縁に大口をピタリとつける芸を見せた。一瞬の間もおかず、吐き出された白い粉が大久保の巨体を埋めていく。
いや、よく見ると、それは粉というよりも粒であった。
「なんですか、これ?」
砂風呂のごとく、山の端から顔を出した大久保は、窪みの縁から見下ろす美奈子に訊いてみた。
「企業秘密よ。なんたってわがセンターの誇る最終手段なんですからね」
にっこり微笑む美奈子に、大久保は満足顔をした。笑顔の下に潜む、絶対の自信を見てとったからだ。この人に任せておけば大丈夫。太ったまま脱会した者はいない。
二時間後、しかし大久保は後悔した。
「せ、先生……」
「はあひ?」
ファッション雑誌から顔をあげた美奈子の口には、せんべいがくわえられていた。
ばりん。
「なあに?」
「気分が悪いんですけど……」
「軽い脱水症状ね。しかたないわよ。あなたの体の中の余分なモノを、急速にとりのぞいてるとこだから。あと十分くらい我慢すれば、ほっそりスマートよ」
「ほんとですかあ?」
こんもりと腹の形にもりあがった白い粒の山は、しかし低くはなっていなかった。むしろ、水気を含んだためか、二時間前よりも膨らんでいる。
「ほら、十分たったわよ。立ち上がってごらんなさい」
大久保が身をよじり、ふらふらになりながらも立あちがると、体から白い粒がねっとりと落ちていった。
「おお!」
自分の体を見下ろした大久保は、そこに神の奇跡を見た。
首があり、鎖骨が見え、あばらが出ている。
「ほらね、痩せてるでしょ」
「はい! ありがとうございます、先生!」
「見えてるわよ」
慌てて脱衣場に戻っていく大久保だった。
彼の引き締まった尻を見ながら、美奈子がおもむろに携帯電話をとりだした。プッシュしたナンバーは、最後の晩餐に使ったレストランのものであった。
「──支配人さん。わたしです。折原です」
「ああ、助かりましたよ、折原さん。もう切れてしまいましてねえ。うちは味でうっておりますから」
「安心してください。たった今、たっぷりとうま味を吸いこんだ塩が、大量に手にはいりましたから」
(完)
日本人の祖先については諸説あるが、真実はおっぱい星からきた異星人なのであった。
彼らは地球に降り立つや、失意のどん底に突き落とされた。膝を折り、涙はらはら、地面に染みをつくってしまうほどに。
心がポッキリと音をたてたのもむべなるかな。安住の地を求めて辿りついたのに、緑の星にはおっぱいが存在しなかったのだ。
だが、彼らのおっぱい魂には、不屈の精神が宿っていた。おっぱい製造機ともいうべき、ワンダフル装置を完成させたのである。
装置からのびる砲身が、地面にむいた。シビビビビと、不思議光線が照射される。命中した箇所が隆起し、巨大な岩山ができた。おっぱい製造機が、ドリルで岩山を削りながら、中心部へと進んでいく。
そうして、異性人たちが見守るなか、岩山から宇宙的人工皮膚がにじみだし、あれよあれよと、見上げるほどのおっぱいが完成した。
ぷるるんと震えたことによって、でっかいトカゲが絶滅したが、随喜の涙を流すおっぱい星人にとって、そんなことは些事だった。
あれから何万年たったのか。
異星人たちは、みずからの出自を忘れてしまった。巨大おっぱいも、皮膚保持機構の不具合でスリープ状態となり、岩山部分がむき出しとなった。
たったいま、霊峰富士がぷるるんおっぱいと化したのは、だから、長い長い眠りから覚めただけなのだった。
(完)
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