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あらすじ自動作成マクロを作っていたのですが、もう三ヶ月くらい頓挫しています。マクロ作成に時間をとれなくなって、それっきりになってしまっているのです。
あらすじ自動作成マクロっていっても、そんな大それたものじゃないんですよ。あらかじめ短い文章をいくつか用意してランダムにつなぎあわせるだけ。冒頭とラストだけは特別なテキストを差し込みますので、パッと見にはランダムに作成されたようには見えないようになっています。自動作成のあらすじですから小説を書くときには使えませんが、お遊びとしてはおもしろいかなと思ってたんです。
秀丸で動作する秀丸マクロでつくってたんですが、三ヶ月もほったらかしにしてますと、もうすっかり忘れてしまってます。また、いちからですわい。いろいろ試しながら完成させることにします。
いつまで続くかわかりませんが、あらすじ自動作成マクロについて、可能な限り記事にしたいと思います。たぶん、とちゅうで妥協しそうな気がしますが……。
清原憲史{きよはらのりふみ}は憤怒の形相で、店員にむかって枕を投げつけた。
ナノテク技術を取りいれた最新枕が、豊満な胸にあたって跳ねあがる。
「お客様、どうなさいました?」
店員は動じず、落下した枕をキャッチした。微笑さえ浮かべている。口紅が店舗の照明を反射して、赤く濡れ光った。
清原は額の青黒くなった痣を指さし、大声でどなった。
「枕のせいだ! まともなのと交換しろ!」
最近になり、清原はどれだけ睡眠をとっても、まるで寝た気がしなくなっていた。体の疲れはとれているが、睡眠欲が満たされないのはつらいと、頭を抱えていたのだ。
「そういうことで、昨日ここで買ったんだ」
どなってすっきりしたのか、清原は落ちついた声で説明した。
「それはありがとうございます」
店員に礼をいわれた。シミひとつない綺麗な笑顔からは、物に動じないぞというオーラがにじんでいた。クレーム処理に慣れていますという印象を受ける。
ナノテク枕を買ったのは、「夢がふくらむナノテク技術」という売り文句に惹かれてだ。複雑に織り込まれたナノテク繊維が、頭にジャストフィットする助けとなるらしい。
寝心地はよかった。うとうとしていたところまでは覚えている。その後、眠りに落ちたのだろう。夢を見ていた記憶がある。さすが、「夢がふくらむナノテク技術」である。
だが、いきなり起こされてしまった。
頭を強く押されたかと思った刹那、勢いもそのままに、タンスに額をぶつけたのだった。
「当店の枕と関係があるのでしょうか?」
「枕を変えた直後なんだから、関係ないわけないじゃないか。オレが考えるに、枕が元の形に戻った反動ではじかれたんだ!」
「それは大変失礼いたしました」
店員が頭を下げると、肩で切りそろえられた黒髪が、はらりと流れた。
「ですが、お客様」
店員が顔を戻しながら、耳のうえに髪をかきあげた。
「そのようなクレームは、ほかにございません。こういってはなんですが、お客様ご自身に問題があるのではないでしょうか?」
「はあ!? 責任逃れか!」
「いいえ、責任からは逃げません。なぜそうなったのかという原因を、責任をもって究明させていただきます」
店員が不敵に微笑んだ。
タイトスカートを張りつめさせたヒップが、左右に揺れ動いていた。店員が三脚を立て、ビデオカメラをセットしているのだ。
「念のため、本社に確認をとりました。やはり、同様のクレームはないということです」
「はあ。それはどうも」
清原が布団のうえであぐらをかき、店員を横目で盗み見ながら返事をした。慣れ親しんだ寝室とは思えなかった。すでに怒りのエネルギーは霧散し、あいたスペースに戸惑いが滑り込んでいた。
どういう話になったのか。くわしくは覚えていない。店員のペースに巻き込まれ、いつのまにやら、昨夜と同じことが起こるか確認することになってしまった。
そして、この状態である。
「技術部の者とも話しました。おっしゃるとおり、ナノテク枕の復元力は、人間の頭をはじくぐらいの力があるそうです。ただし、頭が乗っているかぎり、枕が戻ることはない。物理的にありえないと、断言しております」
ビデオカメラとノートパソコンをつなげ、
「セット終了です」
と、店員がきっちり膝をそろえて正座した。
「事が起こるまで、ここで待機させていただきます。カメラは検証のため設置しました」
「いや、その」
「さあ! お眠りください」
静かなる気迫に押され、清原は横になった。店からもって帰ってきた枕に頭をあずける。眠るために目を閉じるが、睡眠天使はいっこうにやってこなかった。まだ午後九時をすぎたばかりなので無理もない。しかも、まぶたを透かして、照明の光が見えるしまつだった。
「店員さん、すみませんが」
目をあけた清原の眼前に、そろえられた膝頭があった。とまどってそらした視線の先に、店員の微笑が待ち受けていた。
清原は咳払いを挟んでから、
「眩しいから照明を切ってもいいですか?」
「ダメです」
にべもなく、ぴしゃりとやられた。
「暗くすると、カメラに映りません。ですが、眠れないというのも問題ですね。しょうがありません。台所をお借りします」
立ち上がった店員が、隣室へと姿を消した。しばらくして、レンジが「チン」と鳴る。
「お待たせしました」
鼻腔を甘い匂いにくすぐられた。
「これをお飲みください」
差しだされたマグカップにはミルクが満たされ、ほんのりと湯気が立っていた。
「体が温まって、すぐに眠くなりますよ」
清原は店員にいわれるまま、素直にホットミルクを飲んだ。横になり、まぶたを閉じる。
「では、眠くなるまでお話をしましょう」
「はあ」
「確認です。額をぶつけたとき、眠っていたんでしたよね?」
「ええ」
「横になっていただけでしょうか? それとも、完全に眠っていた?」
「うとうとした後でしたし、夢を見ていたような気がするので、眠っていたと思います」
「どんな夢を見ていましたか?」
「よく覚えてませんが、手足をのばしてのびのびしていたと思います。――あの、こんな話をして意味あるんですか?」
「確認という退屈で単調な話なので、眠りやすいかなと思いましたもので。それに、睡眠薬が効くまで間がもちませんし」
睡眠薬という単語に、清原は跳ね起きようとし――できなかった。思うように動けない。瞼も重い。意識は際限なく希薄に拡散し霧消。
「眠れないということでしたので、さきほどのホットミル――」
店員がいい終わるよりも早く、清原は眠りの沼に沈んでいった。
目が覚めたのは、跳ばされた瞬間だった。
またか! と額を両手でガードしようとするが、起き抜けでは動きがにぶすぎた。緊張で体を固くしたが、想像した痛みはやってこなかった。やわらかく跳ね返されただけだ。
布団のうえに尻もちをついた清原は、目をしばたたいた。ふくよかな胸をそらした店員が、タンスの前に立っていた。
「まったく、驚きだわ」
あごに人差し指をあて、何事か考えているふうに、ビデオカメラまで歩いていく。
「映っていれば、いいのだけれど」
店員はあごからはなした指で、カメラの停止ボタンを押した。
清原は座り込んだ姿勢で、彼女の動向を見守るしかできなかった。声をかけようとしても、なにをいえばいいのかわらず、喉からは息しかでてこなかった。
店員がカメラをテレビに接続し終わり、こちらをふりむいた。
「原因がわかりました」
再生ボタンが押された。
「お客様がどなり込んできたとき、おしゃっていましたね。最近は寝た気がしなくなったと。でも、体の疲れはとれていると」
モニタの映像は、ミルクを飲んだ直後まで進んだ。
「眠る前の話では、夢を見ていたような気がするとおしゃっていた。手足をのばしてのびのびしていた、と。自由を満喫していたのでしょう――見て、ここからよ」
清原は唾を飲み込み、画面に見いった。
「うぐ」
喉から、声にならない声が絞り出された。
「技術部のいったとおりでした。枕に頭が乗っているかぎり、枕が元の形に戻ることはない。逆にいえば、頭が乗っていないとすれば、枕は元に戻るということ」
モニタの映像では、たしかに枕が元に戻っているのが確認できた。跳ね飛ばされ、店員の胸に跳ね返される自分を見ながら、清原は体を震わした。
「そんな、まさか……」
「信じられないのも無理ありません。ですが、事実です。そして、やはり。枕のせいではなく、あなた自身に原因があった」
店員はいい終わると、機材を片づけはじめた。手際よくおおきなカバンに収めていく。
「この枕は返品されたほうがいいでしょう」
店員が枕の代金を置き、かわりに枕を片手につかんだ。
「では、失礼いたします」
一礼し出ていった。
静寂が支配する部屋の中、清原は自分が見た映像をもう一度思い出した。
自分の体から白いもやのようなモノがでて、手足を大の字にひろげるのを。
体という殻から開放された魂が、のびのびとしている様を。
「夢がふくらむナノテク技術か」
ポツリつぶやく。
ナノテク枕は物体としての頭ではなく、魂の頭が離れたことを感知し元の形に戻った。
清原はそう納得し、ナノテク技術に改めて舌を巻いたのだった。
店員は機材を所定の部署に返した。
「お疲れ様です」
労いの言葉をかけてくる担当に、片手をあげてこたえ、更衣室へむかう。その背に、
「ああ、それと三村さん」
と、担当の渋い声があたった。
「パソコンやビデオカメラは、もっと丁寧にあつかってくださいよ。三脚やらといっしょにカバンにしまってるじゃないですか」
「気をつける」
三村と呼ばれた店員は、更衣室にはいった。ため息をつきながら服を脱ぎはじめる。
今日も不良品に関する苦情を処理した。返品を幽体離脱など嘘八百。映像に細工するなどは、パソコンを使えばたやすかった。
絵空事を躊躇なく口にできるという才。それゆえにクレーム係にされたが、もう疲れた。
ウソをつくこがではない。
店員は服をすべてぬぐと、両胸のふくらみをつかんだ。
「肩こるんだよな、これ」
店員がやおら胸のふくらみをひねった。
あっけなくとれた。
さしたる感情の起伏もなく、ヒップにも手をかけ、同じようにむしりとる。手は首のつけ根あたりに移動し、顔の皮をめくっていく。
光にさらされたのは、男の顔であった。カツラはいつのまにか床に落ちている。
「ふう、すっきりした」
声も男のものであった。いまはいだ顔は、首のところに変声機がついているのだ。
バストとヒップはスタイルアップツールで、顔に装着していたものは変装ツールだった。いずれも試作品だが、このテストがうまくいけば、製品化もありうるかもしれない。
クレーム処理係は女性のほうがやりやすいが、店内でクレーム処理に耐えられる女性はいなかった。返品を受けつけるくらいならだれでもできるが、口コミで不評が広がらないようにするためには経験が必要なのだ。
本社の開発部から、二種の試作品が届けられたのはごく最近だった。テストをかねて、使用させられているというわけである。
「夢がふくらむナノテク技術か」
安易に鼻の下をのばせなくなったなと苦笑しながら、店員はつぶやきを落とした。
円天という独自の通貨でワイドショーに名をとどろかせたエルアンドジー。そのエルアンドジーの波和二会長がブログを開設している。波和二会長のブログは円 天 /波 和二である(ちなみにBIGLOBEのウェブリブログが利用されている)。
夢見がちな中学生の妄想かとうたがう内容だ。しかし、実際に何億円と集めた詐欺師が書いたというバックボーン込みで読むと、すこぶるおもしろい。痛い発言ばかりなので鼻で笑ってしまいそうになるが「すわ、詐欺師がひとをだますテクニックとはこれか!?」と深読みできる記述もある。ブログに書かれている内容はおおむね笑ってしまうが、なあに、それが詐欺師の手練手管なのだ。わたしが書くようなへたな小説より何倍も愉快である。
――ねんのために書いておくが、わたしは波和二会長のシンパでもないしエルアンドジーの社員でもない。あかり会員でもなければ友人知人にも会員はいない。まったく無関係の人間だ。もちろん円天をすすめているわけでもない。「欺術」よりもおもしろい読み物だと、ただそれだけをいいたかったのである。
とっても汚くて、とっても臭いと、けんたろうくんは思いました。
川原の草むらにたおれている男の子のことです。
よごれてまっ黒の体に、ぼろきれをまとわりつけています。ちかくをハエが飛んでいます。
ううううう
と、男の子がくるしそうにうなりました。
けんたろうくんはお母さんの言葉を思いだしました。
「こまっている友だちがいたら、助けてあげないとだめよ」
お母さんはこうもいいました。
「服がよごれるようなことしちゃだめよ」
男の子をたすけると、服がよごれてしまいそうです。男の子は汚くて、臭いからです。
お母さんのいいつけは、どうやっても守ることができません。
けんたろうくんは、少し考えて、じぶんの好きにするようにしました。
汚くて臭い男の子に近づいていきます。
助けるといっても、どうやればいいのかわからないことに気づきました。
とりあえず、けんたろうくんは男の子の体にふれて、ゆらしてみました。
男の子が目をさましました。
桑島健太郎{くわしまけんたろう}は頬に小さな、しかし無視できない痛みを感じた。
クラスメイトのいたずらで、シャーペンの芯が投げつけられたわけではない。痛みを感じたのは左の頬だった。そちらがわには、窓しかない。
虫刺されでもないだろう。教室内でときおり鼻をすする音がするくらいだ。震えるほどではないが、この季節、二階まで飛ぼうという元気な虫はいない。
二度目のチクリがきた。
左頬をなでる。
あと五分で、退屈な古文の授業が終わる。頬がどうなっているか、鏡で確認したほうがいい。
だめだ。昼休みだった。購買に行って、カツサンドを買わなければいけない。
鏡かカツサンドか。
健太郎は、どちらにしようか頭をひねった。
また、チクリ。
さっきより痛い。
窓のほうをむいた。いつもとちょっぴり違う景色がそこにあった。曇り空のことではない。校門に、ふたりの人物が立っていたのだ。
ひとりは黒髪を腰までのばした女子だ。見覚えのある制服は、海鳴高校のものだろう。教室からは距離があって顔はよく見えないが、きっと美形に違いない。立っているだけで、さまになっている。美女でなければウソだ。
もうひとりの男は、帽子を目深にかぶっているので、人相はまったくわからない。こちらは夕艶高校の、つまりこの学校の、制服を着ている。
チャイムが鳴った。
男が帽子をかすかにあげた。
あの痛みが、おでこに刺さった。
教室内の喧騒をかすかに耳に感じながら、桑島はおでこをさすった。
わかった。
小さな、しかし無視できない痛みは、あの男の視線が刺さっていたのだった。
汚くて臭い男の子は、元気になりました。
どうして元気になったのかはわかりません。
けんたろうくんは、あの日から、給食のパンをのこして、川原にもってくるようになりました。男の子にあげているのです。
男の子の名前はわかりません。うー、とか、あー、とかしかしゃべらないからです。
顔のあちこちが、おおきくふくらんでいて、じゅぶじゅぶと黒い汁がでています。男の子が汚くて臭いのは、その汁のせいです。
どこからきたのかもわかりません。ぼろきれを体にまいているのは、服がないからでしょう。
汚くて臭い男の子は、草むらに寝てしまいました。パンを食べるといつもそうです。
けんたろうくんは、ぼんやりしていました。きょうは体育で、さかあがりができませんでした。
「くわしまくーん!」
女の子の声に、ふりかえります。クラスメイトのこじまさんです。かわいくて、いいにおいのする女の子です。下のなまえは、みことです。こじまみことさんです。
こじまさんが、川原へおりてきます。両目の下に、それぞれほくろがあります。かわいいです。
こじまさんもさかあがりは苦手です。だから、なかよくなれました。
「なにして……」
こじまさんの声がとぎれます。息をすいこむ音がきこえました。
けんたろうくんはふりむきました。
汚くて臭い男の子がたちあがっていました。
校舎からでて、桑島健太郎は空を見上げた。昼間よりも、雲が黒い。
雨が降るか、降らないか。
健太郎はちょっと考え、降らないことに決めた。いくら考えても、天気がどうなるかはわからない。自分の好きなほうにしてしまっていいだろう。
帰宅していく生徒たちが、校門をぬけていく。健太郎もその群に合流して、校外へとでた。左右を見回す。あのふたりがいるかもしれないと思ったのだが、杞憂だった。
いったいあの男女は何者だったのか。痛みを感じるほどの強い視線。男はいったいなにを見ていたのか。
自分には関係ないさ、と健太郎は歩きだした。数歩といかないうちに、アスファルトに黒い点がついた。見る間に数がふえていく。
かるいため息をついて、かばんを頭の上においた。雨にはぬれたくなかった。軽く駆けて家路を急ぐ。雨足のほうがはやかった。たちまち本降りになって、追いたててくれる。
健太郎はたまらず、帰宅途中にある公園へ飛びこんだ。園内の何ヶ所かに、東屋があった。そのひとつに駆けこむ。
「本能的に雨をいやがるだろうという予想」
女の声がした。
「あたり、ね」
東屋の屋根を支える太い柱。その裏側から声がした。
無視するか、声をかけるか。
健太郎が決定する前に、柱の影からその女がでてきた。
「あ」
無意識に、口から声がもれた。
彼女も雨にあったのか、黒髪が艶をおびて腰まで流れていた。海鳴高校の制服に身をつつんだ美女は、校門に立っていた女性と同一人物だった。
「はじめまして」
女が目をほそめた。ミステリアスに見えるのは、泣きボクロが両目にあるせいだろう。
女が、今度は、唇のりょうがわをつりあげて笑った。
「小島美琴よ。よろしくね」
こじまみことさんが、おおきく目をあけて、一歩うしろにさがりました。汚くて臭い男の子におびえたのです。
男の子は顔のはれものから、じゅぶじゅぶと黒い汁をだしているのです。いやがられて当然です。
けんたろうくんは、こじまさんに男の子のことを話そうとしました。
できませんでした。
男の子のほうが早かったのです。
迷うことなくこじまさんに近づき、右手をまっすぐに突きだしました。
なにをするつもりなのかわからなかったので、けんたろうくんは邪魔ができませんでした。あっと思ったときには、もう男の子の腕が、こじまさんの胸から背中へ貫通していました。。
けんたろうくんは、ショックでピクリとも動けませんでした。
「邪魔、だ」
だれの声かわかりませんでした。
でも、ここには二人しかいないし、けんたろうくんはしゃべっていませんでした。
「やっと、話せる、ように、なった」
汚くて臭い男の子が、腕を引きぬきました。こじまさんがくずおれます。
「心配、するな。この女は、本物じゃ、ない。本物は、あちらの世界、にいるはずだ」
男の子がいい終わらないうちに、たおれたこじまさんが変わっていきます。顔のあちこちが、大きくふくらみはじめ、じゅぶじゅぶと黒い汁がでています。目玉からぷちゅぷちゅと汁がでて、どろりとこぼれ落ちました。どんどん汚くて、臭くなっていきます。手や足もどろどろにとけてます。
桑島健太郎は目線をさまよわせた。
こじまみこと。その名前が記憶のどこかにひっかかる。どこかで聞いたことがあるような気がした。
「わたしね」
困惑もおかまいなしに、小島美琴がしゃべりだした。目をとじ、腕をひろげて、おおきく息をすう。微笑がうかんだ。
「こちらがわの空気を吸うのは、ほんとひさしぶりなのよ。洗われるわ、肺のなかがね」
健太郎はあとずさった。この女、ちょっとおかしいんじゃないかということに、いまさらながら気づいた。
「怖がらなくてもいいわ。気がふれたわけじゃないから」
小島が目をあけた。
「わたし、ずっとあちらの世界にいたのよ。小さなころからずっとね。つい最近なのよ、帰ってきたのは」
小島が東屋の屋根から手をさしだして、雨粒をうけた。
「これから、家に帰るとこ。十年ぶりになるかしら」
「えっと……」
「だれかのせいで、これから大変よ。十年も行方不明になってた言い訳をしんじさせないといけないんだものね」
「あの……ぼくはそろそろ」
雨に濡れるのはいやだが、これ以上ここにはいたくない。ひきつる頬にそんな思いをこめ、健太郎は体を反転させた。
「ほんとは身代わりがいるはずだったんだけど、だれかに壊されちゃったのよね。ほんと、こまっちゃうわ」
こじまさんが、どろどろとまるで泥のような固まりになってしまいました。彼女のふくだけが、泥のなかにうもれています。
「嫌い、なんだよ」
汚くて臭い男の子がいいました。
「自分と、おなじものが、嫌い、なんだよ。同属嫌悪、ってやつかな」
「あ、あああ、あ、ああ……」
けんたろうくんは、言葉をだせませんでした。いったい、なにがどうなって、こうなっているのでしょう。まったくわかりません。
「しかし、身代わりを、こわした」
けんたろうくんのとまどいをよそに、汚くて臭い男の子はしゃべりつづけました。
「あったことはないが、本物の小島美琴、あとで、きっと、苦情をいってくるだろうな」
東屋の外へ駆けだそうとした健太郎の背中に、その言葉がぶつかった。
「昔、あちらの世界から、こちらの世界へ、男の子がひとりやってきた」
健太郎はたたらをふんだ。
「身代わりとしての役目をはたすためにね。こちらの世界へやってきて、最初にさわった人間をコピーして、すりかわるために」
なにが琴線にふれたのか、健太郎はふりむいた。
小島美琴が右目の泣きボクロにふれ、
「もともとあちらの世界の泥が原材料だから、姿かたちをまねるのは簡単なのよ。粘土細工みたいなものね。すごいのは、言葉や性格もコピーできるってこと。どういう原理かは、わたしは知らされてないわ」
健太郎の頭に浮かんだ言葉はふたつだった。
信じる、と、信じない。
信じないのは簡単だ。そんなバカな話と一笑にふせばいい。信じることも簡単だ。美人の発するオーラにのまれればいい。
健太郎はどちらも選ばなかった。いつものように、好きにしたわけでもなかった。
ただ、理解したのだった。彼女の言葉にまちがいはないと。
靴の音が背後でした。
健太郎はふりかえる寸前、小島のくちびるのはしがつりあがるのが見えた。
東屋内に、男がはいってきていた。夕艶高校の制服だ。帽子を目深にかぶっているので、人相はまったくわからない。
「よお、ひさしぶり」
男が右手をあげた。どういうわけか、その声は健太郎にそっくりだった。
「やっと会えたな」
「あ、あなた……」
健太郎は一歩うしろにしりぞいた。頭のなかで、危険信号が明滅していた。
「どういうわけか、すっかり自分の記憶をなくしてるみたいだな」
健太郎にそっくりの声で、男がいった。
「オレがお前をうらんでいる理由なんて、想像がつくまい」
「う、うらむ? ぼくを?」
男はすぐには答えず、もったいぶった動作でつばに手をかけた
「ああ、そうだ。お前をうらんでいる」
男が帽子をはずした。
「うらんでいるぞ。名なしの泥人形め」
と、健太郎をゆびさした男の顔は、健太郎とうりふたつだった。
はあ、はあ、はあ。
けんたろうくんは、自分の息の音をききました。耳のおくで、血もどくんどくんといっています。
こじまさんのことにショックを受けたのもそうですが、それだけではありません。
汚くて臭い男の子の顔が、どんどんかわっているからです。
顔にできていたはれが、ぼろぼろとかさぶたがはげるように落ちていきます。でていた黒い汁も乾燥して風にとばされていきます。
汚くて臭い男の子ですが、いまはもう汚くて臭くありません。何分もしないうちに、むきたてのゆで卵のように、つややかでなめらかな肌をしています。
着ているのはあいかわらずボロですが、そんなことは着替えればすむことです。
男の子が笑いました。
「今日から、オレが健太郎だ」
男の子の顔は、けんたろうくんとうりふたつになったのでした。
けんたろうくんは、あとずさりました。
じぶんそっくりの男の子が、すぐ目のまえにあらわれたのです。無理もありません。
けんたろうくんは、もう一歩、うしろにさがろうとしましたが、できませんでした。
足首をなにかにつかまれたのです。見おろしましたが、なにも見えません。でも、たしかに足首はつかまれているのです。
ついにけんたろうくんは、恐怖に悲鳴をあげそうになりました。
叫び声はでませんでした。なにかが首をしめたのです。
なにかは、腕をつかみ、胴をつかみ、体中のあちこちをつかんできます。けんたろうくんは身動きできません。
「さようなら」
けんたろうくんそっくりになった男の子は、にっこり笑って手をふりました。
けんたろうくんの体がもちあげられます。空中にういているように見えます。
目をむいたけんたろうくんが、なにもない空中に吸いこまれていきます。
着ていた服や、クツが、ポロポロ落ちてきます。あちらの世界にいけるのは、けんたろうくん本人だけなのでした。
けんたろうくんそっくりの男の子は、落ちた服に近づきます。服を着て、なにくわぬ顔で、けんたろうくんになりすますのです。
いえ、こちらの世界では、この男の子がけんたろうくんなのでした。
「どういうわけか、自分が泥人形だということをわすれているらしいな。欠陥品か。耐用年数が近いからか。いったいどっちかな」
帽子の男が、にやりと笑いました。
「どちらにしろ。すぐに壊す。欠陥品ということにしておこう」
桑島健太郎は生唾をのみこんだ。壊す? なにを? 泥人形とはいったいなんのことをいっている?
答えをだす前に、健太郎は走りだした。東屋の外に飛びだす。
健太郎はすべってころんだ。水をふくんだ土がほおをこすった。ぱらぱらと、その体に雨が。こんなときにすべって転ぶとは、なんたるドジ。
「ドジなんかじゃないさ」
男が東屋からでてきた。
「あちらの世界で訓練を受けた。オレは手をふれずに物を動かせる。転がせることくらいわけないさ」
男の声をききながら、健太郎はにぎりこぶしをつくった。頭のなかの危険信号は、ずっと鳴りっぱなしだ。
「長かったぞ、十年は。お前がこちらの世界でオレになりすましてのうのうと生きているあいだに、本物のオレがどんな目にあっていたか、想像できないだろう」
本物のオレ? 健太郎は上半身をおこして、男をにらみつけた。
健太郎の顔で男は、
「十年前、お前に出会ってなければ、いや、ふれていなければ、こんな目にはあわなかったのにな」
と、右手を肩の高さにあげた
「お前ら、泥人形の壊しかたは知っている」
帽子の男がアクションをおこす寸前、健太郎は握り拳をふった。
ふる動作の途中で、手をひらく。
つかんでいた土が空中で拡散し、男の顔面をうった。
健太郎は起きあがり、脱兎のごとく駆けだした。
「わたしがいるのよ」
小島美琴の声だと判断するよりも早く、天地が逆転した。
背中をしたたかに打ちつけたのは、次の瞬間だった。
一瞬、息がとまる。
「わたしも、あちらの世界にいたのよ」
「お前にはもう関係ないことだがな」
男の声が、すぐそばでした。
行動をおこさなければならないとわかっていても、痛みで思うように体がうごかない。
男が軽く息をはくのが聞こえた。
胸をなにかが貫通したのを感じたのが、最後の感覚だった。
雨はまだ、しとしとと降りつづけていた。
「この町の」
小島美琴が、桑島健太郎の制服をひろいながら、
「燃えないごみの日って、いつなのかしらね」
「さあ、ね」
帽子の男――いや、ほんものの桑島健太郎は、興味さなそうにいった。
けんたろうくんは川の水で、体の汚れをおとしました。
川の水もきれいとはいえませんが、自分の体についている黒いあかよりはましです。
脳内で、オリジナルのけんたろうくんの情報が整理されていくのがわかります。服をきて、家に帰るころにはより完璧にに近づいているでしょう。
けんたろうくんは川からあがると、服のあるところまで歩いていこうとしました。
「ん」
と、みけんにしわをよせます。
おかしいのです。なにがおかしいのかはっきりわかりませんが、川にはいるまえといまではなにかがちがっているのです。
なにかがちがう。
その違和感が、けんたろうくんをその場にあしどめさせてしまいました。
けんたろうくんがもっと鈍感で、違和感に気づかなければ、あるいはもっとちがった結果がまっていたかもしれません。
けんたろうくんが固まっていると、草かげから、なにかが飛びだしてきました。
いえ、なにかではありませんでした。どろどろにとけた黒い液体――こじまさんのざんがいです。生きていたのです。なんという執念でしょう。
けんたろうくんの動きも、けして遅くはありませんでした。感じた違和感が、こじまさんのざんがいが見えなかったことだと看破した瞬間には、すでに行動をおこしていました。
しかし、こじまさんのざんがいは、それよりも早かったのです。体の大部分がとけ、体重がへっていたためでしょう。
「うげ」
こじまさんが、けんたろうくんの口に飛びこみました。
桑島健太郎と小島美琴が去ったのち、十五分ほどたっただろうか。
黒い泥の山がもぞりと動いた。表面が雨にぬれ、流れる水に少しづつけずりとられている。ほうっておけば、水にとけていくだろう。
しかし、濡れているのは表面だけだった。そのなかの本体が、もぞもぞと屋根のある東屋まで移動していた。
十年前、健太郎の泥人形のなかに進入し、侵食して征服した小島美琴の泥人形だ。いや、その残骸であった。
生きる、という意志であろうか。東屋の屋根の下へ、雨を逃れる。ナメクジのようにはいすすみ、柱の影にかくれる。
それから、どれくらいたっただろうか。雨を逃れるように、一匹のノラ犬が東屋にはいってきた。
小島美琴の残骸は、そのチャンスを見逃さなかった。柱の影からおどりでると、犬の口内へとすべりこんだ。
桑島健太郎は頬に小さな痛みを感じた。
クラスメイトのいたずらで、シャーペンの芯が投げつけられたわけではない。痛みを感じたのは左の頬だった。そちらがわには、窓しかない。
蚊にでもさされたのだろうと、健太郎は気にもとめなかった。
額ににじんだ汗をぬぐう。
蚊にさされたことも、汗をぬぐうことも、ほんとうにうれしかった。あちらの世界では、蚊もいないし暑くもない。こちらにもどって半年たつが、毎日が充実していた。
健太郎は窓のほうをむいた。夏の空を見ようとしたのだが、いつものとちょっぴり違う景色がそこにあった。
校門にノラ犬が一匹たたずんでいた。
ノラ犬はうらめしそうに上目づかいでにらんでいたかと思うと、どこかへトコトコと去っていった。
最近、おっさんと話していないなと思っていたが、家の前を通って納得した。
葬式をやっていたのだ。直感で、あのおっさんが死んだのだと理解できた。
ぼくは喪服を着た人びとから目をそらし、正面だけを凝視して、急ぎ足で通りすぎた。
角を曲がったあと、首をすくめてうしろをふり返る。おっさんの霊がついてきてやしないかと心配したが、暗い道がのびているだけで、おばけのたぐいどころかひとっこひとりいなかった。
おっさんにたいして、うしろめたい思いがあるわけではない。ぼくは子供のころから霊感が強く、幽霊にも好かれるようなので、もしやと心配しただけだ。
徒歩で出社しているぼくは、ほぼ毎日といっていいくらい、あのおっさんと朝の挨拶をかわしていた。決まった時間に家の前に立ち、微笑みながらたたずんでいるおっさんは、だれかがそばを通るたび、「おはよう」と会話の口火をきるのだった。
定年退職で手持ち無沙汰になり、出社時間にだれかれともなく挨拶するようになったおっさん。
ぼくはそう理解していた。柔和な雰囲気を漂わせているだけでなく、会話のなかに折り目正しさがうかがえたので、きっと部下には慕われていただろう。
おっさんの葬式を目撃してから数日は、別の道を通って出社した。遠回りになってしまうが、半透明のおっさんがいつも通りに挨拶してくるような気がして、脚が自然と別の道を選んでいた。
だが、一週間もたつと、さすがに恐怖も薄らぎ、通いなれた道で出社することにした。
それでも、首をギプスで固定したみたいに真正面だけを見すえて、おっさんの家を通りすぎる。
なにもおこらなかった。「おはよう」の声もない。
幽霊に遭遇しなくてすみ、ぼくはほっとしながらも、寂しさを感じていた。
脚をとめてふりむいた。家の前にはやはりなにもいなかった。
おっさんのいたのと同じ場所に立って、同じ方向をむいてしまったのは、だから寂しさを紛らわすためだったかもしれない。
ぼくは驚きで息を飲んでしまった。霊感が強いせいで、幽霊に遭遇したのは一度や二度ではないが、こんなのは初めてだった。
道を挟んだ向こう側に、全裸の女が立っていたのだ。半透明なのは幽霊だからだろうが、彼女の肉感的な体に、そうと知りつつ生唾を飲み込んでしまった。
全裸幽霊は隣り合った家の隙間にいた。左右の壁に肩をこすりつけるようにすれば、ひとひとりがなんとか通れそうなほど細い路地である。
彼女は顔に笑顔を貼りつけたまま、狭い場所にもかかわらず、器用に踵を返した。おおきな、しかし形のいいヒップをふりながら、しゃなりしゃなりと奥へむかっていく。行きどまりにつくと、右へと曲がった。幽霊特有の能力で壁をすりぬけたわけではなく、路地自体が右に折れているらしい。
ぼくは上半身をひねって、背後を確認した。全裸に誘われて前に出ていたので、さっきまで立っていた位置が視界にはいってくる。
おっさんが生前立っていた場所だ。手持ち無沙汰で立っているものだと思い込んでいたが、もしかしたら、女性の全裸幽霊を眺めていただけなのかもしれない。「おはよう」という挨拶も、そうやって視線を自分に集めて、路地のほうへ目をむけさせないためか。
「独占欲」
ふいに口をついてでた言葉だった。「老いてなお盛なり」とまで声にすれば、「まだ老いたつもりはない」と、おっさんが化けてでてくるかもしれない。
ぼくは左右を見回して、だれかいやしないか確認した。細い路地にはいる直前に、もう一度、周囲をうかがった。だれかがいれば深追いをやめようと考えていたが、ひとっこひとりいなかった。
両肩を壁にこすりながら、ぼくは路地の奥をにらんでいた。
見上げれば、細い空をうかがえただろうが、視線を切るのはためらわれた。得体の知れないものが飛び出てきやしないかと用心しながら、奥をめざしていく。
余人がいれば、不思議に思うかもしれない。葬式から視線をそらすほど霊を恐がっていたのに、どうして路地にはいったりしたのだろうかと。幽霊の裸に魅入られた、という理由を想像されるとしたらショックだ。もてる男ではないが、そこまで飢えてもいない。
全裸幽霊に驚いたのは、すっぱだかだったからだけではない。なにも気配がしなかったのだ。
この世のものではないから当然だといわれるかもしれないが、精霊のたぐいとは違い、幽霊が出現するときには、言葉にはできないなにかしらの気配が発生するのだ。ぼくにはわかる。その気配がなかったので、気になってあとを追っているのだった。
くり返しになるが、けして色香にまどわされたわけではない。彼女いない暦は二十五年になるが、服を着ていないぐらいで、未知の存在にのこのこついていくほど、すけべではないのだ。
路地が右に折れる手前で、ぼくは脚をとめた。曲がり角から、そうっと、顔を半分だけだす。下半身はうしろに引きぎみで、はたから見れば情けない姿だろう。
曲がった道の先には、なにもなかったし、なにもいなかった。細い路地はまっすぐのびて、ブロック塀に突き当たっている。そこから左に曲がっているようだ。
ぼくは来た道をかえりみた。
逡巡は五秒ほどだったろうか。脚が奥へ踏み出した。
道が折れるたびに、なにかいるかもしれないと恐々確認しながら、へっぴり腰で進んでいく。
そうして、何度か曲がり、そこへ辿りついた。東西南北、四方向を家に囲まれた狭い土地だった。ひろさは二畳ほどだろうか。地図にも載っていなさそうな、小さな空き地である。土地の権利関係がどうなっているのか不思議だった。まわりを囲んでいる家主のだれかが、所有しているのだろうか。
その空き地には、雑誌がうず高く積もって小山を作っていた。高さは身長を越えるほどもあるだろうか。
一冊、手にとってみた。表紙には、布地の少ない水着を着た女性が、官能的なポーズをとっている。ページをめくれば、全裸の女性ばかりだった。ほかの雑誌も同様で、服を着ている女性はひとりもいなかった。
いわゆるエロ本である。
東側にある家の二階で、カーテンが揺れるのが見えた。
ぼくは路地に引き返し、かがんで身をひそめた。
二階の窓がひらき、中学生くらいのにきび面の男が顔をだした。
なにをするのかと注視していると、彼は雑誌を数冊、窓外に放りだした。エロ本の山に、新たに積もる。
なにが起こったのか。しばし考えをめぐらした末、ぼくは膝を打った。
にきび面はエロ本の処分に困り、家の裏に捨てていたわけだ。ここならひと目につかないし、四軒のうちどの家から捨てられたのか判別がむずかしい。
一冊二冊ならいい考えかもしれないが、さすがに小山になるほど捨てたのでは、いずれおおごとになろう。中学生という勢いのある年頃を考えても、度がすぎていた。
カーテンが閉まったのを確認してから、ぼくはまた、エロ本山に近づいた。
全裸の幽霊に誘われて待っていたのがこれでは、納得しがたかった。あの女性の出現は、なにを意味していたのか。
手がかりの片鱗でもないかと期待し、適当なエロ本を手にとってページをひらいた。
全裸の幽霊がそこにいた。半透明の体が小さくなっているが、形のいいヒップをふりふり、雑誌のなかでポーズをとっている。
ぼくはあっけにとられて、口をポカンとあけるしかできなかった。
全裸幽霊は魅力的な笑みを浮かべてから、紙ににじむようにして消えてしまった。あとには、下着姿の女がぼんやりと立っているグラビアが残るのみ。
そこでようやっと、ぼくは気づけた。幽霊だとばかり思っていたが、その実、エロ本の精霊だったのだ、と。
エロ本は見られてなんぼ。だれの目にもふれない場所に打ち捨てられるのは、本望ではないはずだ。だから、だれかの視線が欲しくて、エロ本の精が出現した。
おっさんも知っていたにちがいない。エロ本の精は、半透明なこと以外、いたって魅力的な裸体なので、失くすのはおしいと思ったのだ。だから、このゴミの山を見逃している。
ぼくも、おっさんにならおう。
回れ右をしてきた道を引き返した。これから毎朝、決まった時間に路地の入り口を見つめるようになるだろう。
ふりがなに使う括弧記号については、今回が最後である。これっきり。もう書かない――はずである。
ふりがなに使う括弧記号について(完結編)では、過去に書いた小説は{ }のまま残しておくと書いたが、やんごとない事情で( )に変更したくなるかもしれない。自作の小説は100以上ある。小説のファイルをひとつひとつ開いて{ }を( )に置換するのは手間がかかる。
そこで、秀丸で動作するマクロを作成した。「ふりがな括弧記号変換マクロ」だ。「ふりがな括弧記号変換マクロ」を実行すれば、同一フォルダにあるすべての小説で括弧記号が置換される。秀丸エディタを使用しており、ふりがなをあらわす括弧記号をかえたいかたにはオススメのマクロとなろう(わたし以外にいれば、だが)。
以下、そのマクロである。コピペして適当なファイル名で保存していただきたい。
// ■ふりがな括弧記号変換マクロ // ふりがなをあらわす記号として使用している括弧記号をかえる。カレントフォルダにあるすべてのテキストファイル(拡張子がtxt)が対象となる。// 括弧記号の設定
$kkmae1 = "{"; //置換したい括弧記号の始(使用している括弧に適宜変更のこと)
$kktoji1 = "}"; //置換したい括弧記号の終(同上)
$kkmae2 = "("; //置換したあとの括弧記号のはじまり(適宜変更のこと)
$kktoji2 = ")"; //置換したあとの括弧記号のおわり(同上)// ふりがなとしてあつかわれているだろう箇所の条件設定
// 1・ふりがななのだから括弧記号の直前は漢字であるはず
// 2・ふりがななのだから括弧記号内はひらがなのみであるはず
$furigana1 = "[亜-黑]\\f" + $kkmae1 + "\\f[ぁ-ん]+\\f" + $kktoji1;
$furigana2 = "\\0" + $kkmae2 + "\\2" + $kktoji2;// 括弧記号の置換
closenew;
grepreplace $furigana1,$furigana2,"*.txt",".",regular,backup;endmacro;
以上、「ふりがな括弧記号変換マクロ」であった。こうしたほうがもっとよくなるぞ、というあたたかいアドバイスは常に募集中。
何度もテストを重ねて問題はなかった。ただ、なにぶん素人がつくったものなので思わぬ動作をするかもしれない。マクロ実行前にバックアップをとることをおすすめする。
ふりがなに使う括弧記号について(後編)の続きである。
またその話か!
といわれちゃいそうだが、ごめんなさいと頭をさげるしかない。今回と次回の記事で(とりあえず)最後だからつきあってちょうだい。
ふりがなをあらわす括弧記号は( )を使うことにした。何回も記事をわけて書いたくせに、たどりついたのはもっとも無難な記号であった。くりかえす。ふりがなをあらわす括弧記号は( )を使う。
根拠はある。ふりがなをあらわす記号として( )を使用している書籍が多かったからだ。
市販されている小説でルビを使用せず括弧を使っているものは、わたしが探した範囲ではなかった(見つけられなかっただけかもしれない。情報求む)。
小説ではなく実用書のたぐいのなかには括弧記号を使用しているものがあった。括弧記号は( )だった。
手元の国語辞典も見てみた。巻末のアルファベット略語集で、ふりがなをあらわす括弧記号として( )が使われていた。漢字のふりがなではないが参考にはなる。また、雑誌などでも「Penryn(ペンリン)」のようにアルファベットに対しては括弧記号を使っている。
同じ国語辞典に干支表が載っていた。甲戌とか庚申というやつだ。これらもルビではなく( )でふりがながふられている。
ふりがなをあらわす記号として( )が圧倒的多数である。圧倒的多数ということは読者が慣れ親しんでいるということであり、読みやすいってことになる。逆に{ }なんて括弧は見慣れないので違和感を覚えるだろう。
これから書く小説では、ふりがなをあらわす記号として( )を使う。過去に書いた小説に関しては思い出としてそのままにしておく。けして面倒だからじゃないぞ! 思い出は大切なのだ。
ふりがなをあらわす括弧記号として{ }を使用しつづけていた。ふりがなを使用するのは主に登場人物の名前にだ。
勅使河原豚太郎{てしがわらとんたろう}はかたわらの美女へ視線をとばした。
と、こんな感じで{ }を使っていた。
でもね。{ }をふりがなをあらわす括弧記号として使いはじめた理由は――ないんですよ。{ }を使わなければならないこだわりのようなものは特にない。
パソコンで小説を書きはじめたころ、某所でアップされていた小説のほとんどがふりがなをあらわす括弧記号として{ }を使っていたからまねしただけ。とくに疑問にも思わず今日までそのまま。ふりがなに使う括弧記号について(前編)でも書いたけど再考したほうがよさそうだ。
ふりがなをあらわす括弧記号はいままでどおり{ }を使うか、あるいは別の括弧記号を使う。代替の候補としては( )か[ ]といったところか。
あるいはほかにも使える括弧記号があるかもしれない。件の『句読点、記号・符号活用辞典。』を買ったほうがよさそうだ。ほかにもほしい本があるのでまとめて注文しよう。
勅使河原豚太郎。
人名だ。さて、あなたはなんとお読みになられただろうか?
勅使河原は読めるかもしれない。てしがわら、だ。勅使河原の苗字をもつ有名人は意外にも多いので、どこかで見聞きしていることだろう。
では、豚太郎はどうか?
ぶたたろう、じゃないよ。とんたろう、だよ。
勅使河原豚太郎は「てしがわらとんたろう」と読むのである。もし、勅使河原豚太郎を小説に登場させる場合、ふりがなをふっておくのが親切だろう。
でも、ちょっと待った。オンライン小説だとふりがなをどうやってふる?
手書きの小説なら、勅使河原豚太郎の横に小さく「てしがわらとんたろう」と書けばいい。印刷物ならルビをつける。
オンライン小説だとそういった正攻法はできない。いちおうrubyタグがあるにはあるが、IEの独自採用なので使うのはためらわれる。
では、どうするか。
ふりがなをカッコで囲むのである。
勅使河原豚太郎{てしがわらとんたろう}は身をこわばらせた。
こんなふうに{ }で囲った部分をふりがなとする。
――いままでずっとそうしてきた。
ところが、である。
『句読点、記号・符号活用辞典。』を衝動買いしてみたらば の記事を読んで考えさせられたのである。記事の一部を引用しよう。
今までは「{ }」と言う括弧記号を使っていました。「ブレース」と言う名称だそうです。基本的には、数式で使用する。意味としては「まとめ上げる」役割を持っています。
いわれてみれば数学の授業で使用した記憶がある(使い方はすっかり忘れてしまったが……)。記号本来の意味からすれば{てしがわらとんたろう}という使い方は正しいとはいえないわけだ。
前述の記事ではさらにこう続く。
しかし今度、この辞書でボクは「[ ]」と言う括弧記号の存在を知りました。「ブラケット」と言う名称だそうです。基本的には他の括弧記号と似たような役割を持ちますが。特に、欧文における戯曲や台本でのト書き。そして、言語学や音声学で、音声記号を囲んで音声を表記するために使います。例えば、break [ breik ]
とこのように。辞書で音声を表記するために使う記号ならば、読み仮名に使っても意味が合っています。
国語辞典ならば、「墨付き括弧」と言う、このような「【 】」記号を使うのでしょうが。これは読み仮名に使うには、ちょっと派手すぎますし。
ブラケット記号あたりが、目立ちすぎもせず、普段から多用することもなく、適任かと思うのです。読み仮名[よみがな]
うん、なかなかに読み仮名として似合っているじゃないか。
この辞書とは『句読点、記号・符号活用辞典。』のこと。
多くのかたにとってはどうでもいいことだろう。
「どっちでもいいじゃん」
と思われているだろう。
でもね。気になるんだよなあ。なっちゃうんだよなあ。知らなければずっと{ }を使い続けていたんだけど、知っちゃったからなあ。この問題について、しばらく思案することになりそうだ。
短編小説「漢クリスマスケーキ」と短編小説「漢クリスマスケーキ」修正版(以下、修正版)の内容はほとんど同じです。短編小説「漢クリスマスケーキ」は二○世紀だったころに書いたもので、いま読むとたいへん読みづらかった。なるべく原文を残すようにしながら、読みやすく書きなおしたのが修正版になります。
短編小説「漢クリスマスケーキ」とその修正版では微妙な違いしかなく、読み比べても差異は感じられないかもしれません。なんとなく気にいらなかったので、わたしの自己満足で書きなおしたにすぎません。まだお読みになっていないようでしたら、修正版のほうだけ読んでいただければと思います。
でも、残暑の厳しいこの時期にクリスマスの話をアップしたのはいかがなものか。もうちょっと考えればよかったかも……(>_<) いまいちピンとこないよね。
最後になりますが「漢クリスマスケーキ」は「おとこくりすますけーき」と読んでください。作中にでてくる「漢」も「オトコ」と読んでください。では~。
クリスマスケーキは泣いた。
恋人のモンブランがつぶれてしまったからだ。
同じケーキ職人に作られたとわかり、ふたりは意気投合した。つきあいはじめるのに時間はかからなかった。クリスマスイヴの今日まで、なんの問題もおこらなかったというのに……。
にもかかわらず、モンブランはつぶれてしまった。店員が段差を踏みはずし、モンブランもろとも床に転倒した。栗もクリームもスポンジケーキもぐちゃぐちゃにまざりあい原型すらとどめていなかった。
クリスマスケーキは店員の胸倉をつかんで壁へ押しつけた。モンブランをかえせと、血を吐くように叫んだ。店員は目をそらして口を閉ざした。なにもいわない。いえるわけはないのだ。
「そのへんにしておけ」
店のマスターに肩をつかまれた。
「モンブランなんて星の数ほどいるだろ。別のモンブランを用意してやる。もっと栗の輝きが……」
マスターの戯言をみなまで聞かず手をふり払った。つぶれたモンブランを抱きあげ無言で出口をぬける。
「おい! クリスマスケーキ!」
マスターの声が背中にあたった。
「お前はクリスマスのためだけに生まれてきたんじゃないのか! それを放棄するのか!」
言葉が胸に刺さる。イヴの日にクリスマスケーキが店からでていってどうするというのか。存在理由を自分で否定しているのとかわらない。
――なんのために生まれてきたのか。
それは自問であった。しかし、答えはとうにでていたのではなかったか。
クリスマスケーキは走った。モンブランを抱いて駆けていく。自棄になったのではない。モンブランを助けるあてを目指しているのであった。
「ひったくりだ!」
叫び声と同時に周囲がざわめいた。
前方の人垣を押しのけて、ジャンパー姿の男が姿をあらわした。ブラウンのハンドバッグをつかんでいる。
「どけっ!」
男の恫喝にクリスマスケーキはすなおにしたがった。まかりまちがってひったくりと乱闘にでもなったら、抱きかかえているモンブランがもっとつぶれてしまうかもしれないから。
だから、クリスマスケーキはひったくりの進行方向からしりぞいたのだ。
ただし、右足だけは動かさなかった。
「うおっ!」
残した足に、ひったくりがつまずいた。もんどりうって倒れる。無防備なわき腹を思いっきり蹴ってやった。
「ふぎゃ!」
激痛でしばらく動けないだろう。あとは警察の仕事だ。
はらはらと様子を見守っている初老の婦人がいた。ハンドバックは彼女のものだろう。クリスマスケーキはひったくりからハンドバックを取りあげ、婦人へ手渡した。
「あの……」
婦人の言葉に片手をあげるだけでこたえ、クリスマスケーキはふたたび走りだした。
ケーキ職人の元についたのは、それから一○分後だった。
「やるだけはやってみる。保証はできんぞ」
ケーキ職人のいかめしい顔が、さらにいかめしくなった。しわも深くなる。クリスマスケーキの頼みは、それほどの難題だということか。
「だが、全力でモンブランをよみがえらせてやる!」
その断言は先の言葉とは矛盾していた。いや矛盾ではない。職人の意気込みであった。
クリスマスケーキは深々と礼をした。頭をあげたときにはすでに、モンブランと職人の姿は奥の厨房へと消えていた。
自分にできることはすべてやった――と緊張をゆるめるにはまだ早かった。まだなにかできるような気がした。その感情は錯覚なのだろう。できることなどなにもない。職人を信じて待つしかない。だが、なにかやっていないと心が張り裂けそうだった。
クリスマスケーキは祈った。いままで祈ったことはない。だが、祈った。それしかできないから。
扉がひらいた。厨房の扉ではなく出入り口のほうだ。
「やっと見つけたぜ」
ジャンパー姿の男がはいってきた。さきほどのひったくりである。あの場から逃げおおせたらしい。たいしたものだった。
「リベンジだぜ」
ひったくりが滑るように走りきた。顔が狂気にゆがんでいる。
クリスマスケーキはゆるく首をふった。さきほどはモンブランを抱いていた。だから、つまずかせるだけにとどめたのだ。いまは、おのれの身ひとつ。
「うおおおお!」
ひったくりの拳が空気を灼いて襲いくる。まともにあたればチョコレートでできたサンタの家がふっとぶだろう。その下のクリームも根こそぎもっていかれるかもしれない。
あたれば、だ。
クリスマスケーキは悠々と拳をかいくぐった。のみならず、みぞおちに肘を食いこませる。
「うっ」
と、うめいたあごには渾身のアッパーをおみまいする。
ひったくりが宙に舞った。放物線をえがき、どうっとばかりに床に落ちる。彼の手足は痙攣していた。白目もむいている。警察がくるまでに目をさましはしないだろう。
「さわがしいの」
職人の疲れた声にクリスマスケーキは勢いこんで振りかえった。目で問う。
「すまない」
職人が目をふせた。
クリスマスケーキはがっくりと片膝をつき、うなだれた。希望の光がとだえたのだ。
「ケーキとクリームの部分はなんとかなったが」
職人の声に、顔がゆっくりとあがっていく。
「栗がどうしても復元できない。あれがないとモンブランは意識をとりもどせないだろう」
逆にいえば、栗があれば回復するのだ。
クリスマスケーキは立ちあがった。無言で礼をし職人に背をむける。その背は職人に告げていた。
自分が栗を見つけてくる、と。
漢の背中であった。
クリスマスケーキは泣いた。
一ヶ月前からつきあっているモンブランが、店員の不注意でつぶされてしまったからだ。
意地っぱりで甘えん坊のモンブランは、店員の手からすべり落ちたお盆によって、おおきく形をつぶしてしまっていた。もう、あの笑顔では語りかけてくれない。
おりしもクリスマスイヴで、街は浮かれざわついているときであった。
クリスマスケーキは泣きながら店員の胸倉をつかみ、壁へと押しつけた。
オレのモンブランをかえせと、血を吐くように叫んだが、店員は目をそらして口を閉ざしているだけだった。
「おい、クリスマスケーキ。そのへんにしておけよ」
マスターの声に、クリスマスケーキは店員を解放してやった。
「いつまでもこだわるんじゃない。モンブランなんて星の数ほどもあるだろう。ほら、こっちのモンブランのほうが栗の輝きが……」
マスターの説得をみなまで聞かず、クリスマスケーキはつぶれたモンブランをその腕にだくと、脱兎のごとく店をでた。
ちょうどガラス扉をくぐった客が、何事かとふりかえったが気にしなかった。
「おい、クリスマスケーキ!」
マスターの声が背中にあたった。
「お前、クリスマスのためだけに生まれてきたんじゃないのか! それを放棄するつもりか! せっかく二十世紀最後のクリスマスケーキになれたのに!」
マスターの声が、耳にいたい。存在理由を自分で否定しているのだから。
いや、違う。
クリスマスに食べられるために生まれたのではない。この腕に抱くモンブランとすごすために生まれてきたのだ。
クリスマスケーキは走った。
モンブランを胸にだいて走った。
自棄になったのではない。モンブランとのたのしい日々を再開するためのあてが、たったひとつだけあり、そこをめざして駆けているのであった。
モンブランと仲良くなれたきっかけは、おなじケーキ職人に作られたという共通点があったらだ。あのケーキ職人にならば、このつぶれたモンブランを再生することができるかもしれない。いや、きっとできるはずだ。
クリスマスケーキは交差点を右にまがった。
「ひったくりだ!」
通行人の声が、まず聞こえた。
そして、なんにんかの悲鳴。
前方の人垣を押しのけるようにして、黒いジャンパー姿の男が駆けてきた。手にはブラウンのハンドバッグをつかんでいる。
「どけえ!」
男の叫び声に、クリスマスケーキはすなおによけた。ぶつかって、抱きかかえているモンブランがもっとつぶれてはたまらない。
ただし、片足だけは動かさなかった。
「うお!」
クリスマスケーキの足につまずいた男が、もんどりうって倒れた。
苦鳴がきこえる前に、クリスマスケーキは男の右足を思い切りふんづけた。
「ふぎゃ!」
骨折はせずとも、かなり痛いはずだ。すぐには逃げだせないだろう。
クリスマスケーキは男からハンドバックを取りあげ、前方から走ってきたご婦人に手渡した。
「あの……」
ご婦人の言葉に片手をあえるだけでこたえ、クリスマスケーキはふたたび歩きだした。
ケーキ職人の元についたのは、それから五分たってからだ。
初老にたっし、髪の毛に白いもののまざった職人は、はじめ難色をしめした。
クリスマスケーキの強い説得の前には、まったく意味をなさなかったが。
「やるだけはやってみよう」
その言葉を残して、ケーキ職人は奥の厨房へとひきこんだ。
ストゥールに腰かけ、クリスマスケーキはため息をついた。
自分にできることはすべてやった。ケーキ職人にまかせるしかない。あとできることといえば、神に祈るのみだ。いや、いまなら、サンタクロースにたのめばかなえてくれるのか。
二十世紀最後のクリスマスケーキだという自負も、なにもなかった。
クリスマスケーキは、ただ、祈った。
扉のひらく音がした。
厨房の扉ではなく、出入り口のほうだった。
「見つけたぜ」
黒いジャンパー姿の男――さきほどのひったくりであった。あの場からは、逃げおおせたらしい。たいしたものだ
「リベンジ、だぜ」
男がつっかけてきた。
クリスマスケーキはストゥールからおりながら、首をふった。
さきほどは、モンブランを抱いていた。だから、つまづかせるだけにとどめたのだ。
いまは、おのれの身ひとつ。
「うおおおお!」
ひったくりの拳が、空気を灼きながら襲いきた。
まともにあたれば、チョコレートでできたサンタの家がふっとぶだろう。その下のクリームも、根こそぎもっていかれるかもしれない。
あたれば、だ。
ひったくりの拳があたったのは、空気にのみ。
クリスマスケーキ、すでに、ひったくりのふところにはいっていた。
みぞおちに、肘打ちをくらわせる。
「う」
という、うめきが落ちてくるよりも早く、ひったくりのあごにアッパーをおみまいする。
黒いジャンパー姿が宙に舞った。
ひったくりが放物線をえがき、どうっとばかりに床に落ちた。
白目をむき、完全に気絶していた。
厨房のドアがあいたのは、次の刹那だった。
クリスマスケーキはふりむき、職人に目で問うた。
職人は目をふせて、首を左右にふった。
「すまない。わたしでは……」
クリスマスケーキは片膝をついた。
希望の光はとだえたのだ。
「ケーキとクリームの部分はなんとかなったが」
職人の声に、クリスマスケーキは顔をあげた。
「栗がどうしても復元できない。あれがないと、モンブランは意識をとりもどせないだろう」
逆にいえば、栗があれば回復するということであった。
クリスマスケーキは立ちあがり、無言で職人に背をむけた。
その背中は、職人につげていた。
自分が栗を見つけてくる。そのあいだ、モンブランをたのむと。
漢の背中であった。
小説は文章の連なりだ。ひとつひとつの文章が読みづらいと小説も読みづらくなる。では、読みやすい文章を書くためには、なにに注意しなければならないのか。
文の長さだ。
一文は50文字~60文字くらいが目安だといわれている。もちろん、一概には決めつけられない。60文字を超えていても、語順に気をつけてさえいれば読みやすい文章が書けるだろう。
だが、いちおうの目安があるのだから、推敲時のチェックに利用するのも手だろう。
そこで、秀丸エディタで使用できるマクロを作成してみた。一文の文字数をカウントするマクロだ。長すぎる文があれば別のファイルに抽出してくれる。タグジャンプを使えば元ファイルの該当箇所へジャンプできるようにもしている。活用していただきたい。
以下、引用部分が長文発見マクロである。
//長文発見マクロ。とりあえず作ってみたバージョン //一文が50文字を超えた場合、該当箇所を抽出するマクロ// 超えたくない文字数設定
// 行頭字下げの全角スペースをカウントしたり、文末の判定があやしかったりするので、2文字分の余裕をもたせる。
#moji = 52;// 初期設定
#hidemaru = hidemaruhandle(0);
$hidename = basename2;#count = 0; //文字数のカウント
#startx = 0; //カウント開始位置x
#starty = 0; //カウント開始位置y
#line= 0; //エディタ的に計算した行番号(タグジャンプ用)
#endx = 0; //カウント終了位置x
#endy = 0; //カウント終了位置y// テンポラリファイル作成
// マクロが完成するまでは見えるようにしておく。
newfile;
#hidetemp = hidemaruhandle(0);
// 文字のカウント開始
setactivehidemaru #hidemaru;
gofiletop;// EOFが見つかるまで処理を繰り返す
while (code != -1) {// タブと改行(0x0dを使う。\nはNG)が続くかぎりカーソル移動。
while (code == 0x0d || code == '\t') {
right;
}// カウント開始座標の記憶
#startx = x;
#starty = y;
#line = lineno;// 文末まで処理を繰り返す(ただし文末の判定があやふや)
while (code != '。' && code != '?' && code != '!' && code != 0x0d && code != -1) {// 文末でなければ文字数をカウントしてカーソル移動
#count = #count + 1;
right;}
// カウント終了座標の記憶
right; //句点ふくめてコピーするためのカーソル移動
#endx = x;
#endy = y;// カウントのチェック
if (#count > #moji) {// 該当箇所をコピー
beginsel;
moveto #startx,#starty;
$text = gettext(seltopx,seltopy,selendx,selendy);// テンポラリファイルにペースト
setactivehidemaru #hidetemp;
insert $hidename + "(" + str(#line) + "): " + $text + "\n\n";// 元のファイルに戻りカーソル移動
setactivehidemaru #hidemaru;
moveto #endx,#endy;}
// 文字数カウント初期化
#count = 0;}
// 抽出したテキストの整形
setactivehidemaru #hidetemp;
replaceallfast "」\\n","」",regular;endmacro;
なにぶん素人の作成した秀丸マクロなので、あまりエレガントではない。
「とりあえず動く」
という程度。実際に使っていただければ幸せだが、使用の際は自己責任でお願いします。
ブログに書くことがないと嘆いているかたがおられる。わたしも同じ悩みをもっているが――その内実は少々違っている。
ブログに書くネタならいくらでもある。時間がゆるせば1時間に記事をひとつ書くくらいは容易だ。
でもいかんせん、このブログは小説をメインにすえている。小説からおおきくずれるわけにはいかない。ずれると検索サイトで順位がさがるという、手痛いしっぺ返しをうけるのだ。
少し前になるけれど、Xbox360のゲーム「トラスティベル」についていくつか記事を書いた。小説にまったく関係ない記事だ。検索順位がさがったよ。
でも、トラスティベルに関しては、あたりまえだが順位があがった。だから、検索サイトから見にきてくれる訪問者数は、おおきく変動しなかった。
ここで、ちょっとした矛盾がおこる。小説の書き方を探してきたのにゲームのレビューを読まされるひとがいる反面、ゲームの情報を求めてやってきたのに関係のない小説を読まされるかたもいるのだ。
「ほんとごめんなさい」
だけど、
「まあ、いいかな」
と、思うときもあって、そういうときは小説とまったく関係ない記事を書いてしまうでしょう。
「ほんとごめんなさい」
携帯電話は靴底よりも汚れているの記事によれば、携帯電話の口は靴の底よりもなお汚いらしい。潔癖症の人は知らないほうが幸せな情報とのことだが、なあに、ほんとうに潔癖症なら宇宙服でも着て外気にふれないようにしている。メットが邪魔して携帯電話など使えまい。
さて、汚い汚い携帯電話の話である。携帯電話は靴底よりも汚れているという記事タイトルであるが、正確にいえば、携帯電話の口が靴の底よりも汚いようだ。口のそばだから水分が付着する。おまけに、携帯電話がほんのり温かいときては、雑菌やばい菌が繁殖するのは当然というところか。もしかしたら、電磁波が繁殖の手助けをしているかもしれない。
雑菌やばい菌が繁殖するのだから、カビだってわくんじゃないかな。ほうっておけば、キノコだってニョッキリ顔をだすかもしれない。
もちろん、現実にはキノコがはえるなんてことはないだろう。でも、小説ならありだ。不潔にしていたからキノコがはえました、というのではいくらなんでもだが、ちょっと手をくわえれば説得力もうまれるかもしれない。
というふうに、小説のネタだけならどこにでも転がっている。
お手軽な小説作成法として、登場人物の名前だけを変えるという手法がある。名前だけ決めて、登場人物の名前にあてはめていけば、いっちょう完成である。もちろん独自性などない。オリジナル小説ともいえないだろう。
でも、もっともカンタンにできる小説作成法にちがいない。
もちろん「名前を変えてもいいですよ」と著者が許している小説に限られる。アドレスは忘れてしまったが、そういった小説群を置いているサイトはある。
さて、見本となる物語の冒頭部分を書いてみた。朝起きて学校へ行くシーンだ。とりたててなにもおこらない。退屈なシーンだ。でも、オンライン小説でよく見かけるシーンなので例としてみた。
名前のある登場人物は主人公のみ。主人公の名前だけ決めていただきたい。以下の文章は[主人公]という部分を主人公の名前に置換すれば、ストーリーの冒頭部分が労せずできあがる。
[主人公]は喉の渇きで目を覚ました。
天井が白く光っているのは窓から差しこむ朝日のせいだ。真夏をもっとも謳歌しているのは、ほかならぬ太陽かもしれない。
[主人公]は枕元にある時計を手探りで叩いた。振動を感知した時計が、
「ゴゼン、ハチジ、デス」
と、抑揚なく時刻を教えてくれる。
「完全に遅刻だな」
ひとりごちるも慌てるそぶりはない。慌てたところで時間が戻るわけではない。八年前の事故で知った教訓のひとつだった。
手早く学生服に着替える。食パンを一枚、牛乳で流しこみ朝食とした。
習慣になっているアレをやってから、身だしなみを整えて玄関をでる。携帯電話で時間を確認すると八時三〇分になっていた。すでに一時限目の授業ははじまっている。高校二年生になってはじめての遅刻だった。
[主人公]は大通りにでた。片手をあげる。タクシーが停まった。赤い。赤いタクシーだ。
「どちらまで?」
乗りこむと運転手がたずねてきた。行き先を聞くのはあたり前だ。だが――
「訊くなよ、そんなこと」
[主人公]は不機嫌を隠さず運転手を睨んだ。
「すいません、いちおう聞くのが規則なもので」
運転手が苦笑を浮かべた。赤いタクシーはスムーズに走りだした。
以上。
……。
ほんとなら小説の冒頭じゃなくて、ショートショートが適してるんだろうなあ。だけど、こんなことに使うのはもったいないので小説の冒頭をでっちあげました^_^;
オンライン小説をあつかっているサイトは多い。自作小説やオリジナル小説、また二次創作を公開しているサイトばかりではない。文章技術やストーリー作成技術、執筆作法を公開しているサイトもある。かくゆう当サイトもそのひとつだ。
ただ最近思うのは、文章技術系のサイトは求められていないんじゃないかということ。
「求められていない」といいきってしまうと語弊がある。もうちょっと正確に記そう。
検索サイトからやってくる多くのかたは、もっとお手軽な小説の書き方を求めてるんじゃなかろうか。
やれ、ストーリー作成技術がどうの、原稿用紙の使い方はどうの。キャラクターはこうやって作らないといけない、世界観も軽んじてはいけない。そういういったことをひとつひとつクリアしていくのではなく、一足飛びに小説を完成させたいんじゃないだろうか。
端的にいってしまうと、お手軽に小説を書きたい、となる。登場人物の名前だけ決めれば、あとは片手間でちょちょいのちょいと小説ができあがる。そんな小説の書き方が求められているんじゃないだろうか。
小説をカンタンに作ってしまえる方法。そんなのを公開してみたらどうだろうか? これからしばらくは、小説をカンタンに作ってしまえる方法を考えてみたいと思います。
Movable Type 4で小説を公開すると、三点リーダーがピリオドに置き換わってしまう。
というのが前回の記事「三点リーダーとMovable Type 4(問題発覚)」だった。今回はその解決編だ。
[設定]メニュー内にある[ブログの設定]を見ていただきたい。まず[全般]が表示される。左ペインにメニューが並んでいるので[ブログ記事]をセレクトしてほしい。[ブログ記事設定]が表示されるはずだ。
[ブログ記事設定]内で[Word特有の文字を置き換える]という項目がある。デフォルトでは[Smart Replace]において[対応するASCII文字]にチェックがはいっていると思う。[置き換えない]に変更してほしい。
[Smart Replace]が[置き換えない]になっていれば、ブログ記事を新規作成したさいに三点リーダー( )がピリオド(...)に置き換わることはない。小説の公開も安心である。
ただし、見た目は
になっているが、ソースでは「……」とエンティティに変換されている。[Smart Replace]には[エンティティ]という選択もあるのになにゆえ? ごぞんじのかた、おられましたら教えてください。
Movable Typeでブログを作成しているかたは多いでしょう。Movable Typeでブログを作成しているかたのなかには、小説をテーマにしているかたもいらっしゃるはずだ。Movable Type 4を導入、あるいはアップデートするとき注意してほしい点がある。
Movable Type 4を導入するときの注意点。それは三点リーダーだ。
↓の記号が三点リーダー。
正確にいえば
ひとつが三点リーダー。通例としてふたつ1組で使うので
となる。
Movable Type 4にアップデートしたのち、ブログ記事を新規投稿してびっくりした。なんと! 三点リーダーがピリオドに変更されてしまったのだ!
となっている箇所が、
......
になってしまっている。
現在は修正しているが、当該記事は小説「星人募集中4」(推敲前)である。
気づいたときには顔が
(゜o゜)
になった。
「なにしてくれちゃってるの」
と。
だけどね。
ログをインポートした記事では、
は
と意図したように表示されているんですよ。三点リーダーがピリオドに変換されるのは、だから記事を新規投稿したときとなるんじゃないの。
と気づいたわけです。
そこで、Movable Type 4の設定をあれこれ見てまわり──。
あやしいの発見(^O^)/
試してみると見事成功!
もうね。顔が(T_T)になりましたよ。笑ったり喜んだりじゃないの。ホッとして泣き顔になるのよ。
で、どうすればいいのかといいますと、長くなっちゃったので次の記事へと続くのであった。
短編小説「星人募集中」を毎日更新していました。原稿用紙換算で20枚まで公開中。手元の原稿は22枚で終了しています。残り2枚。公開1回分です。
ですが、ここでストップします。もったいぶってるわけじゃないんですよ。短編小説「星人募集中」は、記事のタイトルにふくめているとおり、推敲前の原稿を公開しています。推敲したあと改めて公開します。
「じゃあ、なんでわざわざ推敲前の原稿を公開していたの?」
と、疑問をお持ちのかたもいらっしゃるでしょう。
推敲前の下書き原稿が、推敲したあとどんなふうになるのか。くらべていただければおもしろいかな、と思ってこういう形にしました。興味があるかたは少ないかもしれませんが、全世界に3人いてくれればやってみる意義もあるでしょう。
推敲はいまからはじめます。推敲後の原稿は今月中に公開できればいいかな、というはんなりした予定です。
推敲が完了するまでは、Movable Type 4についての記事が続きます。ますます興味がないというかたがいそうで怖いです^_^;
折原は肩を押されてつんのめった。
だがしかし、肩を押されたと思ったのは錯覚だった。押されたのではなく、弾丸がかすめた衝撃なのだ。
「ぐわ!」
と悲鳴をあげたのは折原ではなかった。
岡島が胸を真っ赤に染めている。被弾したのだ。
自分のせいだという慙愧の念が頭をよぎった。駆けださなければ山田も刺激されなかったはずだ。
「すまない」
と心のなかであやまり、折原は走る方向をかえた。もうひとりの岡島にむかう。多勢に無勢である。人質をとらなければ逃げられそうになかった。
岡島にむかって手をのばして、またつんのめった。
弾丸がかすめたのではない。だれかに足首をつかまれたためだ。
「逃がじま、ぜんよ」
足首をつかんだものがそういった。にごった声なのは肺に血が貯まっているからか。撃たれたほうの岡島であった。
「なんで!?」
瀕死のはずだ。逃亡者など気にかけている余裕はないはず。自分の命よりも逃亡者を捕らえるほうが大事なのだろうか。
「離せよ!」
折原は岡島の顔面を蹴った。けが人を足蹴にする行為に良心が痛む。だが、足は蹴りつづけた。
手が離れた。
──いましかチャンスはない!
と、折原は起きあがろうとした。
「逃がしませんよっていってるんです!」
横合いからタックルされた。もうひとりの岡島だ。ふたりで草原を転がる。
両腕が腹にまわされ、逃げられないようにがっちり固定されていた。その細い腕のどこに、と思われるほど力が込められている。はずれない。
折原は靴音をかぞえるのやめた。背後にたくさん集まっている。そんな絶望的な状況だけでたくさんだった。具体的な数など知りたくもない。
「どうしました、折原さん。怖い顔して」
ふたりの岡島が両手をひろげた。安心してくださいのジェスチャーだろうか。
「なにをそんなに怖がってるんですか?」
「怖がる? オレが? まさかあ」
折原は首を振った。笑みを浮かべ、
「こんな辺境の惑星にたったひとり。クルーも見つからない。不安で不安でたまらなかった。あんたたちに会えてほっとしてるくらいさ」
親指で背後をさし、
「おまけに、まだこんなにいるなんて心強いよ」
と、一歩進む。
二歩目で駆けだした。岡島にむかって一気に距離をつめる。
山田は慌てているに違いない。おおぜいの仲間が戻ってきたことに安堵し、油断して銃をさげていたのだから。首を振って確認したときは、あまりの僥倖に笑みさえ浮かんでしまった。
折原は拳銃と岡島の軸線上にはいった。もう撃たれまい。山田の頭がちょっとアレだとしても、岡島にあたる可能性を考えるはずだ。
ふたりの岡島が顔をこわばらせた。
「撃つな!」
ふたりがいい終わるよりも早く、銃声がこだました。
折原は腰を落とし両足にバネをためた。いつでも動きだせるようにそなえたのだ。
「どうしたんですか、折原さん? 急に構えたりなんかして」
岡島はあいかわらずにこやかであった。
どうしたんですかと問われても、折原自身、理由がはっきりとわからなかった。嫌な予感に肌をなめられただけなのだ。
折原は無言でふたりの岡島をにらんだ。視界の隅で山田もとらえている。
こめかみに浮いた汗がほほまで流れる。耳のそばまで落ちてきた。
音がした。汗の流れる音ではない。靴が草をふむ音だ。ひとつではない。複数の靴音。
「折原さん」
岡島の笑みが深くなった。
「みんなが帰ってきましたよ」
草をふむ音が近づいてくる。音は、ひとつ、ふたつ、みっつ。
「この惑星の太陽は」
ふたりの岡島が太陽を指差した。
「沈みだすと早いですからね」
むっつ、ななつ、やっつ、ここのつ。まだ増える。
「みんな早めに戻ってくるようにしてるんですよ」
じゅうさん、じゅうし、じゅうご。靴音の主はどんな顔をしているのか。
まだまだ増える。
「ほかのチームも戻ってくるころです」
岡島がにこやかにいった。
「その前に、機材の管理をしているものを紹介しましょう。おーい!」
彼は宇宙船のなかにむかって呼びかけた。レオンに似た山田はというと、銃を手にこちらを油断なくにらんでいる。
「折原さん」
岡島に呼ばれた。機材管理の担当がでてきたのだろう。
「はじ
」
めまして、と続けるつもりだった。だが振りかえってすぐ、驚愕で目をむくことになった。
ひょろりとした色白の男がいた。岡島だ。ただし、ふたり。
「双子なんですよ、わたしたちは」
ふたりの岡島が、まったく同じタイミングでニヤリと笑った。
「みなさん、同じ反応をしてくれます。たのしいですよ」
「はあ、双子なのか。それはそれは、驚いた」
折原は苦虫をかみつぶしたような顔をした。岡島の予想通りにリアクションしてしまった。しゃくにさわる。そっくりなふたりがいれば、考えるまでもなく双子なのだ。なにをびっくりしてしまったのか。
──いや、しかし。
と、折原は振りかえった。
レオンに似ている山田が、あいかわらず銃をかまえている。
レオンと山田が並べば、双子で通じるだろう。彼らも双子なのだろうか? レオンに兄弟がいたとは聞いていない。金髪碧眼なのに山田という日本名なのも違和感がある。
レオンと山田。
ふたりの岡島。
そっくりな男が二組にいる。
肌がひりつくような、奇妙な予感がしていた。
遠目には黒い宇宙船に見えた。しかし、近づくにつれ、外壁が変色しているのだとわかってきた。惑星の大気圏に突入したときの熱と、その後三年間雨ざらしにあっていたためだろう。
そばまでやってきて把握できたこともある。少なからぬ外壁がはがれており、船内が外から見えるのだ。
「不幸中の幸いともいえるんですよ。外壁がはがれてくれたおかげで、電源が死んでいても外へでられます」
気をきかせた岡島が説明してくれた。
折原は肩を落とした。
「やっぱり太陽光発電システムは死んでるんだな」
「ええ、残念ながら。必要最低限の機材はバッテリで動かしていますが、どれだけ省エネ運用しても、あと二年ほどしか持ちそうにありません」
「ギャレット号に──いや、ギャレット号の残骸のなかにバッテリは残っているかもしれない」
「ほお、それは吉報です」
「もっとも、そのギャレット号がどこに墜落したのかわからないんだがな」
「探索チームをつくって探しましょう。食料も水も豊富にありますからね。食料調達チームを探索チームとしましょう」
ここにくるまでに、この惑星についてだいたいのところは聞いていた。惑星のひろい範囲が温暖湿潤気候であること。人間の天敵になりうるような動物がいないこと。また、動物や昆虫の姿が見えない理由もわかった。
「どういう習性なのか、専門家がいないのでよくわからないんですがね。動物も虫も、決まったエリアにしか生息していないんですよ。決まったエリアからはまったくでてこない。このあたりでいうと、通ってきた森のなかだけです」
食料の調達はその森で行っているそうだ。
森からあらわれた男は、岡島と名乗った。
「わたしも山田も、ノルベール号のクルーだったんですよ」
ギャレット号の墜落からさかのぼること三年。べつの宇宙船が、この惑星に不時着していたのだった。
「そんな偶然があるんだな」
折原はおどろきを素直に声にだした。同時に失望もしていた。ノルベール号のクルーたちは三年もこの惑星で生活しているのだ。いいかえれば救助がきていないということ。地球圏への生還は絶望的だった。
「わたしたちは──もうあきらめているんですよ」
岡島が自嘲気味の笑みを浮かべた。前を歩く山田の背中を目で追い、
「山田くんはね。墜落時に頭を打って、ちょっと、ね」
と小声で教えてくれる。
森のなかにある獣道を山田の先導で歩いていた。彼らの住まいであるノルベール号を目指している。ずっと野宿だったので、三日ぶりの屋根つきだ。
「何人いるんだ?」
「わたしと山田くんをふくめて七人です。あなたをいれれば八人になりますね」
「喜んでいいのかどうか」
「わたしたちは歓迎しますよ。ひとが増えるのはいいことです。あ、ほら、もう見えてきますよ」
森を抜けるとまた草原がひろがっている。ただ、ひとつ違っていた。旧型の宇宙船が鎮座ましているのであった。
「レ、レオン」
たっぷり絶句したあと、折原はようやっと言葉をついだ。
レオン──それは男の名前であった。ギャレット号のクルーのひとりである。金髪碧眼で長身の男だ。
「お前も脱出できてたのか! 冗談きついぞ」
「動くな!」
レオンがさげていた武器を構えなおした。彼の持つ武器は、はたして拳銃であった。だが、ギャレット号にそなえられていたものとは違うタイプのようだ。かなり旧式の拳銃である。
「おい。いいかんげんにしろ、レオン」
「──レオンなんて男は知らない。オレは山田だ」
「は? 山田? 日本人の名前じゃないか。もうちょっとましな
」
「動くなっていっている」
拳銃を持つ腕に力がこめられた。
折原はひざ立ちのまま両足にバネをためた。いつでも動けるように用心したのだ。
眼前のレオンは奇妙だった。山田と名乗っていることもそうだが、使用している武器も不自然だ。もしかしたら、本人がいうようにレオンではないのかもしれない。だとすれば──ほんとうに敵となるか。
「ああ、その、なんだ。山田くん、といったか。武器をさげてくれないか。その──間違えて悪かったよ。知り合いと似てたもんでね」
とりあえず話をあわせた。
「いやいや、いいんですよ。この世には似た人間が三人はいるといいますからね。宇宙にはもっといて不思議はありませんからね」
といったのは、レオン──山田と名乗る男ではなかった。森のなかから長身のひょろりとした色白の男がでてきたのだ。
「山田くん。武器をさげてあげなさい。彼は危険な人物じゃなさそうだ」
どうやら森のなかに姿を隠し、いままで様子をうかがっていたようである。
ひさしぶりの満腹感と、ふってわいた疑問によって注意力がにぶっていた。
「動くな。ゆっくり両手をあげろ」
固いなにかを背中に押しつけられるまで、男の接近に気づけなかった。固いなにかが銃の先かどうかはわからない。
折原は両手をあげながら、
「地球の言葉だな。ギャレット号のクルーか?」
ギャレット号とは乗ってきた宇宙船の名であった。この惑星のどこかに墜落しているはずだ。
「ギャレット号?」
背後の男がつぶやいた。尻上がりのイントネーションだ。知らないとみえる。
「三日前にこの惑星に墜落した宇宙船だ。見てなかったのか? ここから距離は離れているが、かなりのおおきさで火を吹いてたんだがな。そうとう目だってたはずだ」
「知らないな。そんなもの」
背後の男がにべもなくこたえた。
ポッドで脱出するさい、射出の角度によっては想定以上に飛んでしまうことがある。思った以上に距離が離れてしまっているらしい。どうりでほかのクルーと会えないはずだ。
──いや、そんことよりいまは。
背後の男の正体が気になった。ギャレット号のクルーではないのに地球の言葉をしゃべっている。してみると、自分たちのほかにも、この惑星に不時着している地球人がいたのだ。
「なあ。ここにあった肉はあんたのかい? 勝手に食って悪かったよ。でも、腹がすいてたんだ。かんべんしてくれないか」
折原はおどけた調子で話しかけてみた。
「とりあえず、背中にあたってるのをどけてほしいんだけどな」
「──なにもしないか?」
「ああ、もちろん。なにもしやしないよ」
背後の男がすなおに武器をさげてくれた。
折原は彼を刺激しないように、両手をあげたままゆっくりと振りかえり、
「あ、ああ」
と、いったっきり絶句してしまった。
折原誠は丘を一気に駆けあがった。無駄なカロリーを消費しているなと、心の一部が皮肉っていた。
丘の上からは草原が一望できた。吹く風に草が波打っている。
折原の鼻が匂いにひくついた。風に運ばれてくる草いきれにではない。肉の焼ける香ばしい匂いが、かすかにしているのだ。
腹の虫が鳴いた。口中に唾液がじわりとにじむ。脳からの命令をまたずに、脚が走り出していた。
だれが肉を焼いているかなど考えられなかった。なんの肉かもおかまいなしだ。
「肉、肉、肉!」
かすかな匂いを追って駆けた。走れば走るほど匂いが強まってくる。空腹の身体が匂いを正確にトレースしていた。人間にこんな能力があったとは意外だった。
どれほどの距離を走ったのか。もうひとつ丘を越えると森が姿をあらわした。森の入口には焚き火がくまれ、煙がたちのぼっている。
折原の鼻は敏感に匂いを感じとった。肉の焼ける匂いは、その焚き火からしているのだ。
「肉!」
ひとの姿は見えなかった。焚き火だけがポツンとあるだけだ。肉を刺した串が三本、火にあたる角度で地面に刺さっている。
折原は焚き火に駆けより、生焼けの肉にむしゃぶりついた。筋張った肉で、おまけに生焼け。なかなか噛み切れなかった。しかし、口腔にひろがる野趣あふれる味に涙がでそうになった。
焚き火のそばには竹筒があった。想像通り、なかには水がはいっていた。噛み切れなかった肉は水で流し込んだ。
三本すべてたいらげて、ようやく人心地つけた。満足のため息をつき口元をぬぐう。そこでようやっと、疑問がわいた。
だれが焼いた肉なのか、と。
そして、なんの肉なのか、と。
ふと思い出した。不時着してから今日まで、動物はおろか虫のたぐいすら見ていなかった、と。
折原誠は最後の非常食を飲みこんだ。
仲間のクルーを探しはじめて今日で三日目になる。脱出ポッドに備えられていた食料は一日分しかなかった。遭難した不運に嘆きながらも、食料を三倍もたせたのだ。
非常食は生存のための備蓄ではない。銀河系からはるかはなれた星系で遭難して、無事でいられるわけがないのだ。非常食があろうかなかろうが、遅かれ早かれのたれ死に。宇宙船の脱出ポッドに非常食が備えられているのは、たんに人道上の問題をクリアするためだった。
「名もない惑星で遭難か」
苦笑が浮かんだ。泣いても貴重な水分が失われるだけだ。開き直るしかなかった。
折原たちの乗った宇宙探査船は、突如遭遇した隕石群にエンジンと噴射ノズルを破壊されてしまった。身動きがとれなくなった宇宙船は惑星の重力につかまり墜落。クルーたちは脱出ポッドで逃げおおせたが、ばらばらになってしまったのだった。
名もない辺境惑星にただひとり。こんな心細いことがあろうか。
「だが、それでもオレはラッキーだぞ!」
折原は青空にむかって吠えた。気持ちいいくらい声が響いた。見渡せばどこまでも続く草原がひろがっている。宇宙服を着ていなくても生きていける惑星だった。もっとも、未知の病原体がいるかもしれないが。
「そんなの知ったことか! うおおおおおお!」
折原は叫びながら疾走した。ゴールは二〇〇メートル先の小高い丘だ。
バカな行為という自覚はある。走る必要も、叫ぶ理由もなかった。だが、精神のガス抜きが必要だった。神経が張りつめたままでは、いつ発狂してもおかしくない状況なのだ。
小説の表現ゆらぎをチェックするソフトを試用しています。「Variant Detector」です(ダウンロードは「フリーソフトダウンロード」から)。
表現の揺らぎチェックソフト「Variant Detector」について1で、「Variant Detector」はイケてるよといったけど、万能というわけではありません。欠点もあります。たとえば、小説中に以下のような文があたっとします。
つぶしあいをしている。
愛いっぱい夢いっぱい。
上記ふたつの文では、つぶしあいの「あい」と愛いっぱいの「愛」が表現のゆらぎと認識されてしまいます。
「そんないいかたってないだろ」
爪が固く尖っていた。
の場合は、いいかたの「かた」と固く尖っての「固」が表現のゆらぎと認識されます。
ごく短い小説なら気になりません。ですが、長篇小説など200枚をこえるような場合は、このようなチェック結果がかなり多くなります。理想的なチェック結果を見るときに邪魔になっちゃう。今後のバージョンアップで精度があがってくれればうれしいんだけどなあ。
小説などの文書中では、語句表現のゆらぎがしょうじます。推敲時にひとつひとつチェックするべきなんですが、文章量が増えれば増えるほど見落としも増えてしまう。
小説での表現のゆらぎとはどんなものでしょうか? たとえば「おおきな声」と「大きな声」などです。小説内で「おおきな声」と漢字をひらいているときと、「大きな声」と漢字にしてしまっている場合があります。同一の小説では、どちらかに統一したほうがいい。
そこで、表現のゆらぎをチェックさせるソフトを使用してみました。「Variant Detector」です(ダウンロードは「フリーソフトダウンロード」から)。
自作の短篇小説で試しみると、「おおきな声」と「大きな声」の表現ゆらぎが発見されました。表現ゆらぎはチェックしていたはずなんですが、思いっきり見落としていました(>_<) じつは、ほかにもいろいろ抽出されていまして……。
ごく短い小説、35枚くらいの小説なら、あっという間に抽出してくれます。「Variant Detector」はかなりイケてる予感がします。しばらく使いこんでみます。
小説の書き方にキーボードは大きな影響をあたえています。頭に浮かんだ言葉は、即文字入力されなければなりません。まごまごキーボードを打っていたのでは言葉が逃げてしまいます。悪いキーボードだと言葉が逃げる現象が頻繁におこってしまいます。
以前、記事に書いたと思うんですが、パソコンで小説を書いていて、一番困るのは漢字変換です。これだ! という漢字に変換してくれないときがたびたびあります。だいたい文節の認識がおかしい。
MS-IMEの場合、文節区切りの変更は[CTRL]キーとKキーorLキーでおこないます。[CTRL]キーとKキーで文節区切りを左に移動。KキーのかわりにLキーを押下すれば、右に移動します。
[CTRL]キーを押下しながら別のキーを打つとき、あなたはどうされているでしょうか?
小指で[CTRL]キーを押下したまま、別のキーを打っているのではないですか?
小指で[CTRL]キーを押すと、左手のホームポジションが崩れます。続いて文字入力をするときコンマ何秒か遅延がおこり、浮かんだ言葉が逃げてしまいます。それはとてもおしい。
そこで[CTRL]キーは指を使わずに押下したい。わたしの手のおおきさと置き方では、ちょうど小指の付け根あたりが、左[CTRL]キーにふれています。ちょっと付け根の部分に力をいれれば、[CTRL]キーが押下できます。10本の指すべてがフリーになり、小指も疲れません。
わたしはすっかり、小指の付け根で左[CTRL]キーを押下するくせがついてしまいました。左[CTRL]キーがキーボードの左下隅にないと困るのです。
のようなキーボードが非常にありがたいのです。
さあ、みなさんもだまされたと思って、左[CTRL]キーを指以外で押してみなーせ。打鍵のスピードや指の疲れが軽減されるから。
小説を書くのにキーボードはかかせません。だから今回もキーボードについて語ってしまうのだった。
小説を書く書かないに関係なく、パソコンのキーボードは好みがわかれます。わたしにとって最良でも、あなたにとって最良というわけではありません。また、2万を超える高級キーボードよりも、500円の安物のほうが使いやすいときもある。はたまた、疲れにくいと評判のエルゴノミクスキーボードだと、オーソドックスなキーボードよりもよけいに疲れるというかたもいる。
キーボードを選ぶさい、スペック表はあまり役にたたないということの証左でしょう。店頭展示品を実際にさわってみて、良し悪しを判断するしかありません。
とはいえ、お目当てのキーボードが店頭に並ぶかどうかはわかりません。むしろ、並ばないことのほうが多くありませんか?
お目当てのキーボードがないならば、注文するか通信販売で手に入れるしかない。そうなると、スペック表や写真から、ある程度しぼりこみたい。
わたしがまずチェックするのは左[CTRL]キーの位置です。写真を見て左[CTRL]キーが左下隅にあるかどうかチェックします。左[CTRL]キーが左下隅以外の場所にあるキーボードは買いません。さいわいなことに、多くのキーボードは左[CTRL]キーが左下隅にあります。
左[CTRL]キーはAキーの左がいいというかたが多いなか、わたしはちょっぴり異端かもしれません。でもねでもね。わたしにとっては左[CTRL]キーは左下隅がいいの。ここのほうが使いやすいの。わたしみたいなひともいるってこと忘れないで~。
さて、続いて左[ALT]キーの位置。Zキーの下にあるのが望ましいです。あとから割り込んできたWindowsキーのせいで、ちぃっぴり右によってるくらいは許容範囲内です。
前回紹介した東プレのキーボード「REAL FORCE 91」の写真を見てくださいな。
ちょっとわかりづらいですが、[CTRL]キーと左[ALT]キーはわたしの望む位置にあります。チェックしてから買ったので当たり前なんですが……。
次回は左[CTRL]キーと左[ALT]キーの位置にこだわる理由を小説の書き方にそって言及したいと思います。
小説を書いています。
といっても、小説の書き方はひとによってさまざまだ。原稿用紙に万年筆で書くかたもおられれば、チラシの裏にボールペンで書きなぐるかたもいる。前者はいかにもな感じで格好いいし、後者は紙資源を無駄にしないエコなひとである。小説を書いているといっても、やりかたはいろいろだ。
だが、ことオンライン小説になると、ちょっぴり話がかわってくる。オンライン小説ということは、とうぜんインターネット上に小説をアップロードしなければならない。インターネット上に小説をアップロードするためには、パソコンに小説を入力しなければならない。パソコンに小説を入力するためには、とにもかくにも、キーボードを打たなければならない。
オンライン小説を書くためには、キーボードが必須なのである。
万年筆だ。ボールペンだ。いやさシャープペンシルだ。毛筆だ。
というような選択肢がなくなるのだ。
──本当に?
たしかにパソコンで小説を書く以上、キーボードというインターフェイスは必須だ。しかし、キーボードにはいくつも種類がある。選択できるのだ。
小説を書く場合には、入力する文字数もはんぱなく多い。小説を書くと腕や手が疲れるということはないだろうか? 自分の手にあったキーボードを発見できれば、かなり疲れを軽減できるだろう。
わたしは長年かけて、やっと自分の手にあうキーボードを発見した!
↑である。東プレのキーボード「REAL FORCE 91」だ。打鍵は良好。もう1年以上使い続けているが飽きもこない。オススメキーボードのひとつである。
次回は、わたしなりのキーボード選定のしかたなどをおりまぜて、いいキーボードと巡り合うための方法をご紹介します。この手の記事にどれくらい需要があるのか、五里霧中でおおくりします^_^;
「トラスティベル」のレビューはまだ続くのである。あくまでレビューだけである。「トラスティベル」の二次小説は置いていない。あしからず。
「トラスティベル」のパーティクラスでハーモニーチェインについて、ちょっぴりだけふれた。戦闘の爽快感に関するので、今回はもうちょっと突っ込んで話したい。
のだが、その前にまず、エコーについてふれておこう。
パーティクラスがレベル2になると、戦闘時にエコーが貯まるようになる。エコーは攻撃の連続ヒット数におうじて貯まっていく。エコーが貯まった状態で必殺技を使用すれば、攻撃であっても回復であっても効果が強化されている。同じ必殺技を使うにしても、エコーを貯めてからのほうが効率がいい、というわけだ。
このエコー。ひとりひとりが個別に貯めるのではなく、パーティメンバー全員で協力して貯めていく。ひとりで貯められるのは、せいぜい8ヒットや12ヒット程度である。だが、全員で協力してマックス32ヒットまで貯めれば、必殺技の威力もマックスとなる。なんといっても気持ちいい。
ちなみにエコー24ヒットまで貯めて必殺技を使うと、キャラクターのカットバックがはいるようになる。見得を切りながら、きめ台詞をいうのだ。必殺技によってセリフはかわるのだが、残念ながら見得は共通のようである。
──前置きが長くなったが、いよいよハーモニーチェインに関してだ。「トラスティベル」では、日向と日影で必殺技がかわる(詳しくは「トラスティベル」の日向と日影を読んでほしい)。
各キャラクターはレベルがあがるごとに、複数の必殺技を覚えていく。プレイヤーの任意により、光にひとつ、闇にひとつ、セット可能だ。戦闘にはいる前であれば、必殺技は変更可能。さらにパーティクラスがレベル3になれば、光闇ともに2種類ずつセットできるようになる。
ハーモニーチェインとは、この2種類の必殺技を連続して使用することができるシステムである。
どういうことか?
弓を使うビオラで解説しよう。
全体回復ができる「ヒールアロー」と射程距離が無限の「ホーリーストライク」をセットしていたとする。普通に「ヒールアロー」を使うとモーションが長いために、「ヒールアロー」だけで行動時間が終わってしまう。
だが、ハーモニーチェインであれば、「ヒールアロー」の直後に「ホーリーストライク」を発動させることが可能となる。全体回復して、なおかつ必殺の攻撃も行えるのである。古い言葉でいうと、うはうは、である。
さらにパーティクラスがあがれば、ほかのキャラクターへとハーモニーチェインをつなげることもできる。死語でいえば、フィーバー、である。
もちろん、これだけ強力なシステムなので、いつでも使えるわけではない。エコーが24ヒット以上貯まっていないと発動しないのだ。前述したようにひとりでエコーを24ヒットも貯めるのはむずかしい。3人で協力しなければならない。中途半端なところで必殺技を使ってしまってエコーを貯めなおし、ということもある。
だが、決まれば俺ターン発動で、敵になにもさせることなく、戦闘を終了させることも可能だ。古式ゆかしい言葉でいえば、超気持ちいい! となる。
「教える義理はないですな」
返事はつれない。
「義理はない、か」
酒井は苦笑を浮かべた。自分が生ける死人にむかって口にしたのと同じ言葉だったからだ。
「ナイスです、室井!」
斧少女が高架下から躍りでてきた。
銃を構えたまま微動もしない男は、どうやら室井というらしい。彼は白髪のまじる髪をオールバックにしている。月明かりだけでははっきりしないが、黒い燕尾服を着ているらしかった。顔に刻まれた皺から六十歳は越えていると推測ができる。しかし、肌の張りだけをとれば三十歳でも通用しそうだった。
「室井、もうひとりの敵は?」
斧少女が斧を構えながら室井に問うた。目は油断なく酒井にむけられている。
「もうしわけありません。逃げられてしまいました」
「しかたありません。ふたりもあらわれるとは思いませんでしたから」
「ちょいっといいかい」
酒井はふたりの会話にわりこんだ。
「たぶん、だが。おたくら誤解してると思うぞ」
「なんの誤解ですかな」
室井が低い声でいった。斧少女と話しているあいだも、たったいまも、銃口は微動もしていない。腕を地面と水平にかまえるのはカンタンだが、持続するのはあんがい難儀だ。だというのに、こうもピタリと決まっているとは。ただものではないという証左か。
斧少女が高架下へ顔をむけるのを確認するまでもなく、お嬢様とは彼女をさした言葉だろう。
「まさか!」
酒井は生ける死人の姿を探した。いない。舌打ちひとつ身をひるがえす。高架下へむかって全速力で走り出した。
「待ちなさい!」
斧少女の声が追ってくる。
彼女が生ける死人かどうかはわからない。
カンは違うといっている。だが、判断をあせるとろくなことがない。いまは斧少女の氏素性を知るよりも、生ける死神だとはっきりしている男を追うべきだった。
「待ちなさいっていってるでしょ!」
怒気を含んだ声がひっきりなしに背中を叩いてくる。距離がひらかない。重い斧を持っているはずなのに……。たいした足腰の強さだった。
高架下にはだれもいなかった。酒井は足をとめず反対側へと抜けた。
痩身長躯の男が立っていた。逃げた男とはシルエットが異なっている。さきほど「お嬢様」と叫んだ人物だろう。
「とまれ!」
男が両手を地面と水平にあげた。灯りの少なさに目がなれたのか、銃口をむけられていることはすぐにわかった。
酒井は両手をあげた。銃が恐かったわけではない。ほかに人影、つまりは逃げた男の姿がなかったからだ。
しくじった。
内心はそう確信していたが、あきらめきれずに、
「男はどっちへ逃げた?」
と、銃を構えた男へむかって訊いてみた。
「教える義理はないですな」
返事はつれない。
「義理はない、か」
酒井は苦笑を浮かべた。自分が生ける死人にむかって口にしたのと同じ言葉だったからだ。
よけられない。
瞬間的に確信した。
巨大斧の一閃は脳天に深く食い込み、赤い飛沫をはじき飛ばすだろう。夜の世界を睥睨する三日月さえ、その未来を疑いはすまい。
「あっ」
斧少女が驚愕に口をひらいた。
酒井の左肩からのびた死神の手が、斧の腹を叩いたのだ。軌道のそれた刃が地面に深々と刺さった。
「半分にちょん切られていても、これくらいには使える」
そして、斧が腕を切れるということは、死神の腕も斧にふれられるという理屈だった。
「おしかったです」
少女が斧を手にしたまま軽々と跳び、また距離がひらいた。斧は地面に刺さっていたはずだが、まるで苦にせず抜いていた。重さも気にならないようである。
「おいおい。さっきまで斧にふりまわされてたっていうのに、急に軽々と持ち出したな」
火事場のくそ力、というわけでもなさそうだった。
「油断させるつもりでしたのに、思うようにはいきませんね」
少女の声は涼しげではあったが、強くひきむすんだ唇からはくやしさがにじんでいた。
つまりは、重い斧を扱いきれていないように見せて油断させ、ここぞというときに本来の力をだす作戦だったということだろう。
「まさか戦いの最中に胸にさわられそうになるとは思いませんでしたので、とっさに体が反応してしまいました」
「おい、オレは」
酒井は慌てて弁解しようとした。
癇癪玉のはじける音に続く言葉を飲み込んだ。
いや、癇癪玉ではない。拳銃の発砲音であった。一発ではなく連続で鳴った。
「お嬢様!」
低音だがよく通る男の声が高架下からした。
「こちらにも敵です!」
斧少女が高架下へ顔をむけるのを確認するまでもなく、お嬢様とは彼女をさした言葉だろう。
斧をよけながら酒井は首をひねった。今夜この場所に生ける死人があらわれるというのは、未来予知によってわかっていた。予知から十五分遅れたが、それくらいのずれはいつものこと。珍しくはない。だが、死神の使いになってから今日まで、勤務中に邪魔されたのははじめてだった。
未来予知では、死神の使いが生ける死人と遭遇する時間と場所がわかるのである。逆にいえば、時間と場所しかわからない。遭遇のシチュエーションや、ターゲットの人数などはまったくわからないときている。生ける死人たちは単独で行動するので問題にならなかったし、酒井も同僚も気にしていなかった。
生ける死人同士で助け合ったりするとは考えづらかったが、いま相対している斧少女もターゲットかもしれなかった。たしかめる方法はひとつだけ。死神の手で核を探すのだ。
酒井は振り下ろされる斧をかいくぐり、右肩から死神の手を出現させた。実物の手と同じで二本あるのだった。
斧少女の胸へむけまっすぐにのばす。
彼女は斧を振り下ろした反動で動けない──はずだった。
死神の手が空をつかんだ。
視界の外で空気がうなった。少女が斧を振り上げたのだと直感で理解する。
酒井が少女のほうをむいたのと、巨大な斧が振り下ろされたのは同時だった。
速い! と電気信号的な思考が舌を巻いた。死神の手をよけられたときもそうだが、斧を振り下ろす速さもいままでのおっとりスピードとはくらべるべくもなかった。
よけられない。
瞬間的に確信した。
体格と比例するように顔も小さく、陶器を思わせるような滑らかな肌だった。涼やかな目元には力がこもり意思の強さを伝えている。スカートと同じで動きやすさに重きを置いているのか、髪型はショートカットであった。脱色したり染めたりせず黒髪のままなのは、夜闇にまぎれやすくするため──と、これはさすがにうがちすぎか。
彼女や斧について訊きたいことは山ほどあったが少女は戦う気満々だ。問いかけてもすべてには答えてくれまい。まずはもっとも重要な疑問を確かめるべきだった。
「貴様、その男の──」
仲間か? と問おうとしたが、
「問答無用です!」
斧の一振りにさえぎられた。
跳び退ってかわす。
不意を突かれさえしなければ、少女の振る斧など脅威でもなんでもない。
おそらくは、自身の小さな体をカバーするために重い斧を武器として使用しているのだろう。だが、小さな体で巨大な斧を振ろうとしているので、どうしたって予備動作がおおきくなる。スピードがのるのにも時間がかかる。あきらかに武器のチョイスミスだ。
斧をよけながら酒井は首をひねった。今夜この場所に生ける死人があらわれるというのは、未来予知によってわかっていた。予知から十五分遅れたが、それくらいのずれはいつものこと。珍しくはない。だが、死神の使いになってから今日まで、勤務中に邪魔されたのははじめてだった。
乱入してきた人影は斧を地面から抜いていた。
「切られたのか。その斧で……」
絶句するしかなかった。死神の手はこの世の物体に接触されないはずではなかったか。
では、あの斧はこの世のものではないということになる。
「貴様なにものだ!?」
酒井の誰何に緊張感が込められているのもむべなるかな。
「それを訊くのはわたしのほうです。いえ、訊く必要はありませんね」
乱入者が斧を肩口で構えた。
三日月のはかない光が銀色の斧に反射し、乱入者──彼女の体を照らしていた。巨大な斧には似合わない小柄な体型で、学校の制服だろうセーラー服を着ていた。動きやすさを考慮してかスカートは短く、白いふとももが半分くらいのぞいている。
「奇妙な特技をお持ちのようですが、わたしにも通用しますかどうか」
彼女が間合いをはかるように、じりじりとすり足で近づいてくる。斧の角度がかわったためか跳ね返る光が頭部にあたった。
体格と比例するように顔も小さく、陶器を思わせるような滑らかな肌だった。涼やかな目元には力がこもり意思の強さを伝えている。スカートと同じで動きやすさに重きを置いているのか、髪型はショートカットであった。脱色したり染めたりせず黒髪のままなのは、夜闇にまぎれやすくするため──と、これはさすがにうがちすぎか。
酒井は首をひねった。考え事をするときの悪癖で、敵からも考え中だと看破されてしまうため、上司や同僚からは治せといわれ続けていた。たぶん、これからもいわれ続けるだろう。
「じゃあしょうがない。取り引きはな──」
「たああああああ!」
裂ぱくの気合が夜空に響き渡った。月光を背中に受けて黒影の人物が舞い下りてくる。
その人物は、銀色に輝く巨大な斧を頭上にかかげていた。
「はあ!」
酒井と男の中間点に着地すると同時に斧が振り下ろされる。月光を跳ね返す銀色が弧を描き、死神の手をないだあと地面に深く食い込んだ。
「いでええええ!」
悲鳴を迸らせたのは酒井であった。なにがおこったのかわからなかった。突然、体の中心で激痛が爆発したのだ。
だが、痛みはすぐにひいていった。まるでなにごともなかったかのようだった。酒井は激痛に閉じていた目をうすくあけ、直後おおきく見開いた。
死神の手がなくなっていたのだ。正確にいえば、とちゅうから千切れてしまってそこから先はどこにも見えなかった。消滅してしまったようだ。
乱入してきた人影は斧を地面から抜いていた。
「切られたのか。その斧で……」
絶句するしかなかった。死神の手はこの世の物体に接触されないはずではなかったか。
たしかに、死神の手には酒井自身ですらさわれない。だが、いや、だからこそ、死神の手はこの世にある物体にはふれられないのだ。4mくらいまではのびるが冷蔵庫を物色することすらできない。DVDプレイヤーのディスクを入れ替えるためには、プレイヤーまで歩いていかなければならない。死神の手は、たったひとつの目的以外には、まったく使い道がないのだった。
死神の手が接触したりされたりできるのは、この世にない物体だけだった。そのひとつが死人の核である。死人の核を破壊することが、死神の手のたったひとつの使い道であった。
「オレたち死神の使いや死神の手を知ってるってことは、埋め込まれた死人の核についても知ってるって考えていいな」
「お、教えて、も、もらった。いろ、いろ」
「そいつのことが知りたい。どんな奴だ。男か女か? いや、第三の性別って可能性もあるな。どうなんだ?」
「し、死人の核をもらうとき、口止めされた」
「義理立てすることもないだろ。いっちゃえよ」
「俺、やばい金、持ち出して、こ、殺されかけ、いや、殺された。それを、助けてくれた。ぎ、義理はある」
「──いっておくが、貴様は死んでるままだぞ。死人の核が体を動かしてるだけだ」
「し、知ってる。それでも、俺……」
酒井は首をひねった。考え事をするときの悪癖で、敵からも考え中だと看破されてしまうため、上司や同僚からは治せといわれ続けていた。たぶん、これからもいわれ続けるだろう。
「とにかくオレは貴様に同情しない。同僚のなかには情けをかけてできるだけ早く死人の核をつぶすやつもいるが、オレはそういうのは嫌いだ。だから、これからいうことは取り引きと思ってくれ」
死神の手をゆるめる。ただし、ほんの少しだけ。
「貴様に死人の核を埋め込んだやつのことを吐け。そうすれば、苦しまないようひとおもいにとどめをさしてやる。吐かなければ──じわじわ苦しめながら破壊するぞ」
酒井はせいぜい意地悪く見えるように唇をゆがめた。
「な、るほど。お前、死神の使い、か」
男がとぎれがちに言葉をついだ。
「なら、こ、これは、死神の手、か。む、むかつく」
男が死神の手をつかもうとするが、筋肉質の手はすり抜けるばかりだった。
「ほい残念。死神の手はさわれません」
酒井はおどけていいながら内心では苦笑をもらした。さわれないってことは役立たずって意味でもあるけどな、と日ごろの考えが頭をもたげたのだ。
たしかに、死神の手には酒井自身ですらさわれない。だが、いや、だからこそ、死神の手はこの世にある物体にはふれられないのだ。4mくらいまではのびるが冷蔵庫を物色することすらできない。DVDプレイヤーのディスクを入れ替えるためには、プレイヤーまで歩いていかなければならない。死神の手は、たったひとつの目的以外には、まったく使い道がないのだった。
「やはりあったな死人の核」
改心の笑みを浮かべた酒井は、男の胸に埋め込まれた球体をさらに強く握った。五本の指すべてに力を込めて。そう、死神の手には五指がはえているのだった。だからこそ手といわれるのである。
「うぐむぅ」
急所をつかまれて苦しいのだろう。男がまた苦鳴をもらした。血の気が失せた顔には脂汗が滝のように流れている。
死人の核にヒビがはいった。
「がわっ!」
男の体が跳ね、脂汗が飛び散った。
「貴様にかける同情はない」
酒井は声に感情を込めずにいった。
「どういう経緯で死人の核を埋め込まれたのかは知らないが貴様は生者を襲った。それこそが貴様の罰。罪を受けなければ……」
続く言葉を飲み込んで首をひねった。
「ん? 罪と罰の使い方が逆か? ふむ、受けるべきは罰だったか?」
首を反対側にもひねり、しばし考える。そうしながらも死神の手をゆるめず、死人の核にできるヒビを増やしていた。男が苦痛に耐える声をもらし敵意ある視線を送りつづけているというに、どこ吹く風である。
「なんでもいいや」
やがて、酒井は晴れ晴れといった。
「とにかくオレは貴様に同情しない。同僚のなかには情けをかけてできるだけ早く死人の核をつぶすやつもいるが、オレはそういうのは嫌いだ。だから、これからいうことは取り引きと思ってくれ」
高架下から月下へ飛び出た男の体躯は、なるほど、ウェイトリフティングでもやっているかのように頑強だ。上背もあるし筋肉も厚い。男の突進をまともに受ければ一〇メートルくらいは余裕で吹っ飛ばされるだろう。脳震盪はまぬがれまいし、へたすれば骨折だ。
しかし、酒井は余裕の笑みを浮かべた。
どんなに筋肉の壁が厚くとも──
「死神の手には……」
死神の手をだそうとして酒井は動きをとめた。
涼やかな音色に鼓膜をくすぐられたのだ。
チリン、と。どこか遠くで鳴る鈴の音。
気のせいだったかもしれない。それくらい小さな音だった。
酒井がハッとわれに返ったのは、視界いっぱいを筋肉に埋めつくされてからだった。
「あぶっ」
とっさに真横に跳んだ。地面を転がりながら、ぼんやりしていた自分に舌打ちする。身を起こしたときには男がこちらにむきなおっていた。両手を突き出し、また突進してくる。
「ああ、えっと──おい!」
酒井は高架下へ声をかけた。
女がまだへたりこんでいる。
「いまのうちに逃げろ!」
女がはじかれたように立ち上がり、背をむけて逃げ出した。
見届けた酒井は正面にむきなおった。
男が両手を突き出して、一歩踏み出した位置でとまっていた。
「ううぐむ、がぐうう」
喉からは苦鳴がしぼられている。
どんなに筋肉の壁が厚くとも──
「死神の手には意味がない」
酒井の左肩からくらげのように半透明な腕──死神の手がのびていた。4mほど離れた男の胸に吸い込まれるように食い込んでいる。突進をとめた正体はたった一本の死神の手であったのだ。
月光を透かす半透明の腕には関節がなく、腕というよりもチューブといったほうが近いかもしれない。死神の手といわれる所以は、しかし腕の先端部分にこそあるのだった。
「やはりあったな死人の核」
改心の笑みを浮かべた酒井は、男の胸に埋め込まれた球体をさらに強く握った。五本の指すべてに力を込めて。そう、死神の手には五指がはえているのだった。だからこそ手といわれるのである。
男と女が争いながらもつれあっていた。
三日月のはかない光が斜めに差し込み、高架下をかすかに照らしている。男のシルエットはかなり大柄で、女の抵抗などものともしていなかった。
「予知より──ふん、十五分遅れだな」
携帯電話で時刻を確認しながら、酒井メグルは中身の残るアルミ缶を男にむかって投げた。コーヒーの飛まつを飛ばしながら放物線を描き、男の頭上をすぎて高架の支柱にあたる。
「ありゃ、失敗」
酒井は鼻の頭をかいた。
「なんじゃおら!?」
男の野太い声がコンクリートの支柱にあたって反響する。狩りを邪魔された苛立ちと怒りが、たっぷりと込められていた。
女の反応は男よりも鈍かった。一拍遅れて、
「た、助けて!」
男の気がそれているすきに逃げればいいものを、と酒井は小さくごちた。
女にとって運がよかったのは、男がもう見向きもしなくなっていたことだ。大柄な黒いシルエットは、赤く光った目を酒井にだけむけていた。
「邪魔してんじゃあねえぞおおお!」
吠えながら突進してくる。女を人質にとるつもりはないらしい。突然わいてでた邪魔者より自分のほうがはるかに強いとカン違いしているのだろう。
高架下から月下へ飛び出た男の体躯は、なるほど、ウェイトリフティングでもやっているかのように頑強だ。上背もあるし筋肉も厚い。男の突進をまともに受ければ一〇メートルくらいは余裕で吹っ飛ばされるだろう。脳震盪はまぬがれまいし、へたすれば骨折だ。
小説のネタにするための空想です。賭け事とは関係ないぞ。
前回の「サイコロで必ず6をだす方法(序)」では、6をだしたいのなら6面体サイコロを使うのがベストだと結論づけた。今回のエントリを読む前に参照していただきたい。
6面体サイコロ(以下サイコロ)を6回振れば1回は6がでる。じっさいに振ると紛れがあるが、この記事では絶対にでると仮定したい。つまり、6をだしたのであれば、サイコロを6回振ればいい。1回は6がでる。
サイコロで必ず6をだしたいのなら6回振る。
サイコロを複数回振ることが不可能なら、もうひとつ方法がある。1回振るだけで6をだす方法だ。
サイコロを6個まとめて振ればいい。どれかひとつは6がでる。
さて、小説で「サイコロで必ず6をだす方法」を利用するのは、たとえ話がもっとも手っ取り早いだろう。
なにをやってもうまくいかないキャラクターがいたとする。そのキャラクターに主人公がいってやるわけだ。
「きみはサイコロで6をだそうとするくせに、使っているサイコロは4面体ときた。それじゃあ6はでない。6面体を使わなきゃあ」
なにをやってもうまくいかないキャラクターは、上記主人公のセリフでなにかに気づくわけだ。
小説のネタになりそうな空想です。ギャンブルとは関係ないぞ。
6面体のサイコロだと6回振ったうちの1回は6がでる(じっさいに振ると紛れがあるが、この記事では絶対にでると仮定する)。つまり、確率は6分の1だ。
では、20面体のサイコロではどうか?
なんと! 確率は20分の1となる。確率がさがっているのだ。20回振って1回しかでない。サイコロで6をだしたいのなら、20面体のサイコロは使わないほうがいいということになる。
では、4面体のサイコロではどうか?
4面体のサイコロでは、そもそも6がない。何回振っても6がでないのだ。サイコロで6をだしたいのなら、4面体サイコロは絶対に使ってはいけない。
サイコロで6をだしたいのなら、6面体のサイコロを使用するのがベストなのである(ちなみに、4をだしたいのなら4面体のサイコロ、8をだしたいのなら8面体のサイコロがベストだ)。
さて、前置きは終った。本題はここからだが──次回へ続く。
小説の執筆環境、その他もろもろをWindowsXPからVistaへ移行している最中だ。いや、正確にいうとXPとVistaの併用になる。WindowsXPでしか動作しないアプリなどがあるため、現段階で完全にVistaへ移行することが不可能だからだ。
小説執筆や記事作成に使用している秀丸は、早期にVistaへ対応していたのでなにも問題はない。
頭を悩ませてくれるのはキーボードマッピングソフト(あるいはキーバインディング変更ソフトか)である。Vistaに対応しているものが見つからないのだ。
キーボードマッピングソフト(あるいはキーバインディング変更ソフト)についてちょっぴり説明しておこう。
たとえばWindowsキー。標準的なキーボードであれば、左CTRLと左ALTにはさまれるような位置にある。Windowsの旗印がプリントされているキーだ。このキーを無効にしたい、あるいは左ALTとして使いたい、などなど別のキーに変更したいときがある。キーボードマッピングソフトは、そんなぼくらの夢をかなえてくれるのである。
ところが、Vistaにネイティブに対応しているキーボードマッピングソフトがない。力技を利用すれば使えるようになるケースもある。あるにはあるが、クリーンインストールして間もないOSで力技は使いづらいのだ。
うむむ、どうしたものか。以前にもいったことがあるかもしれないが、小説の執筆とキーボードは切っても切れない関係にあるのだ。キーボードマッピングソフトは、キーボードの「ここがちょっと……」という欠点を補助をしてくれる。早晩、なんとかしたいものである。でないと、Vistaに移行できない。
【質問】
オリジナル小説を縦書きで印刷しようとしました。作中で「!?」という2文字でひとつの記号を使用しています。ですが、思ったような表示がされません。
そ
ん
こ
と
が
!?
としたいのです。でも、半角で!?とすると90度右に回転してしまい、横になってしまいます。
全角で!?としても、
そ
ん
こ
と
が
!
?
となってしまいます。使用しているワープロソフトはMS-Wordなのですが方法はあるのでしょうか。
【回答】
方法はあります。!?の2文字を選択状態にしてください。メニューバーにある書式から拡張書式を、拡張書式メニューから縦中横を選択すれば可能です(MS-Wordのバージョンによっては多少違うかもしれません)。
また!?の2文字を選択状態にし、文字の90度回転でも可能だと思います。
【質問】
オンライン小説の書きだしで悩んでいます。会話、風景、殺人現場といろいろなパターンがありますけど、どれがベストなのでしょうか?
【回答】
オンライン小説の書き方にもよりますので一概にはいえません。ベストとなると特に。ですが、ベターな書きだしならお教えできるでしょう。
ミステリや推理小説なら、殺人現場から書くのが無難でしょう。冒頭で死体を転がせといわれるくらいです。
オンライン小説のほかのジャンルで無難な方法というと──会話でしょうね。一行目からセリフにします。
【例:いきなりセリフからはじめる】
「はいてたパンツを落としただって!?」
「おおきな声で叫ぶんじゃないわよ」
「はいってないってならまだ理解できる。起き抜けで寝ぼけてたんだろ。でも、落とすってなんだ。はいてるパンツをどうやって落とせるんだ!?」
「だから叫ばないでったら。炊飯ジャーよ、炊飯ジャー。ぜんぶ炊飯ジャーが悪いのよ」
オンライン小説の書きだしで悩むようなら、まずは会話ではじめてみましょう。もっとよい手が思いつけば書きなおせばいいだけですから。
「オンライン小説なオリジナル小説サイト うにたな」のRSSをフィード管理会社のFeedBurnerに登録しました。
FeedBurnerってなにか? 公式サイトの説明をそのまま引用すると、
FeedBurnerは世界で最も大きいフィード管理会社です。我々が運営しているWEBサービスは「ブロガー」「ポッドキャスター」「法人パブリッシャー」が配信している情報をプロモーションしたり、配信したり、利益を作り出すお手伝いをしています。だとか。 要約すると、サイトで出力しているRSSの配信をお手伝いをしますよ、というところでしょうか。
使い方は──まだよくわかりません^^; わからないながらも設定をいろいろと変更してためしています。タイトルの下にとりあえずバナーを設置しています。あまり有効な場所ではないですので、またあらためて置き場所考えないとね。
サイドバーにあるRSSフィードは、MTが出力するRSS2.0になります。タイトル下のバナーがFeedBurnerが出力するRSSになっているはず。登録するのはお好みのほうでお願いします。
オンライン小説の執筆ではパソコンでキーを打って書くことのほうが多い。いったん紙に書くかたでも、オンライン小説にするためにはキーボードを打たなければならない。オンライン小説とキー操作は切っても切れないのである。
MS-IMEで漢字変換をおこなう場合、よく問題とされるのは文節変換ではないだろうか。
オンライン小説を執筆していたとする。漢字変換で「おいおい、そこで文節を区切らないでくれ」という場合がたびたびある。解決策はMS-IMEヘルプの「文節の長さを変更する」にあった。[Shift]キーを押下しながら、カーソルキーの左右によって文節の区切りを変更できる、とある。
だがしかし、である。
オンライン小説にかぎらず、キーボードで文字入力をおこなう場合は、ホームポジションから指を離したくない。離したくはないが、カーソルキーを押下しようとすると、どうしたってホームポジションから離れてしまう。MS-IMEのヘルプにしめされたキー操作では効率が悪いのだ。とくにオンライン小説では、キー操作にもたつくと言葉に逃げられるかもしれない。
じつは、ホームポジションから指を離すことなく、文節区切りを変更する方法がある。紹介したい。カンタンだ。[CTRL]キーを押下しながらKキーを押せば、文節の区切りが左に移動する。文節の区切りを右に移動したい場合は、[CTRL]キーを押下しながらLキーを押せばいい。
MS-IMEのヘルプファイルのように箇条書きにしてみよう。
文節を伸ばす CTRL + Lキー
文節を縮める CTRL + Kキー
ホームポジションのキーを使用するので、腕を動かす必要がない。オンライン小説執筆で文節を変更するときは、ぜひ試していただきたい。カーソルキーでの操作より、はるかに効率がよいと実感できるはずである。
オリジナル小説を最後まで書く練習法4である。一連の流れがあるのでナンバリングしてしまったが、練習法というと少し語弊があるかもしれない内容だ。そこのところに目をつぶって読んでいただきたい。オリジナル小説を最後まで書く練習法4だ。
「オリジナル小説を最後まで書く練習法1~3はわかったよ。でも、オリジナル小説をいまたちまち最後まで書かないといけないんだ。時間をかけて練習できない。なんとかしたい」
上記のようにいいたいかたは多いのではないだろうか。クオリティよりも終らせることを優先するなら、いますぐに幕をおろすのも、そうむずかしくはない。かなり完成度はさがってしまうが、けりはつく。最後の手段である。
まず、オリジナル小説のテーマをはっきりさせよう。ここでいうテーマとは「愛は地球を救う」といった曖昧としたものではない。「募金を5億あつめる」というふうな具体的な内容にしていただきたいのだ。
昔話をひきあいにだそう。たとえば「うさぎとかめ」。この昔話がうったえていることを抽出するなら「努力すればむくわれる」となろうか。「油断大敵」とか「なまけるな」と、そういった意味もあろう。日本人の好きそうなお話しだ。だがテーマとなると「かめがうさぎに勝つ」とシンプルなものになる。とちゅうの行程がどうであろうと、かめがうさぎに勝てば話は終る。
オリジナル小説でも要領は同じだ。たとえば主人公が異世界へとばされる話があるとしよう。異世界で好きな異性ができたり、恋のライバルがあらわれたりするだろう。魅力的な恋愛小説になる予感もする。だが、いますぐ終らせなくてはならないなら、主人公を異世界から戻してしまえばストーリーは終わる。伏線が未処理でも、恋愛部分が棚上げでもだ。書きようにもよるが、完成度はかなり低くなろう。それでも軸となるテーマを消化してしまえば、オリジナル小説を最後まで書いたことになる。
上記のやりかたは最終手段だ。じっさいにはこうまでなる前に対策をこうじたい。
オリジナル小説を最後まで書けないというかたは、常にテーマを意識していてほしい。そして、いろいろと書きたいエピソードもあろうが、テーマに集約できそうにないことは書かないほうがいい。小説を書く前に、原稿の一行目にテーマを書くように習慣づけてもいいだろう。テーマを意識する練習になる。
伏線をもりこんだり、キャラクターに深みをあたえるエピソードは重要だ。恋愛小説の要素もいれたいだろう。だが、いろいろもりこむのは、オリジナル小説を最後まで書けるようになってからでも遅くはない。書きはじめるまえでに、書く内容をしぼりこんでいただきたい。
オリジナル小説を最後まで書く練習法というタイトルで、一連の記事をエントリーしている。ここまで駆け足できてしまったので、ちょっぴり補足させていただきたい。
オリジナル小説を最後まで書く練習法1~3を紹介してきた。駆け足できたので、カン違いさせてしまったかもしれない。練習は1回やれば終わりではない。くりかえしおこなう必要がある。練習法1にかんしてのみ、1回だけでいいいかもしれない。1回目がスムーズに書けなかった場合に2回、3回とおこなっていただきたい。
オリジナル小説を最後まで書く練習法では、とにもかくも書く行為のハードルをさげている。さんざんくりかえしているが、練習のときにはクオリティもオリジナリティも考えなくていい。練習で書いたものは、ひとに見せるわけではない。完成度は気にしなくていいのだ。考えなくていいから、書いて書いて書きまくってほしい。練習はくりかえしだ。
オリジナル小説を最後まで書く練習法というタイトルでエントリーしている。タイトル名には順番で番号をふっているが、しかしタイトルから内容が読みとりずらい。エントリーごとの違いがわかりにくいのだ。一連のエントリーが書き終わりしだい、なんとかしたい。
さて、オリジナル小説を最後まで書く練習法3の本題だ。
オリジナル小説を最後まで書く練習法1では昔話をそのまんま書いていただいた。2では結末部分をアレンジしていただいた。では、3ではどうするのか? 予想されたかたもいるのではないだろうか。3では起承転結の転をアレンジするのではないだろうか、とか、いやいや起であろう、なんて。──いずれも外れだ。予想通りにいってたまるかってんでい。オリジナル小説を最後まで書く練習法3では、起承転結を意識しない。
オリジナル小説を最後まで書く練習法3では、原稿枚数を意識していただく。小説を最後まで書けないかたのなかには、延々と書いてしまうというひともいる。どうして小説を延々と書いてしまうのか。決められた原稿枚数があるわけではないので、ストーリーにあわせて枚数の上限を自由にコントロールできるからだろう。原稿用紙何枚以内というしばりをつければ、延々と書いてしまうこともなくなるにちがいない。オリジナル小説を最後まで書く練習法3は、原稿枚数をつねに意識して小説を書く練習方法である。
前置きが長くなったが、オリジナル小説を最後まで書く練習法3の具体的な方法にはいる。まず素材となるストーリーを選択する。そして、記憶しているストーリーを自分の言葉で書いていく。書いているさいちゅうは、けして原文を見てはならない。クオリティは気にしなくていい。言葉の用法をまちがっていてもいい。小説を完成させることに注力していただきたい。
ここまでなら「オリジナル小説を最後まで書く練習法1」とかわらないように感じるだろう。肝は枚数である。原稿用紙何枚までと、書きはじめる前に決めておくのだ。書いている最中も常に枚数を意識する。いやいや、決めた枚数きっちりに小説を終らせる必要はない。練習なのだから、たりなかったりオーバーしたりしても問題はない。枚数を意識する、その練習なのだ。
小説を最後まで書く練習法1との違いは、もう1点ある。いままでのオリジナル小説を最後まで書く練習法では昔話を素材にしてきた。しかし、今回の練習方法では不向きである。もともとの話がみじかすぎるため、枚数を意識することがむずかしいのだ。そこで今回は昔話をわきに置き、小説を素材としたい。
例として拙作「補充しなきゃね」をあげたい。原稿用紙にして6枚のショートショートで手ごろな枚数である。「補充しなきゃね」を一度読んでいただき、ストーリーをおぼろげでいいので覚えてもらう。そして、ご自分の言葉で冒頭から結末まで書いていただきたい(注・書くときにはけして原文を見てはいけない)。そのさい、原稿用紙にして6枚以内(文字数は2000文字程度だろう)におさめるように意識してほしい。くりかえしになるが、クオリティやオリジナリティはわきにおしてしまってかまわない。枚数がたりなかったりオーバーしても問題はない。枚数を意識しつつ、完成させることに注力していただきたい。
──ほんとうはプロ作家のショートショートをすすめたいのだけれど、問題があってもいけないので、恥ずかしながら拙作をひきあいにだしてしまった。原稿枚数や文字数をカウントできるようなら、プロ作家のショートショートを練習の素材としていただきたい。
「オリジナル小説を最後まで書く練習法1」の続きである。
前回のオリジナル小説を最後まで書く練習法1では、昔話をそのまま、なんのアレンジも加えることなく、クオリティもいっさい気にせず書く練習法だった。とにかく完成させることだけを優先させる練習法だ。
今回の「オリジナル小説を最後まで書く練習法2」では、もうちょっとだけ負荷を高めたい。練習の素材となる昔話の結末部分を変更してみるのだ。ここから、ちょっぴりだけオリジナルの要素がはいってくる。前回は桃太郎を例としたが、今回は浦島太郎をひっぱりだしたい。なるべく場数をふみたいので、オリジナル小説を最後まで書く練習をするときは、毎回違う素材を使用する。
浦島太郎のあらすじをおおざっぱにわければ次のようになる。
1・亀を助ける。
2・亀に竜宮城へ連れていかれる。
3・乙姫たちと宴会。
4・地上へ戻ってじいさんになる。
わけかたにはいろいろあるが、例としては上記のわけかたをとる。
オリジナル小説を最後まで書く練習法2では、4の部分を自分で考えて、そのうえで冒頭から書きなおすという練習法だ。起承転結の結だけ自分で考えるというわけだ。
今回の小説を最後まで書くための練習法も、クオリティはいっさい気にしなくていい。アレンジを加えるのも結だけでいい。結を自分で考えるとはいえ、原作のようにおおきな落差をひねりだす必要もない。「普通に帰ってきて村人たちに自慢した」だけでもいいのだ。結を自分で考えること以外は、徹底的にハードルをさげてほしい。練習なのにハードルをさげるのには抵抗があるかもしれないが、なにごとも順番に、である。
オリジナル小説を最後まで書く、具体的な練習方法を紹介しよう。(検索エンジンからとんできたかたは、先に「オリジナル小説の書き方、小説を最後まで書くには(序)」から読んでいただいたほうがいいだろう)。
前回の記事「オリジナル小説を最後まで書くには」で、小説を最後まで書けないという悩みを解決するのなら、とにかく場数をふむしかないといった。小説を書くのをやめなければ場数はおのずと増えていくが、効率よくやろうとすると時間が問題となってくる。10年間書き続ければ場数も増えようが、それまで未完小説の山を築くことにもなろう。
短時間で場数をこなすには、いわゆる書きなぐりをおこなうしかない。端的にいうなら、完成度やクオリティ、オリジナリティをそぎ落とすのだ。オリジナリティにあふれた小説や完成度の高い小説を書きたいだろうが、まずは小説を完成させられるようになってからだ。
そして、小説のストーリーや登場人物を考えていたのでは、これまた時間がかかりすぎる。なにより考えすぎで手がとまるかもしれない。オリジナル小説を最後まで書く練習方法1では、ストーリーと登場人物を考えなくてもいいように、ありものを利用したい。昔話がいいだろう。「桃太郎」や「浦島太郎」だ。
覚えている昔話ならなんでもいい。ひとつ選んでいただきたい。その昔話をあらためて読みなおしたりせず、頭のなかにある情報だけで、はじめから書いていただきたい。読んだ昔話と一言一句違わないようにする必要はない。文法や用法は気にしなくていい。アレンジを加える必要もない。ストーリーをはじめから最後まで書く。そのことだけに注力していただきたい。
たとえば「桃太郎」を選んだとしよう。ほとんどの桃太郎は、「むかしむかし。あるところにおじいさんとおばあさんが──」ではじまる。あなたが桃太郎を書くときは、「むかしむかし──」ではじめてもいいし、「おばあさんは洗濯のため川へとむかった」などのようにまったく違う文言でもかまわない。書きやすいように書いていただきたい。ただし、ストーリーを曲げたりしてはいけない。また、完成度をあげようとか、オリジナリティをだそうとか、色気をだしてもいけない。手がとまる原因のひとつだからだ。オリジナル小説を最後まで書くための「練習」である。目的以外に目をうつしてはいけない。むしろ目的以外には積極的に目をつむっていただきたい。
オリジナル小説を書こうとしているかただ。上記の練習は苦にならないはずである。練習にもならないかもしれない。自信にもならないだろう。だが、完成させるイメージ、その端緒はつかめたかと思う。次回の記事から紹介する、ちょっとハードルのあがった練習法へとすすんでいただきたい。
もしこの段階で書けないとなると、原因の想像がつかない。書けないというかたがいないことを祈る。
「オリジナル小説の書き方、小説を最後まで書くには(序)」の続きである。
オリジナル小説を最後まで書くにはどうすればよいか。結論を先にいってしまうと、オリジナル小説を最後まで書く練習をするしかない。とにかく場数をふむのだ。
「なんだ。そんなあたりまえのことか」と思われただろう。オリジナル小説を最後まで書くにはどうすればよいかという問いに対する、それこそ教科書的な回答だといわれるかもしれない。しかし、もうちょっとおつきあいいただきたい。より詳しい話をさせていただく。
オリジナル小説を最後まで書けないと悩まれているかたは、とうぜんオリジナル小説を書いているはずだ。さらに、オリジナル小説を書く練習もされていると思う。だが、オリジナル小説を完成させることに特化した練習はされていないのではないだろうか? 小説の質だとかおもしろさだとかはあえて捨ててしまい、とにかくオリジナル小説の完成だけを目的とした練習だ。
オリジナル小説を完成させることに特化した練習なんて聞いたことがない、とおっしゃられるかもしれない。さもありなん。意識して練習するものではなかったからだ。オリジナル小説を完成させられるかたは、知らず練習していたともいえる(そして、そんなかたはオリジナル小説を最後まで書けないという悩みがわからない)。
では、オリジナル小説を完成させることに特化した練習の具体的な方法はというと──次回へと続くのであった。
オリジナル小説を最後まで書けない。完結させられない、と悩まれているかたが多い。わたしも途中で投げたオリジナル小説がある。ひとつやふたつではない。正確な数を覚えていないくらいたくさんだ。どうすればオリジナル小説を最後まで書くことができるか。完成させられるか。わたしなりに考えてみた。
オリジナル小説の書き方に関しては、ちょいと長くなるので、今回から何回かにわけて記事を書くことにしたい。とちゅう、オリジナル小説の書き方以外の記事を書いてトビトビになるかもしれないが、気長におつきあいいただきたい。
今回はまず「オリジナル小説を最後まで書けない」と掲示板などで相談した場合、どのような回答がかえってくるか紹介したい。列挙してみよう。
1・書く意欲がにぶい。中断してもいいという甘えを捨てよ。
2・書く前に細部までこだわって設定していないからだ。詳細なプロット(乱暴に説明すれば、小説の設計図みたいなもの)をつくれ。
3・プロ作家の小説を読んで刺激をうけ、モチベーションをあげよ。
列挙した回答例はすべて正しい。正しいが、しかし逆にいえば教科書的といえなくもない。オリジナル小説を完成させる具体的な方法はなにもしめされていないのだ。
では、どうすればいいのか?
次回へ続くのであった。
オンライン小説Q&Aの記事、「オンライン小説での改行とは?」から派生した記事である。前回の記事「オンライン小説の桁折り改行について補足1」も参照していただきたい。
ブラウザの横幅をひろげたときに、オンライン小説で桁折り位置がかわる。
といわれて、ピンとこないかたもおられるだろう。現在はブログが普及しているので、オンライン小説もブログで公開されているかたが増えたからだ。
オンライン小説にかぎらず、ブログの場合、テンプレート(雛形)が用意されている。テンプレートでは、記事を表示する領域のサイズが決まっていることが多い。「オンライン小説 な オリジナル小説 サイト うにたな」では下記のように指定している。
#main{ width:440px; float:left; }
乱暴に説明すると「幅は400pxで枠内の左側に表示しろ」という意味だ。ちなみに、→をごらんになればおわかりかと思うが、右側にはカテゴリだとか最近のコメントなどのサイドバーが表示されている。
オンライン小説をブログで公開するのなら、じつは桁折りのための改行は必要ないのかもしれない(もちろん、テンプレートにもよるが)。
しかし、じっさいに桁折り改行をおこなっているかたがいる。理由は「そのほうが読みやすいから」ということだった(そのかたが使用されているテンプレートではフォントが小さく、かつオンライン小説を表示する領域の幅がひろかった)。
もちろん、全員に訊いたわけではないので、ほかの理由もあるかもしれない。
オンライン小説Q&Aの記事、「オンライン小説での改行とは?」の補足を少々。オンライン小説の場合、なぜ桁折り(行の折り返しともいう)のための改行をすることがあるのかについて、である。
オンライン小説は、当たり前だがインターネットに接続しないと読めない。そして、パソコンのアプリケーションであるブラウザで読むのだ。このこと前提に話をすすめさせていただく。
まずは、オンライン小説に桁折りの改行がないとして考えていただきたい。HTMLの書き方にもよるが、ブラウザの横幅を変更すると、自動で桁折りされる位置がかわる。ブラウザの横幅をひろげすぎると、延々と桁折りされないために、オンライン小説が読みにくくなるのだ。
そういう背景があり、オンライン小説において桁折りのための改行がひろまった。
ただし、オンライン小説における桁折り改行には欠点がある。ブラウザの横幅をひろげたときはいいが、縮めた場合は逆に読みにくくなる。桁折り改行されているうえに、ブラウザによって自動で桁折りされるため、改行位置がちぐはぐになるためだ。
オンライン小説における桁折り改行については、次回へ続くのであった。
【質問】
オンライン小説でいうところの改行って、出版社からでている小説の改行とは意味がちがうのでしょうか? オンライン小説で改行について書き込んでも話が食い違うことがあります。
【回答】
文章の行をかえるときに改行をおこないます。オンライン小説であろうと、書店で販売されている小説(以下、小説)であろうと、改行自体の意味は同じです。
ただし、オンライン小説と小説では、改行をおこなう条件に違いがあります。
小説では段落(英語でいえばパラグラフ)ごとに改行します。必ず段落ごとに改行するのです。逆にいえば、段落がかわらないかぎりは改行しません(箇条書きなどはのぞく)。
ところが、オンライン小説では必ずしも段落の区切りで改行するわけではありません。読みやすい位置で桁折りをするために改行をおこなう場合があるのです。
【例:小説での改行】
「おはよう」
山田太郎が校門前で手をあげていた。カンカン照りなのに待っていてくれたらしい。見た目に似合わず、心根のやさしいクラスメートである。
【例:オンライン小説での桁折り改行】
「おはよう」
山田太郎が校門前
で手をあげていた。
カンカン照りなのに
待っていてくれたら
しい。見た目に似合
わず、心根のやさし
いクラスメイトであ
る。
オンライン小説の例では、全角9文字を条件に桁折りしています(わかりやすいよう、あえて極端にしています)。ですが、どこで桁折りするかは書き手の判断しだいです。単語の区切りで桁折りするかたもおられます(英文でいうところのワードラップ)。
掲示板で話が食い違う場合、桁折りの改行と通常の改行を前後の文章から判断してみてください。
【質問】
オンライン小説を某小説賞に応募したいのですが、印字された原稿(いわゆるワープロ原稿)よりも、手書きのほうがよいのでしょうか?
【回答】
まずは、その小説賞の募集要項を確認してください。「手書きの原稿でなければダメ」とか「ワープロ原稿のみ受け付け」など書かれていなければ、どちらで応募してもかまいません。
ワープロ原稿のほうが小説賞の選考を通過しやすいとか、手書きのほうが好印象をあたえるということもないでしょう。ワープロ原稿と手書き原稿に優劣はありません。
ただし、自分の字が汚い、読みづらいという自覚があるのなら、ワープロ原稿をおすすめします。読めない字はそれだけでストレスになりますから(これはワープロ原稿でもそうかな。目立つことを目的にしてかわったフォントで印刷しないほうがいい。無難に明朝体で印刷しましょうよ)。
「オンライン小説とOptimus Maximus」でふれたキーボード、Optimus Maximusの予約がついに開始された。
Optimus Maximusの価格は4万3,990ロシア・ルーブル。ロシア・ルーブルなんてはじめてきく。日本円に換算すると20万弱くらいになろうか。
20万! 計算間違えてないよね? ロシア・ルーブルにくわしいかたからのつっこみを待つ。どうかわたしの計算間違いであってくれ。
予約開始ととも、Optimus Maximusのくわしいスペックも判明した。列挙しよう。
Optimus Maximusの本体サイズは幅537ミリ・奥行き173ミリ、高さ38ミリ。標準のキーのサイズは20.2x20.2ミリ角となる。
ELディスプレイのスペックは、解像度48x48ピクセル、65536色(いわゆる16bit)表示、視野角は160度、フレームレートは最低10フレーム/秒である。
ちなみに、ELディスプレイはキートップについているわけではない。キーボード本体についているのだ。キートップは透明のキャップ、というかカバー部分となる。押下するのもこのカバー部分になるわけだ。透明だから、キーボード本体に固定されたELディスプレイがすけて見えているという仕組み。
なお、Optimus Maximus本体には、2ポートのUSBハブとSDカードスロットがついている。おもしろいのは防犯用のワイヤー、ケンジントンロックもつけられるようになって点だ。高級品の証というところか。
正式な発売日は12月1日を予定しているらしい(きっとまだまだ紆余曲折があるに違いない)。しかし、半年以上も先だとのんびりかまえてもいられない。初期出荷数を聞いて驚け、その数なんと200台! 2万とか2,000じゃない。たったの200だ。いくら高価とはいえ、世界が見張っているのだ。200ではいくらなんでも少なすぎる。初期出荷分というプレミアを狙っているあなた、急げ!
小説賞に応募するほとんどのかたは、ワープロ原稿を送るそうな。ワープロ原稿での応募では、原稿用紙換算枚数を明記しなければならない場合が多い。さて、いま書いているオンライン小説を原稿用紙に換算すると何枚になるだろうか?
前回の記事「オンライン小説を公募に応募する場合」では、アプリケーションの設定を変更すればすぐにわかると書いた。計算する必要はない、と。だが、面倒な計算から逃げたにすぎない。今回は原稿用紙換算に正面からぶつかってみよう。(どうでもいいことだが、前回の記事「オンライン小説を公募に応募する場合」というタイトルはいただけなかった。内容とあまりあっていない。後悔)
オンライン小説の原稿用紙換算枚数を考えるにいたって重要となるのは、全体の文字数でもなければ、枚数でもない。原稿用紙換算した場合の行数であろう。全体で何行あるのか正確に判明すれば、20でわるだけで原稿用紙換算枚数がはっきりする。行数が肝となる理由は、読みすすめていただければおいおいわかっていただけよう。
正確な行数をはかるには、行かわりがどこでおこるのか、ちくいち判定する必要がある。
まず着目するのは、オンライン小説冒頭から全角21文字目である。特殊な処理が必要な文字(!や?、…や─、句読点や促音など)でないかぎり、21文字目から行かわりさせればいい。そして、2行目もまた21文字をチェックして──とその繰り返しを最後まで行うのだ。なお、20文字に達していない行にかんしては、判定をとばしていい。これで正確な行数がわかる。あとは20でわれば、オンライン小説の原稿用紙換算枚数がわれよう。
──これで終ればいいのだが、前述の説明では一番面倒な部分をはしょっている。「特殊な処理が必要な文字」である。ひとつひとつ列挙していってみよう。
1・句読点が21文字目にきた場合、ぶら下がり処理といって欄外に打つ。この行は1行21文字になるわけだ。
2・閉じカッコが21文字目にきた場合、欄外に書く。この行も1行21文字。
3・カッコのはじまり(「【『など)が21文字目にきた場合は、すなおに21文字目から次行となる。
4・…や─が21文字目にきた場合、20文字目が…や─でない限り、20文字目から次行へ追い出す。20文字目が…や─であれば、19文字目から次行へ追い出す。…や─は慣例で2つセットで使用するため、このようになる。
5・!や?などはぶら下がりにしてもいいし追い出してもいいが、原稿用紙換算ではぶら下がり処理のほうが面倒がなくていいだろう。「……?」という使い方もあるからだ。4の処理とあわせると複雑になりすぎる。
──ざっと思いつく限りでもこれだけある。いわゆる禁則処理である。例外もふくめるとさらに数はふえるだろうが、この5つは最低限判定しないとならないだろう。そうとう面倒だし、手計算では時間がかかりすぎる。計算するにはマクロを組んでPCにやらせるしかない。
また、前述のやりかたでは不完全だといま気づいた。禁則処理だと19文字目と20文字目もチェックしていなければならない。判定がさらに増えた。
──オンライン小説の原稿用紙換算枚数だが、やはりテキストエディタやワープロソフトのフォーマットを変更するほうが手っ取り早い。
オンライン小説を手直しして、ワープロ原稿で小説の賞に応募する場合、原稿用紙換算枚数がわからずに悩んでいるかたが多いようだ。すぐに解決する悩みである。
オンライン小説を書く場合、テキストエディタかワープロソフトを使用するかたが大半だろう。いったん紙に書くかたでも、最終的にはどちらかのアプリケーションを使用する。テキストエディタであろうと、ワープロソフトであろうと、ほとんどのかたはデフォルト設定で使われていることと思う。原稿用紙換算枚数がわからないのも当然だ。
オンライン小説を原稿用紙に換算したさいの枚数は、かんたんにわりだせる。計算は必要ない。使用しているテキストエディタやワープロソフトのフォーマットを変更すればいいだけだ。1ページを20行×20文字にすればよい。最終ページ数がすなわち原稿用紙枚数となる。ね、カンタンでしょ。
(追記07/05/23・誤解をあたえる書き方だったかもしれない。20行×20文字で印刷する、といっているわけではない。それでは応募規定に違反する。1ページを20行×20文字にするのは、手っ取り早く原稿用紙枚数をわりだすためだけだ。枚数さえわかれば応募規定通りのフォーマットに戻すのである)
逆の方法もある。
常日頃から、1ページを20行×20文字にして小説を書くようにするのだ。これなら、執筆中でもいま何枚目なのかすぐにわかる。応募するさいには、もちろん応募規定にあったフォーマットになおして印刷するのである。
なお「ワープロ原稿じゃなく手書き原稿で応募するんだけど、原稿用紙換算枚数がわからない」というかたも、たまにいらっしゃる。手書きで応募するのなら、原稿用紙に書けばいいんじゃないかな──。
オンライン小説とキーボードは切っても切れない関係にある。この記事でいうキーボードとは、もちろん楽器のそれではなく、パソコンの入力機器としてのキーボードのことだ。
オンライン小説とキーボードが、なぜ切っても切れない関係なのか? と疑問に思うかたはいないだろう。小説ならあるいは紙に書いているというかたもいるが、オンライン小説となると、必ずパソコンで入力しなければならないためだ。いったん原稿用紙に書くというかたもいる。そういうかたも、インターネットに小説をアップロードするためにはキーボードで入力するしかない。
さて、オンライン小説と切っても切れないあいだがらにあるキーボード。そのホットな話題をお届けしよう。2005年の第1報からこっち、さんざん紆余曲折してわれわれにニュースを提供してくれた例のキーボードについてだ。そう、ご存知。OLEDキーボード、Optimus Maximusである。
Optimus Maximusについて軽くふれておこう。すべてのキートップ部分が有機ELディスプレイになっており、好きな文字やアイコンの表示が可能なキーボードなのだ。キーは114個。そのうち10個は、アプリケーションの起動などに使用する特殊キーとなる(注・ただし、前述の諸機能は当初発表されたものである。その後コストなどの問題で紆余曲折があり、製品版ではどういったスペックに落ちついたのか、値段もふくめてよく把握できていない
発売がのびのびになっていたOptimus Maximusだが、ついに予約がはじまる。予約開始日はロシア・モスクワ時間で2007年5月20日午後3時から。日本時間にすると同日午後8時となる。
オンライン小説を書いているかたで、待ちに待ったと快哉を叫ぶかたが何人いるかはわからない。ただ、オンライン小説と切っても切れないあいだがらにあるキーボードである。興味をもたれたかたもおられよう。だが、実際に予約をする場合は、値段をしっかりと確認していただきたい。何ヶ月か前の発表では日本円で15万円を越えていたのだから。
【質問】
オンライン小説で使われている記号について教えてください。──、という記号なのですが、オンライン小説ではどういうときに使えばいいのでしょうか?
【回答】
小説内では間を意味する記号です。おもに、あいた時間を文字であらわすときに使用します。
たんなる間なら書かなければいいのにといわれそうですが、あえて書くことによって、微妙なニュアンスが読者に伝わるときもあります。
例
「あの──わたしの小説を読んでくれませんか?」
また、──を使用すれば、のちに続く言葉を強調することもできます。
例
山田がオンライン小説──不特定多数に読んでもらう小説を書いたのは初めてだった。
質問
オンライン小説で有名小説の続編が書かれていました。個人サイトの管理人のかたが書かれており、原作者と違う人が続編をつくっているようです。こういう小説はなんとよべばいいのでしょうか?
回答
通常はパロディとかパスティーシュというよびかたをします。
しかし、ネット上では二次創作とか二次小説いったほうが通りがいいかもしれません。ドリーム小説や夢小説という場合もあります。
上記の区別は小説の内容によってかわりますので、よくわからない場合は、とりあえず二次創作というおおきなくくりでよべば問題ないでしょう。
オンライン小説において数字のあつかいはどうすればよいのか、という記事である。「オンライン小説における数字のあつかい1」の続きとなる。
出版社から出版される小説(以下、小説)では、出版社や編集部によって数字をどのようにあつかうか決まっている。編集部の方針にしたがえばいい。しかし、オンライン小説では自分で決めなければならない。
では、自分で決めるさい、なにを指標にすればよいのか。やはり、小説を参考にするしかあるまい。
おおくの小説は縦書きである。縦書きでは、漢数字(一、ニ、三)でも算用数字(1、2、3)でも全角で書くことが多い。
小説で漢数字が2桁以上になる場合、たとえば15をあらわす場合を考えてみよう。「十五」と書いたり「一五」と書いたりする。105なら「百五」や「一〇五」となる。わたしが読んだ小説では「一五」や「一〇五」とする場合が多かった。
小説で算用数字が2桁になる場合、少々複雑かもしれない。ワープロソフトでためしていただければわかるが、算用数字が縦にならぶと非常に見づらい。そのため、印刷するさいに算用数字の部分だけ、半角の横書きにする場合が多い。
では、小説で算用数字が3桁以上になるとどうするのかと疑問に思われるだろう。一部だけ横書きなので4桁以上は厳しいはずだ。これはカンタン。2百とか3千、4万、5億というように単位に漢字を使用するのだ(ほかの例があるかもしれないがわたしは知らない。あれば教えてほしい)。
横書きの小説もある。基本は半角で書く。算用数字を横書きにする場合は、カンマがあるほうが読者に親切だろう。
例
19,800
また、万の位から単位に漢字を使う手もある。そうしたほうが読者にやさしい。
例
1万9,800
小説での数字のあつかいを大雑把に説明した。オンライン小説を書くさいの参考になっただろうか。
小説と関係ない話題でもうしわけないですが、次世代ゲーム機Xbox360のゲームソフト「トラスティベル ~ショパンの夢~」についての記事です。6月14日に発売なので、プレイできるのはまだまだ先なのですが、テレビCMもはじまっており、マイクロソフトさんにはもっともっともりあげていただきたい。
そして、ビッグニュース。昨日(5月14日)になりますが、Xbox360のマーケットプレイスで、「トラスティベル ~ショパンの夢~」の体験版がダウンロード可能となりました! 書きかけの小説もほっぽりだして、わたくしさっそくプレイいたしました。
いままでは公式サイトや雑誌でしか情報がありませんでした。「わぷわぷだいあり~♪」さんの情報ですが、東京ゲームショウではすでに体験版が遊べたようです。しかし、わたしはふれるのははじめた(東京ゲームショウバージョンではキャラクター同士のかけあいによる説明があったのだとか。体験版にはなくこれは残念)。
さて、「トラスティベル ~ショパンの夢~」の体験版をプレイする。
ぬお!
予想以上におもしろい!
いかしている!
公式サイトや雑誌で想像できる以上で、これは感動である!
──少々、もりあがりすぎかな? でも体験版とはいえ、実際にプレイしてみるのと、想像だけでは雲泥の差です。「トラスティベル ~ショパンの夢~」に対する期待はおおきかったのですが、ここまでとは思いませんでした。
当サイトはオンライン小説のサイトであって、ゲームのサイトではありません。「トラスティベル ~ショパンの夢~」の詳しい内容などは、ゲームサイトやファンサイトさんにまかせるとします。でも、たまにプレイ日記みたいなのは書いていくつもりです。6月と先のことですが^^;
追伸
「トラスティベル ~ショパンの夢~」の体験版は非常によかった。しかし、残念というか、はがゆい点もあります。マーケットプレイスからのダウンロードということは、Xbox360ユーザーでないとプレイできないということなのよ。Xbox360ユーザーは体験版をプレイしてトラスティベルを購入するかもしれないけど、新規のお客さんをどれだけ取り込めるかは、マイクロソフトさんの営業しだい。しょうじき、「ブルードラゴン」ほど露出されてないような気がするのよ。せめて、試遊台を設置している店をふやしてほしいな~。
オンライン小説では数字のあつかいがむずかしい。そう感じておられるかたが多いらしい。公開済みのオンライン小説を手本にしょうにも、おのおのの作者で数字のあつかいがまったく違っているからだろう。同じ作者でも、昔書いたオンライン小説といまのものでは、数字のあつかいがまったく異なっていたりする。
いったいどのオンライン小説がただしいの?
どの書き方がもっともいいの?
疑問に思われるのもむべなるかな。じつはオンライン小説での数字のあつかいについて「これしかない」という解答はない。せいぜい「こうしたほうがいい」という程度だ。
オンライン小説ばかりでなく、出版社から発行されている小説でも数字のあつかいはゆれている。縦書きのため漢数字(一、二、三)を使う場合がもっとも多い。しかし、最近は数字(1、2、3)を使うことも見かけるようになった。出版社や編集部によって数字のあつかいはきまっているのである。
さて、オンライン小説で数字はどうあつかえばいいのか。読んでほしい相手がだれかにもよるが、基本的には数字(1、2、3)が読みやすいのではないだろうか。縦書きなら漢数字という選択もある。しかし、オンライン小説の場合、ほとんどのかたはブラウザで読むので横書きになってしまう。横書きに漢数字は存外読みにくいのだ。
オンライン小説における数字のあつかいの話はまだ終わりではないが、長くなるので次回へと続く。
たった20分でいいんです。21世紀のダイエット小説「減量本(原題:The Diet Novel)」を読むだけで、あなたの体重はみるみる減っていきます。
小説を読むだけでやせていくのです。ダイエット運動の方法が書いてあるとか、低カロリー料理のレシピではありません。読むという行為で体重を減らすのです。
定番のダイエット方法は、運動と食事制限です。いずれにしても、あなたがやる気にならなければダイエットは成功しません。やる気のない人間が就職したり結婚したりできますか? できませんよね。ダイエットも同じなんです。あなたの「やる気」で運動したり食事を減らしたりするんです。
体重を減らすのにもっとも大切なのは、しかし「やる気」ではありません。根気でもなければダイエット知識でもない。また、高価なエクササイズマシンを買う必要もない。
21世紀のダイエット小説「減量本」の作者は、そのことに気づいたんですね。100Kgをこえていた彼女の体重も、いまでは50Kgまで落ちています。まだまだやせられるのですが、健康を考えて50Kgでストップさせているということです。
では、ダイエットにはなにが一番大切なのでしょうか?
答えをいそがず、まずはこのまま先をお読みください。ダイエット小説の秘密をひとつひとつ開陳していきます。
ダイエット小説の作者は、あなたの1日1日の体重の減りを、2倍、3倍にすることはとてもカンタンだといっています。ダイエット小説「減量本」を読むだけ。たったそれだけなのです。
あなたがダイエット小説を読みつづければ、ご家族、ご友人から「一週間前とは見違えた。ダイエットはじめた? どんなダイエット?」といわれるでしょう。「ダイエットってきついでしょ」とも。でも、あなたは寝ころがって小説を読んでいただけなのです。
なぜ、そんなことが可能なのか。もちろん秘密があります。
世の中には、どんなに食べても太らないかたがいる。逆に、食は細いのにすぐ太るかたもいる。
両者の違いはどこにあるのか?
長年、個人の体質によるものだと思われてきました。いえ、いまも思われています。
ですが、両者のあいだには、体質以外の決定的な差があったのです! 一定のルールがあって、そのルールに則しているのかどうかで、太るかどうかが決まっていたのです!
ダイエット小説「減量本」の作者は、新聞にも載ったある事件をきっかけに、体重をコントロールするルールに気づいたのです。
どんなに食べても太らないかたがいる反面、すぐ太るかたもいる。
読書ダイエットの秘訣は、まさにここにあります。両者の違いはなにか。それがはっきりとわかったのです。
体重をコントロールすることはカンタンなのです!
余談ですが、ダイエット小説の読み方をかえると、体重を増やすことも可能です。ニーズがあるかどうかは別として。
……。
…………。
小説のネタを考えていて、ダイエットに関するストーリーを思いつきました。どれくらいディティールをだせるか試したのが前述のダイエット小説の紹介文。ダイエット関係の情報商材ページがありまして、参照させていただきました
原稿用紙換算で4枚になりました(空行含む)。ちょっと長すぎる。調子にのって書きすぎました。原稿用紙半分くらいまで減らさないと使えない。
小説で数字をあつかうときは、おもに漢数字を使う。しかし、小数点をどのようにすればいいのか迷っている。さて、どうしたものか。
あるオンライン小説サイトの掲示板で、前述のような質問が書き込まれていた。ただし、まんま引用しているわけではない。わたしの言葉で書きかえているが、質問の意図はかわっていないだろう。
なるほど。いわれてみると小説で小数点以下まで明記されることはまれである。目にする機会が少ない。質問者が迷われるのも当然だ。さいわい、わたしは何度か目にしていたので、小説での書き方は知っていた。だが、まちがいないのかどうか自信がない。もう一度、確認してみよう。
手にとったのは北上秋彦の「吸血蟲」である(角川ホラー文庫版である)。ぱらぱらっとめくると、後半のあるシーンで、小数点以下まで数字が書かれている。ニンニクの成分分析で水分やら食物繊維が明記されているのだ。どのように書かれているのか?
食物繊維五・七%
と書かれている。数字もパーセント記号もすべて全角文字だ。驚くべきは小数点として中黒が使用されていることである。「小説の漢数字で小数点はどう書きあらわすのか?」という質問への解答は決まった。
小説の漢数字では、中黒で小数点をあらわすのである。
「吸血蟲」では小数点以下一桁しかないが、ほかの小説(タイトルと作者は忘れてしまった)では延々と続けていたものもあった。
八・五六一三九九
のような感じだ。
上記の解答はどうでしょうか? 読んでくれているかたからのつっこみをお待ちしています
オンライン小説に関係ない話題が長らく続いてしまったので、小説に関しない話題はさけるつもりでした。しかし、おもしろい話題ができましたのでふれておきます。
本日、シックスアパートから突然にメールがきました。株式会社CGMマーケティングが運営する、新しいブログ広告マッチングサービス「AD-Butterfly(アドバタフライ)」の先行登録キャンペーンに応募しないかという内容です。
AD-Butterflyの報酬については「広告インプレッション数、クリック数とその媒体価格に応じて収益を受け取ることができます」と記載されています。インプレッション数を乱暴に説明するとするなら広告の表示回数となります。広告がクリックされても報酬がでるし、表示回数が一定に達しても報酬がでるわけです。
Google AdSense(グーグルアドセンス)に代表される同様の広告マッチングサービスとの違いは、広告を表示させるためにブロガーと広告主双方の合意が必要ということです。ブロガーは表示させたい広告をコントロールしやすくなるわけですね。Google AdSenseではフィルタをかけられるのですが、上限が200なので、完全にコントロールできないんですよ。
おもしろいかなと思うんですが、いまはまだ様子見です。小説関連のブログでどんな広告が表示されるか、ほかのかたを参考にしてからでも遅くはないんじゃないかな。サービスが本格的にはじまるのはまだ先のようですし。
オンライン小説執筆に役立つサイト紹介です。
- 秀まるおのホームページ
◆テキストエディタ「秀丸エディタ」で小説を書いています。サイト作成にも使用してますね。考えてみれば10年くらい使っているぞ。 - Project/OpenOffice.org日本ユーザー会
◆無料で使用できるオフィススイートOpenOffice.orgがダウンロードできます。執筆したオンライン小説を見栄えよく印刷するために、ワープロソフトのWriterがおすすめ。
オンライン小説において「違和感を感じる」と書いていいものかどうか迷っている。「違和感を覚える」がただしい用法だとわかってはいるが、堅苦しすぎて不自然な印象をあたえる気がするのだ。さて、どうしたものか。
上記のような質問が某オンライン小説サイトの掲示板でされていた。まんま引用することはさけ、わたしの言葉で書きなおしたが、いわんとしている意図はかわっていないだろう。
質問者の気持ちはよくわかる。オンライン小説で「違和感を感じる」と書いてしまうと、日本語に神経質なかたがにはうけが悪くなる。実際に用法としてはまちがっているのだろう。かといって「違和感を覚える」という言葉は日常では使われない。病院の医師も「違和感とかありますか?」と、用法をまちがえていると知りつつわかりやすい言い方をしてくれる。
オンライン小説で「違和感を感じる」と書いていいものかどうか。むずかしい問題だと思う。
さて、独断と偏見に満ちたわたしの解答は次のようになる。
一人称の小説では「違和感を感じる」でもいい。三人称の小説ではNG。ただしセリフ部分はのぞく。
補足しておこう。一人称小説においては、語り手が日本語の用法を間違えていたとしても「そういうしゃべりかたをするキャラクター」でとおらないこともなかろう。三人称小説のセリフでも同じだ。だが三人称小説において地の文で用法をまちがうのはよくないだろう。三人称小説の地の文では「違和感を覚える」としたい。
上記の解答はどうでしょうか? 読んでくれているかたからのつっこみをお待ちしています
Movable TypeではATOM、RSS 1.0、RSS 2.0 のフィードを自動的に出力してくれているものだと思っていた。ところがMovable Type 3.34だ。どういうわけかRSS 1.0フィードが出力されなくなっている。RSS 1.0のみ対応のRSSリーダーというものはないだろうから、RSS 1.0フィードが出力されていないとしても支障はない。
だが、あっても邪魔にはなるまい。six apart日本語公式サイトからRSS 1.0フィードのテンプレートをコピペした。これでRSS 1.0フィードが出力されるようになった。しかし、新たな問題が浮上してくるのであった。
RSS 1.0フィードが正常に出力されているか確認するため、愛用しているRSSリーダーに「オンライン小説 な オリジナル小説 サイト うにたな」のRSSフィードを登録した。ついでだからとRSS 2.0とATOMも同時にだ。確認してみて──あわわ、表示のされかたに仰天してしまった。
RSS 1.0は概要のみの表示で、RSS 2.0とATOMは全文表示となっているが、そのことではない。RSS 2.0の全文表示では改行がいっさいおこなわれていないのだ(>_<) 読みにくいったらない。何とかしたいものである。
わたしとさゆりが腕を組んで笑っていた。
テーブルに置かれたフォトフレームからは、幸せオーラがでているようだった。
「おかえり。その写真きれいでしょ」
声にふりむくと、さゆりがパソコンラックを指さしていた。見なれないプリンタが目にとまる。たしか、写真画質の最新型だ。
「このプリンタで印刷したのよ」
さゆりがにんまりと笑った。にこり、じゃないところが彼女らしい。
「お誕生日おめでとう」
プレゼントしてくれるというのか!?
わたしは感激のあまり、さゆりに抱きつこうと一歩ふみだした。しかし、急な動作だったため、右足が明後日の方向に! まるで計ったかのように、右足がティッシュの箱にはまってしまった。わたしはよろけて、ラックに手をついた。肘がプリンタにあたる。落下は、やけにゆっくりとして見えた。
バキ! とすごい音がした。
小説とは関係ない話である。ゴールデンウィークは道が混んでいた。書店やコンビニ、ショッピングセンターなども大賑わいしていた。しょうじき、うっとうしいくらいだ。
今日は店の混みようはおとなしかったが、かわりに道の混みようがすごかった。車が長い列をつくってとろとろすすむのだ。なんだったら小説を読みながら運転してもいいくらいだ。もちろん実際にやったりはしない。だが、やってみても大丈夫じゃないかという邪心をいだくくらいにはゆっくりだった。こっちは仕事やねん(>_<) はよ動いてんか、である。
だがしかし、トラックの運転手のほうがもっといらついているのかもしれない。彼らには何時までに荷物を届けなければならないという制約があるのだ。わたしなんかは「できれば早く進みたい」程度である。重みが違うのだ。
わたしは音楽をかけて気をまぎらわしているが、トラックの運転手はどうしているのだろうか? 同じように音楽を聴いているのか、ラジオなのか。あるいは別のなにかか。まさか小説を読んではいまい。機会があれば訊いてみたいものである。
小説では段落をかえたあとに全角1文字さげるのが決まりである(行頭の「など例外はある)。オンライン小説でも全角1文字さげるルールは同じでいいだろう。
当サイトで発表している全小説(短編小説「真昼の激闘」から短編小説「眼球飛行物体」にも、全角1文字さげのルールを適用している。もともとのテキストデータがそうなっているのだから、あたりまえといえばあたりまえだ。
だが、ちょっと考えたこともある。オンライン小説をぐるりと見わたしてみると、全角1文字さげをおこなっていない場合が多いのだ。また、全角1文字さげをおこなっていない小説では、段落と段落のあいだに空行が挿入されていることが多い。ブラウザ上では空行があるほうが読みやすいからだろう。
長いものには巻かれろとばかりに、わたしも試みてみた。だが、さすがに小説でやるのは抵抗がある。「ブログ」カテゴリや「オンライン小説の書き方が5分でわかる!」 の記事で試行錯誤を繰り返した。段落がかわったさいの全角1文字さげをおこなわず、空行を多めにとってみたのだ。
ただ、くせとは恐ろしいもので、いつもの書き方に戻っていた。「鯉のぼらず」エントリでは全角1文字さげをおこなっていないのに、「オンライン小説の書き方で大事なのは読書」エントリからは、小説と同じように全角1文字さげをおこなってしまっている。
ちぐはぐなのは格好悪いが、読んでくれているかたがたは気にはしていないだろう。試行錯誤につき、これからも同様のことがおこるだろうが、生あったかく見守ってほしい。
「オンライン小説の書き方で大事なのは読書」エントリから変更した点があるがお気づきになっただろうか? じつはカテゴリ名をかえたのである。以前は「頭がいい人、悪い人のオンライン小説執筆術」と名づけていたが「オンライン小説の書き方が5分でわかる!」とした。「執筆術」というとイメージがおおぎょうになり当サイトにはそぐわない。「書き方」というほうが親しみもわくはずだ。
「日付にまさる管理方法なし」でもふれたが「オンライン小説なオリジナル小説サイト うにたな」は手探りで運営している。テンプレートもいじっているし、サイトタイトルもかえる可能性がある(もしかしたらMovable Typeの操作をあやまって、すべてのエントリを消してしまうかもしれない)。だが小説に関するサイトというポジションだけは、かえるつもりはさらさらない。
今回はカテゴリ名の変更だったが、今後はカテゴリを増やしていく予定だ。すべて小説に関するカテゴリだ。それ以外のことは「ブログ」カテゴリにすべていれてしまう(あるいは別のサイトをつくるか)。用語集やFAQ、連載小説を考えている。実行がいつになるかはわからない^^; 気長に待っていてほしい。
今回は「オンライン小説の書き方で大事なのは読書」の続きである。前回はオンライン小説の書き方でもっとも大事なのは小説をたくさん読むことだと主張した。今回からは具体的な読書術についてふれよう。
オンライン小説の書き方が知りたい、ネット小説が書きたいというかたは読書も好きにちがいない。お気に入りの作家が何人かおられよう。オンライン小説の書き方を学ぶにさいし、好きな作家のなかから、もっとも好きなかたをひとりだけ選んでほしい。むずかしくて決められない場合はサイコロをふってくれてもいい。それほど深刻になる必要はない。その選んだ作家の著作から、もっとも好きな一編を選んでほしい。できれば最新作がいいが、まずはページ数の少ないものをチョイスしてほしい。その一冊がオンライン小説の書き方を学ぶ教材となる。
オンライン小説の書き方を学ぶという姿勢で、選んだ著作を読んでほしい。まず意識してほしいのは段落である。むずかしく考えなくてもいい。「このセンセはこんなときに段落をかえるのね」という程度で十分だ。なれないとついついストーリーを追いそうになるが、がんばって段落に意識を集中してほしい(その小説を事前に楽しまれておくことをおすすめする)。
オンライン小説の書き方を学ぶために段落を意識して読書する。それにどんな効果があるのか、すぐにはピンとこないだろう。まずは段落について考えてほしい。
段落を国語辞典で調べると「長い文章中にあるおおきな切れ目」とある。より詳しい国語辞典では「意味のうえでのひとまとまり」ともある。文章が適当な長さになったので、いい加減に段落をつければいいというわけではないのだ。意味的にひとまとまりになっていなければいけない。
では、どこで段落を区切ればいいのか。段落について解説された本はでているが、ピンとこなかったり、実際の執筆にいかすのがむずかしかったりする。ハウツー系の本よりもプロ作家の手になる小説を読み、段落を区切るタイミングをつかんだほうが早いし実用的だ。オンライン小説の書き方を学ぶために段落を意識して読書するのは、段落を区切るタイミングを体得するために有用なのである。
オンライン小説の書き方でもっとも大事なのは、小説をたくさん読むことだ。
ここでいう小説というのは、素人の書いた小説ではなくプロの手になる小説をさす。プロ作家はデビューする過程において、さまざまな文章技術を習得している。デビューしたあとも研鑽を重ねている。1冊の小説にはプロの文章技術がぎっしりとおさめられているのである。そのプロの書いた小説を意識して読めば、小説の書き方にかんするハウツー本よりも多くのことを学べるだろう。自分だけにしか書けないオリジナル小説への足がかりともなる。オンライン小説の書き方を学ぶのに、読書は必要不可欠だ。
オンライン小説の書き方が知りたい、ネット小説が書きたいというかたは、とうぜん読書も好きだと思う。この記事を読まれているかたは読書好きだと決めつけてしまってもいいだろう。読書が好きなかたは、好きだからこそ、いろんな作家の小説を読んだり、さまざまなジャンルに手をだしたりしているにちがいない。それはとてもよい傾向である。読書の傾向がかたよらないほうが、オリジナル小説を書くさいの幅ができていい。
ただ、プロの技術を小説から学ぶときは、かたよらせたほうがいい場合もある。ひとりの作家のひとつの著作を徹底的に読みこむのだ。そうすれば効率的に文章技術を学べるだろう。
次回はオンライン小説の書き方を学ぶ、具体的な読書方法について書く予定。
オンライン小説なオリジナル小説サイト・うにたなは手探りで運営していたりする。隅から隅まできっちり決めてから開設したのではない。まずは開始。徐々に形を整えていくのである。カテゴリ「頭がいい人、悪い人のオンライン小説執筆術」で顕著だろう。「頭のいい人ほど、オンライン小説執筆でバックアップをとります」と「頭のいい人ほど、オンライン小説でキャラクターを生かそうとします」を読み比べていただけると一目瞭然だ。とりあえずはじめてみる。そして、いろいろと試行錯誤して理想の形を探っていくのだ。
カテゴリの分け方にしてもそう。「頭がいい人、悪い人のオンライン小説執筆術」と「短編小説」以外のエントリは、なんでもかんでも「ブログ」カテゴリにほうり込んでいる。共通する話題の記事がそろえば新たにカテゴリを作成するつもりだった。過去形である。ことはそう単純にはいかないのだ。オンライン小説なオリジナル小説サイト・うにたなではカテゴリごとにディレクトリを作っているのである(「Movable Typeとアーカイブ・マッピング」を参照されたし)。この振り分け方法だと、エントリページのカテゴリを変更すると新たなディレクトリにコピーされてしまうのだ。管理がややこしくなってしまう。
Movable Typeのデフォルト設定では月ごとにディレクトリが作成される。そこにエントリーファイルが保存されるのである(じつは記憶があやふや。そうなっていたと思う)。なるほど。日付で管理されているなら記事のカテゴリを変更しようがファイルが重複しない。よく考えられている。というよりも、わたしが余計なことをしたということか^^;
オンライン小説において、いきたキャラクターを書こうとしても、なかなかうまくいかないものです。オンライン小説でキャラクターをいかすためには現実にいそうだと読者に思わせればよい。そう耳にしたことがあります。
オンライン小説のキャラクターに現実味をもたせる手段として、そのキャラクターしか知りえない情報を持たせるという方法があります。料理人を書く場合に料理のうんちくをいわせたり、酒飲みであれば酒に対して一家言をもたせたり、という方法です。この方法だけを抜き出せば小手先ととられそうです。しかしなければないで、オンライン小説でキャラクターの奥行きが感じられないでしょう。キャラクターに特定の情報を持たせる方法は、そのキャラクターをいかすために十分な条件ではなく、必要な条件なのではないでしょうか。
先日、テレビのチャンネルがかわらなくなりました。リモコンの電池をかえたりしてみたのですが、改善されません。故障です。電器屋へリモコンを持参しました。できればその場でさくさくっと修理してもらいたいのですが、無理そうなら同等品の取り寄せを考えていました。ところがですね、奥さん。電器屋の店員がですよ。おもむろに携帯電話を取り出してカメラのレンズへむけてリモコンを操作するではないですか。
「あー。リモコンは正常に動作しています。故障してるのはテレビの受光部ですね」
携帯電話でなにがわかるのかと、不思議に思うじゃないですか。もちろん訊いてみましたよ。
「ほら見てください。リモコンからはちゃんと発信してるでしょ」
携帯電話のディスプレイを示されます。なるほど。ボタンを押すたびにリモコンの発信部がテロテロ光っているのが見えます。どのボタンを押しても光るので、リモコンは正常だということなのだ。リモコンの発信部を肉眼で見ても光っているようには見えない。電器屋の店員だから知っているトリビアというところか。
オンライン小説で電器屋の店員を登場させるときは、ぜひ上記エピソードを利用したい。固有の情報を持たせるという法にのっとれば、電器屋の店員というキャラクターに現実味をもたせる一助になりそうです。
いま、地球人は選択を迫られていた。
UFO研究家が感涙にむせんで、はや三年になろうか。記念日となったあの日、宇宙の彼方から飛来してきたUFOは、円盤型でも葉巻型でもなかった。巨大な白玉の真ん中に、エメラルドグリーンの瞳が輝く眼球だったのだ。
地球人たちが戸惑いつつ見守るなか、はたして眼球が泣いた。陽光にきらめく涙が数粒、地上にむかって落下してくる。
着地した涙たちには小さな手足が生え、かわいらしい目も開いた。マスコットキャラクターかと見まごうばかりの彼らは、外宇宙からやってきた知的生命体であったのだ。
人びとは温厚な彼らを歓迎し、抱擁をもってむかえた。ある婦人などは、宇宙人の愛らしさに、五分以上も抱きしめていたほどだ。
地球を気にいった宇宙人たちが、お願いをしてきた。故郷の同胞にもこの星を紹介したいので、遊びにくるよう誘ってもよいか、と。
人類はみな、こころよく同意した。
そして、三年後にやってきたUFOは、円盤型や葉巻型ではなく、眼球ですらもなかった。
巨大なヒップだったのだ。
いま、臭い立つ宇宙人たちが、ブリブリと降りてくる。
官能小説ってジャンルとしてはアダルトにふくまれるのだろうか?
わたしはふくまれると考えました。
当サイト「オンライン小説なオリジナル小説サイト・うにたな」の開設からきていただいているかたならご存知でしょうけど、一時期、官能小説をアップしていました。一応、リンクは隠していましたが、読まれないと寂しいので、すぐに発見されるだろう場所に貼っていました。
ですが現在、この官能小説へのリンクははずしましたし、ファイルも削除しています。
「オンライン小説なオリジナル小説サイト・うにたな」は「さくらインターネット」さんのサーバーでを開設させていただいてるんですが、よくよく確かめてみるとアダルトはダメと書かれているじゃありませんか。
だから、官能小説を削除したのですね。
もちろん、「オンライン小説なオリジナル小説サイト・うにたな」はアダルトじゃございません。アップしていた官能小説も、わたしが「これは官能小説である」といいはるから官能小説なのであって、世間でのジャンルはどうなるかはわかりません。コメディだという人のほうが多いかもしれない。
「さくらインターネット」のいうアダルトというのは、画像や広告がべたべた貼られたサイトであって、厳密な意味でのアダルトを指しているわけではないと思うんです。あのまま官能小説をアップしていても、「さくらインターネット」から「コラッ!」と怒られることもなかったのかもしれません。
不安なら「さくらインターネット」のスタッフにお伺いをたててもよかった。あの内容なら、たぶん「OKです」といわれたとも思う。
お伺いもたてずに官能小説を削除したのは、面倒くさかったというのもあるのですが、官能小説はその内容にかかわらず、官能小説とうたった段階で立派にアダルトに分類されると、そう考えたからです。
ただ、それはわたしの独りよがりなんですけどね。
オンライン小説を書いているかたで、頭のいい人は必ずバックアップを保存しています。
バックアップというのは、今回の場合、書きあげたオンライン小説を失くしてしまわないように予備を保存しておくことです。
完成したオンライン小説のファイル名を「オンライン小説.txt」と名づけているとして考えてください。操作のミスなどで、「オンライン小説.txt」を消去してしまったり、内容を書きかえてしまっては、泣くに泣けませんよね。予備があれば、消去してしまった「オンライン小説.txt」を元に戻せます。
「オンライン小説.txt」のバックアップをとる方法はカンタンです。どのアプリケーションでも、ファイルメニューのなかに「名前を付けて保存」があると思います。「名前を付けて保存」をクリックして、ファイル名の欄に「オンライン小説予備.txt」や「オンライン小説.bak」と、バックアップファイルとわかる名前をつけて保存するだけです。
ただし、この方法だけだと、同じフォルダに似た名前のファイルが並ぶことになりますので、バックアップファイルは別のフォルダに移動させたほうがいいでしょう。
マイドキュメント内やCドライブのルートなどに新しいフォルダを作成してください。「オンライン小説バックアップ」とか「バックアップ原稿」と、オンライン小説のバックアップであると、ハッキリわかるフォルダ名をつけたほうがわかりやすいでしょう。
新しく作成したフォルダに、「オンライン小説予備.txt」や「オンライン小説.bak」をマウスで移動させてください。
できるなら、CD-RやUSBメモリなど外部メディアへの保存もおすすめします。
HDDは消耗品ですので、今日使えるからといって明日も大丈夫とは限りません^^;
Movable Type(以下MT)を導入して、はや──何日になるのだろう。もうしわけない、忘れてしまった。
今回も、興味のないかたにはとことん興味がないだろうMTのお話し。
現在、MTでいろいろ試行錯誤中です。気にいったテンプレートがなかなかないので、ありものを修正したりなどして対応しています。いきなり1から作るのは無理と判断、あきらめました。MTの専用タグを多少なりとも覚えてからでないと、とてもとても……。
さて、前置きも終わり、ここからが本題。
先日投稿した「頭のいい人ほど、オンライン小説執筆で漢字のバランスに注意します 番外編」で、予想だにしないことがおこったのであった!
いや、わたしの頭がよければ予想くらいはできたのだけれど……。
まずは、「頭のいい人ほど、オンライン小説執筆で漢字のバランスに注意します 番外編」をごらんいただ──問題の部分を引用したほうが早いでしょうね。
置換欄には「\1なか」と入力します。
半角¥になるべき箇所が、バックスラッシュ(これね→\)になっています。半角¥とバックスラッシュのどちらでも正常に動作しますが、多くの日本語環境の場合バックスラッシュが表示されないので、読んでくれたかたに誤解をあたえてしまったかもしれません。
投稿するときに気づいていればよかったのですが、わたしの環境では半角¥ではなくバックスラッシュが表示されるようにしてありまして(Windows用のOsakaフォントはバックスラッシュで表示してくれます)、翌日になってからようやっと気づけました。
原因はエンコード(正確にいうならキャラクタエンコードになるのでしょうか?)の種類だと思われます。MTの場合デフォルト(あるいは推奨されているので、テンプレートがそうなっているのか)でUTF-8になっているためでしょう。
わたしもひとに話して聞かせられるほどよく理解しているわけではありませんので、非常に乱暴な説明をさせていただきます。
本来バックスラッシュだったキャラクタコードに、日本で独自に半角¥をわりあててしまったのが原因です。見た目の文字は違いますが、キャラクタコードは同じです。動作に支障がないのはそのため。
使用されているOSやブラウザの種類によっては、常日頃からバックスラッシュで表示されているかたもおられるでしょうけど、当サイトを見にこられるかたの大半のかたはとまどったのではないでしょうか。ごめんして
オンライン小説を執筆する場合、漢字をかなに置き換えたいときどうすればいいか。
という内容の記事を数回にわけて書いていますが、今回は番外編となりますよ奥さん。
「頭のいい人ほど、オンライン小説執筆で漢字のバランスに注意します その1」と「頭のいい人ほど、オンライン小説執筆で漢字のバランスに注意します その2」を読んでくれているという前提でお話しますね。
前回にあたるその2では、オンライン小説内にある「中」を「なか」に置き換えるために、2回置換を行いました。これを1回ですませてしまおうというのが、今回のテーマです。番外編なので、興味のない人は読み飛ばしちゃってください。
いきなり正解を書いてしまいましょう。
例)オンライン小説内の「中」を「ちゅう」に置き換える。置換を行うのは1回だけ。
オンライン小説を執筆するときに、いつもお使いになるアプリケーションを実行してください。
オプションメニューなどで、正規表現を使用できるようにしてください。
置換ウィンドウを開きます。
検索欄に「\f[なの]\f中」と入力します。
置換欄には「\1なか」と入力します。
全置換をクリックすれば、オンライン小説内にある「中」と「中」が「なか」に置き換わっており、開発中や中国などの「中」は漢字のままです。
「\f[なの]\f中」や「\1なか」といわれても、ピンとこないかもしれません。正規表現というルールで文字列を指定しているのですが、オンライン小説を執筆するときに、直接役にたつ知識ではありませんから。
ご使用のアプリケーションによっては、正規表現に対応していないかもしれません。そのときはごめんなさいです
おおざっぱに説明しますと、「\f[なの]\f中」というのは、「な中」と「の中」を意味しています。「\1なか」というのは、この場合、「ななか」と「のなか」を意味します。
上記の例では、「な中」と「の中」を探して、それぞれ「ななか」と「のなか」に置き換えてね、という意味になるんですね奥さん。
記号の意味はともかくとして、文字を置き換えれば応用がききますので、あなたのオンライン小説執筆にも役立つのではと思います。
オンライン小説を執筆するにあたって、正規表現を利用した検索や置換は、作者の強い味方になってくれます。
いずれしっかりと記事にしたいとは思いますが、今回は「こんな方法もありますよ奥さん」という程度にとどめさせていただきます。
オンライン小説を執筆する場合、頭のいい人は漢字を適度にひらがなにしています。オンライン小説は漢字ばかりとかひらがなばかりでは、とても読みにくくなるからです。
執筆しているオンライン小説原稿で漢字を使いすぎたなという場合、「頭のいい人ほど、オンライン小説執筆で漢字のバランスに注意します その1」で紹介している方法を利用して、漢字を適度にひらがなに置き換えたほうが、オンライン小説読者によろこばれるでしょう。
ところがですね、奥さん。上記のエントリでは問題が発生しています。オンライン小説原稿にあるすべての「中」を「なか」に置き換えてしまうと、「開発中」も「開発なか」になってしまうのです。
今回はオンライン小説執筆における上記問題への対処方法をご紹介します。
ただし、ちょっぴり想像力が必要です(オンライン小説を書いてらっしゃる奥さんですから、想像力は旺盛でしょう。わたしはなんの心配もしていません)。
問題が発生した原因は、「中」をひらがなにしたいがために、オンライン小説中のすべての「中」を「なか」と置き換えてしまったことにあります。「中」は「ちゅう」とも読みます。「ちゅう」と読む場合には、ひらがなにはしたくないのです。
ですからね、奥さん。オンライン小説の執筆で、「中」を「なか」と読むのはどんな場合かがはっきりすれば、検索条件をしぼりこめるのですね。
ここで想像力を働かせてください。オンライン小説内で「中」を「なか」と読むケースはどんな場合ですか?
ざっとあげると、
船の中、海の中、混乱の中、嵐の中、夢の中、そんな中、あんな中
ほんの一例です。まだまだあります。
ですが、よく見ると、数はあってもパターンはそれほどでもありません。「○○の中」とか「○○な中」という程度です。オンライン小説内で「中」を「なか」という読みでいくら使っていようとも、このふたつのパターンに集約されます。
例)「船の中」「嵐の中」など「○○の中」を「○○のなかに」とひらがなにする
まずは、オンライン小説を執筆するときにいつもお使いになるアプリケーションで、置換ウィンドウを開きます。
検索欄に「の中」と入力します。
置換欄には「のなか」と入力します。
全置換をクリックすれば、「○○の中」が「○○のなか」というふうに、ひらがなに置き換わっています。
例)「そんな中」「あんな中」など「○○な中」を「○○ななかに」とひらがなにする
まずは、オンライン小説を執筆するときにいつもお使いになるアプリケーションで、置換ウィンドウを開きます。
検索欄に「な中」と入力します。
置換欄には「ななか」と入力します。
全置換をクリックすれば、「○○な中」が「○○ななか」というふうに、ひらがなに置き換わっています。
この方法なら、オンライン小説原稿に多くの「中」がふくまれていても「なか」と置き換えられますし、開発中、混乱中、中国などは検索対象から外れますので、開発なか、となるようなこともありません。
──「中」を「なか」と読むパターンはほかにもあるかもしれません^^; ご存知のかたがいらっしゃいましたら、後学のためにお教えください
オンライン小説を執筆する場合、頭のいい人は漢字とひらがなのバランスを考えます。
オンライン小説は漢字ばかりとかひらがなばかりでは、とても読みにくくなるのです。パソコンを使用して小説を書くと、キーを押下するだけで漢字変換ソフトウェアが漢字にしてくれますので、漢字が多くなりがちです。
オンライン小説を漢字とかなのバランスに注目して読んでみると、よくわかっていただけると思います。実際に本屋に並んでいる小説を読むと(つまり、プロ作家の小説を読むと)、漢字とかなが絶妙のバランスで配置されていると気づかされるでしょう。
手書きの小説原稿では、おいそれと漢字をかなには置き換えられません。
ですがね、奥さん。
パソコンでの小説執筆なら、時間と手間の節約ができるんですね。
たとえば、オンライン小説中に「地団駄」があったとします。地団駄を踏むの地団駄。これをね、ひらがなに置き換える場合を考えてみますね。
例)地団駄をひらがなにする
まずは、オンライン小説を執筆するときにいつもお使いになるアプリケーションで、置換ウィンドウを開きます。
オンライン小説原稿のなかで地団駄を探すので、検索欄に「地団駄」と入力します。
見つけた「地団駄」をひらがなにしますので、置換欄には「じだんだ」とひらがなで入力します。
全置換をクリックすれば、「地団駄」が「じだんだ」というふうに、ひらがなに置き換わっています。
ただね、奥さんね。
上記はわかりやすい例をだしましたけど、オンライン小説では、もうちょっと複雑なケースもあるんです。
オンライン小説を書いているかたであれば、憧れの作家さんがいたりしますよね。そのかたの著作を拝読していて気づくわけです。
「あら? このセンセ、中をひらがなにしてらっしゃるわ」
憧れの作家先生です。あの人が中をひらがなにしてらっしゃるのならわたしも、となるわけです。
ところが小説原稿のなかには「中」だらけ。「船の中」とか「そんな中」とか、使いまくりです。手作業で小説中の単語を置き換えるのは手間です。
では、ということで、先ほどの例と同じよう方法で、「中」を「なか」に置き換えてしまっては痛い目を見るかもしれません。「開発中」という単語が小説原稿のなかにあった場合、「中」を「なか」に置き換えてしまうと、「開発なか」となってしまいます。では、どうすればいいのか?
──続きはその2で。
オンライン小説を執筆するうえで、頭のいい人は置換をうまく利用します。
置換機能を使えば、文字の置き換えがカンタンにできます。
たとえば、オンライン小説中にでてくる名前の置き換え。「山田次郎」というキャラクターを登場させているとします。
ところが、オンライン小説を書き進めていくと、名前とキャラクタイメージが合致しなくなってしまいました。「山田次郎」という名前を変えたい。「伊集院光利」にしたいという欲求がうまれたとします。
オンライン小説をチェックして、手作業ですべての「山田次郎」を「伊集院光利」にするのは大変で手間です。
もしかしたら、カン違いして「伊集院」ではなく「田中」と置き換えてしまうミスをするかもしれない。
なにより、時間の無駄です。
オンライン小説ですので、原稿用紙に書いているわけではなくパソコンで執筆しているでしょう。オンライン小説の登場人物名を置き換えるという単純作業はパソコンにまかせてしまったほうが、貴重な執筆時間の節約につながります。
例)山田次郎を伊集院光利に置き換える。
まずは、オンライン小説を執筆するときにいつもお使いになるアプリケーションで、置換ウィンドウを開きます。
オンライン小説のなかで山田次郎を探すので、検索欄に「山田次郎」と入力します。
見つけた「山田次郎」を「伊集院光利」に置き換えるので、置換欄に「伊集院光利」と入力します。
全置換ボタンをクリックすれば、オンライン小説中の「山田次郎」が「伊集院光利」に置き換わっています。
ただ、オンライン小説中でキャラクターがフルネームで登場することはまれでしょう。「山田次郎」で検索してしまうと、小説中の「山田」と「次郎」は別の文字列として判定されますので、置換からはぶかれてしまいます。オンライン小説執筆において、より実践的な置き換えを行うなら、苗字と名前は別々に置換しましょうね、奥さん。
例)山田を伊集院に置き換えたのち、次郎を光利に置き換える。
検索欄に「山田」と入力。
置換欄に「伊集院」と入力。
全置換ボタンを押す。
検索欄に「次郎」と入力。
置換欄に「光利」と入力。
全置換ボタンを押す。
──ちなみに、真に頭のいい人はミスをしませんので、こんな置換の使い方はしないでしょう^^;
オンライン小説サイトのリストです。
また、当サイトはリンクフリーです。リンクしていただけるさいのアドレスは「http://asakawa.sakura.ne.jp/」でお願いします。
- 投稿小説空間
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興奮で額に汗がにじみ、鼻息も荒くなった。
「ふんが~、ふんが~」
わたしの鼻息は、マタドールに挑む猛牛よりも、なお猛々しかった。
それも、むべなるかな。
眼前には、白い肌に密着した深紅のブラジャーがあるのだ。バラをかたどった刺繍がとても優雅で、男心をくすぐってくれる。
わたしは慌てて頭をふって、取りついた興奮を追いはらった。ブラに吸いついていた視界が、ゆっくりと元に戻っていく。
ブラの主が見えた。まなじりをさげ、せつなそうな表情で眠っているのは、まがうことなく鬼瓦則武{おにがわらのりたけ}であった。名前は男っぽいが、性別もやっぱり男だ。
酒に酔って寝転んだ同僚が、真っ赤なブラをつけている。しかも、ハーフカップだ。
心くつろぐはずのわが家に、なぜこんなシュールな光景が出現しているのか。理由はまったくカンタンだった。事のおこりは、鬼瓦を自宅に招いたことだった。お互い独身なので気楽なものだ。部屋に冷房を効かし、おつまみを作る。ふたりっきりの酒盛りは、ひとしきり盛りあがった。
ピークをすぎたころ、わたしは携帯電話を取りだした。
「機種変更して一日たつが、まだ慣れてないんだ。お前はどうだ? 鬼瓦」
驚くことに、鬼瓦も同じ日に同じ機種に変更していた。申しあわせたわけではなく、まったくの偶然だった。
「ぼくも設定とか全然かえてな~い」
などと、とりとめもなく話しているうちに、鬼瓦がうつらうつら舟をこぎはじめ、ついには寝転がってしまった。
服を着たままだと寝苦しかろうと、わたしは同僚のネクタイに手をかけた。ゆるめてやるつもりだったが、どうやらわたしも酔いがまわっていたらしい。手元がおぼつかない。
胸のうえで手をすべらせたとき、シャツごしに、ほんのわずかな抵抗を感じた。気のせいといってしまえばそれまでの、かすかなデコボコ。
そのとき、脳内で発生したものがあった。
スズメの涙ほどの好奇心と、小さじ一杯の探究心と、大ジョックからあふれるほどの悪ふざけ。
気づいたら、鬼瓦の上半身を裸にひんむいていた。
チャッラララ、チャッラララ。
頭のなかで、「トワイライトゾーン」のテーマソングが奏でられていた。新しい携帯電話の着信音はこれにしようと、現実逃避のように考えてしまう。
「あ、そうだ。携帯だ」
わたしは畳に転がる携帯電話を手にとった。脳による行動ではなく、脊椎反射であった。あるいは、血中で暴れるアルコールの所業か。
わたしは携帯電話を両手で構えた。脇もしっかりとしめ、シャッターボタンを押す。ぷろぽろぽ~ん、と存外におおきな音がした。
すわ! 起きるか!?
とっさに猫足立ちで構えたが、鬼瓦は安らかな寝息をたてているだけだった。
わたしは安堵のため息をもらした。撮った画像を確認しながら、首をもむ。熱い。予想以上に、酔いがまわっているようだった。
テーブルの上には、ビールだけでなくウイスキーや日本酒もあった。紅茶や牛乳まであるのは、混ぜて飲みくらべていたからだ。
「そういえば……」
寝ている同僚は、上半身は見えているが、下半身はテーブルの下だった。もしかしてと、いけない想像をしてしまう。
「いやいやいや」
男がブラをつけるのはたしかに異常だが、つけてつけられないことはない。だが、下は違う。男には、心臓と同じおおきさの物体がついているのだ。セクスィーなパンツでは、とてもではないが隠し切れない。
確かめなければならなかった。わたしの好奇心のためではなく、同僚の尊厳のためにだ。
わたしは邪魔になるテーブルの両端をつかみ、部屋の隅に移動しようとした。ビンやグラスは、めんどうくさいのでそのままだ。
「うお」
脚がもつれた。斜めになったテーブルから、ビンやグラスがすべり落ちる。ふたをしていたり、飲みきっていたりして、被害が小さかったのが幸いだった。
いまの騒ぎで、鬼瓦が起きていないかと目をあげて、
「っ!」
声をあげそうになったわたしは、慌てて自分の口をおさえた。
鬼瓦の上半身が濡れていた。ビールや紅茶ならまだしも、こぼれていたのは牛乳だった。深紅のブラに、純白の液体。そのコントラストがエロチックで、わたしはしばし呆然と見とれてしまった。
ぷろぽろぽ~ん。
ぷろぽろぽ~ん。
ぷろぽろぽ~ん。
軽やかな電子音が連続で鳴った。
我にかえったときには、携帯電話をかまえ、様々なアングルで激写している最中だった。
わたしは急いで牛乳をふいた。肌にかかったぶんは問題ないが、ブラジャーの一部が変色してしまっていた。
これは知らないことにするしかない。
わたしはそう決心し、同僚の尊厳を守るため、ベルトに手をかけた。ためらいなく、淀みなく、躊躇も捨てて、拘束をといてゆく。
ファスナーをおろし、ズボンをはだけた。
「ぐ」
驚愕の叫びが、喉につまった。
男物をはいているなら、よしだった。セクスィーな下着がでてきた場合の覚悟もあった。
しかし、これは予想外。「どんな下着なのか?」という問題とは、まったく次元が異なっていた。
正解を先にいってしまうと、鬼瓦がはいていたのは、ブラとおそろいであろう深紅のパンツだった。バラをかたどった刺繍が、洗練された豪華さを演出している。モノはギリギリはみでていなかった。同僚の心臓は、平均よりも小さいのかもしれない。
わたしが愕然と目をむいてしまったのは、そんなことではなかった。
鬼瓦則武は、なんと、パンストをはいていたのだった。光沢のあるベージュが、電灯の光をうけて、きらびやかに輝いている。
同僚の足元を見ると、靴下もちゃんとはいている。暑かったろう、と同情心が芽生えてくる。彼の美意識を理解することはできないが、ここまでされると認めてやるしかない。
「うん、あっぱれだ」
わたしはひとりでうなずいた。まだアルコールに浸っていない分の思考が、さっきからしきりに警報をならしてくる。
ぷろぽろぽ~ん。
ぷろぽろぽ~ん。
ああ、違う。これは携帯電話のシャッター音だ。なんだか夢なのか現実なのか、はっきりしなくなってきた。
「あ~」
かすんできた目に、パンストごしのパンツがうつった。誘蛾灯にまねきよせられる虫のごとく、わたしはなんの迷いもなく、鼻先を股間にセットした。
思いっきり匂いを吸いこむ。
「ふんぐう!」
鼻腔にするどい針が突き刺さった。一本ではなく何十本と。わたしはあまりの痛覚に、床上でもんどりうった。
針が刺さったというのは、もちろん錯覚だった。それぐらい、刺激的で攻撃的で破壊的な臭いだということだ。
おかげで目がさめた。
「危なかった」
わたしは流れた涙をふきながら、身をおこそうとした。途端、すとんと腰が落ちた。鬼瓦の上に、しなだれかかってしまう。
「う~ん」
重さのためだろう。鬼瓦が小さくうめいた。
ま、まずい!
わたしはとにかく同僚の上からどこうとしたが、力がはいらなかった。思うように動けないが、それでもなんとか体をずらしていく。
酔いすぎた──というわけではない。恐るべきことに、手足が痺れはじめている。酔いとは別種の、これはなにかの中毒か!?
思い当たることが、ひとつあった。鬼瓦の股間だ。芳醇を突きぬけて、破壊へと到達した臭い。きっと正体不明の気体が、にじみ出ているに違いない。
視界がせばまってきた。いよいよガスがまわってきたのか。
「だが、しかし」
いま、目を閉じるわけにはいかない。眠るのは、同僚に服を着せてからだった。このまま気を失ってしまえば、鬼瓦になにかしたみたいではないか。
わたしは朧に霞む思考の中で、なんとか打開策を見つけだそうとした。
どうする、どうする、どうする……。
鬼瓦が目を覚ました。
寝ぼけているのか、ぼんやり左右を見渡している。わたしと目があって状況を理解したのか、
「おはよう」
と、目をこすった。窓からはいってくる朝日が、まぶしいのかもしれない。
わたしも「おはよう」と答え、ティーカップから紅茶を一口すすった。
「あ~、飲み物は紅茶でいいかな」
紅茶をいれてやり、さもいま思いついたように、
「そうだ、牛乳いれてみるか。おっと!」
牛乳パックの口をあけてから、わざと転んだ。飛び散った牛乳が、鬼瓦のワイシャツにひっかかる。
「悪い。これでふいてくれ」
差しだしたタオルを鬼瓦が受けとり、染みこんだ液体を叩いてふく。これで、ブラの変色もごまかせるだろう。
わたしは休日なのをいいことに、綿シャツとトランクスという情けない姿で朝食をとった。いっしょに食べている鬼瓦が、わたしの右足を不思議そうに見る。
「すねが青くなってるけど、どうしたの?」
もっともな質問に対して、わたしは乾いた笑みを浮かべながら答えた。
「ちょっと柱にぶつけてね」
ウソじゃない。
あらんかぎりの力をふりしぼり、右足で柱を蹴ったのだ。うずく痛みにより、わたしは意識を失うことなく、中毒が回復するまで耐えたのだった。復調さえしてしまえば、鬼瓦の衣服を整えるくらい簡単だった。
足の痛みがまだひいておらず、昨夜から一睡もしていないのはご愛嬌だ。
朝食がすむと、鬼瓦は泊めてもらった礼をいって帰っていった。
五分間たっぷり時間をおいてから、わたしはおおきくため息をついた。
「さて」
わたしはあえて声をだし、携帯電話のボタンを押した。一夜あけた後の冷静な目で、昨夜の衝撃写真を観賞するためだった。
わたしは眉間にしわをよせた。
写真が一枚も記録されていなかったのだ。
刹那、脳内で電光が閃いた。
「まずい! 待て! 鬼瓦~!」
わたしはドアを蹴破って跳びだし、パンツ姿のまま疾駆した。
同じ種類で、どちらも新品。
すりかわってしまった携帯電話を追って、走る走る。
「どこだ~!? 鬼瓦~!?」
絶叫が青空に響きわたった。
(完)
満月を見上げたぼくは、驚きで息を飲んだ。小学六年生の小さな体が、興奮でおこりのように震えてしまう。
蝶々のような羽をはばたかせて、妖精が飛んでいたのである。
青白い月光幕に、墨で描いたような妖精のシルエットは、胸をかすかに膨らませており、遠目にも女性と知れた。巻き散らかされるリンプンの軌跡が、はかなげにまたたきながら波打っている。
彼女はフェアリーと呼ばれる妖精に間違いない。会えるとしたら、それは欧州を置いてないと思っていたが、まさか日本の、それも平凡な住宅地で遭遇できるとは、なんという幸運だろうか。
「いた。いたんだ」
うわずった声は、思ったより大きかった。前を歩いていた友人たちが、気づいて振り返ったほどだ。ふたりのうち、片方が浴衣姿なのは、夏祭りの帰りのためである。
「なになに、なにがいたって?」
「フェアリーだよ、フェアリー! 羽のはえた妖精!」
ぼくは興奮気味に、空中でスキップしているフェアリーを指さした。
ふと、蝶々じゃん、と一蹴される不安にかられた。彼女は細い手足を振りまわしているうえに、距離もあるので、見間違えやすい。フェアリーなど空想上の生き物だという固定観念にかられていると、虫に見えないこともないのである。
「なんもないじゃん」
浴衣姿の友人は、予想外の言葉を口にした。虫というならまだしも、いないとはどういうつもりだ。
「いるって、あそこ! よく見てよ、いるよ。虫でもないよ」
そういって、ぼくが指さした先には、たしかにフェアリーが飛んでいる。
「しつっこいなあ。いるわけないじゃん。なに? 妖精なんか信じてんの? ばっかじゃないか」
浴衣姿の罵りは、ぼくの内なるマグマを煮えたぎらせた。突き出した右の拳は、友人の嫌みったらしくゆがんだ頬に食い込んだ。
よろめいた浴衣姿だったが、ブロック塀に手をついて体をささえ、
「なにすんだよ!」
と、歯をむきだしにしてむかってきた。
鼻面をなぐられたぼくは、ふんばりがきかず、あおむけに倒れてしまった。
「妖精なんていねんだよ! ばあか!」
馬乗りで殴られた。身につけた衣が汚れるなと、ぼんやりと思った。
もうひとりの友人は、ニヤニヤ笑っているだけである。
「いなんいんだよ、妖精なんて」
馬乗りになった同級生は、そういいながらぼくを殴りつづけたが、抵抗がなくなったと気づくや、舌打ちを残して立ち上がった。
「おい、行こうぜ」
もうひとりと連れ立って、その場を去っていく。
ぼくは立ち上がると、衣の痛んだ箇所をなでながら、フェアリーを目で追った。
彼女はリンプンの尾を引きながら遠ざかっていた。
友人ふたりの背も小さくなっていくが、ぼくが追ったのは、羽のはえた妖精のほうだった。
「妖精がいないだって? 冗談じゃない」
地を蹴って駆けだしたときには、友人たちの存在など記憶から葬り去っていた。
宙に舞うフェアリーを見上げながら全力疾走。T字路を右に、十字路を左に曲がる。道ともいえない細い路地を抜け、犬が吠える庭を横切りもした。
小さかったフェアリーが、徐々におおきくなってくる。手足を楽しそうに振っているのがよくわかった。
まっすぐ飛ばれてしまえば簡単に離されていたに違いないが、彼女は上下に揺れて、遊びながら飛んでいる。空中と地上のハンディは、それで相殺されていた。
いずれ追いつけると確信を強めたが、
「ぜは、ぜは、ぜは、ぜは」
肺が悲鳴をあげていた。
ぼくは前に進もうとしたのだが、小学六年生の小さな体はいうことをきいてくれず、気ばかりあせった結果、両脚がもつれ、もんどりうって転がってしまった。
間をおかず立ち上がったが、膝から崩れた。転倒したときに、負傷してしまったらしい。動きがとれず、空を仰いだまま歯軋りする。
フェアリーのシルエットは、夜の闇へとにじで消えてしまった。
「くっそ!」
アスファルトを叩いた八つ当たりの拳に、輝くリンプンが降りそそいだ。
「はっ、はっ、はっ」
ぼくは息をはずませながら走った。
フェアリーと再会したならば、地の果てまでも追っていけるように、脚力を鍛えているのである。
学校指定のジャージに包まれた体躯は、すでに小学生のそれではない。衣替えを何度か経て、邂逅の日からは、すでに三年が経過している
千を越える日々は、小瓶に保存したリンプンを眺めて慰めた。
「あれ?」
だから、夜空を何気なく見上げ、そこにフェアリーを発見したときには、あまりのあっけない再会に、幻覚だと思ったほどだ。
「本物か」
目をこすってあらためて確認しても、華やかな紋様の羽をはばたかせて空を飛んでいるのは、間違いなくフェアリーであった。リンプンで描かれる軌跡は、見飽きた夜空に神秘のベールをひいていた。
今回は地上に近かった。街灯の光にあおられ、姿がはっきりと見えている。掌サイズを想像していたが、実際には人間の女性と同じ背丈だった。服も既製品であり、羽はどうやってだしているのかと、疑問が浮かぶ。
顔もぼんやりと見えた。細面で目じりがたれており、空中をスキップするにふさわしい、楽しそうな笑顔を浮かべている。
ぼくはフェアリーを追うため地を蹴った。走りこみの成果がでて、手足がスムーズに動いてくれる。月光に照らされた彼女を見失わないですみそうだった。
フェアリーがぼく以外に見えないカラクリは、すでに看破している。リンプンに鏡のような性質があると、毎日の観察でわかったのだ。光を屈折させて、人間たちから自分の姿を隠している。これも擬態といえるだろう。
フェアリーとの距離がつまってきた。
「でも、どうしよう……」
地上に貼りついているぼくでは、空中を舞う彼女に接触できそうになかった。ジャンプして届く距離でもなく、足場をつくる時間の余裕もない。
「待つか」
走りながら考えた結果だった。フェアリーが羽を休めるまで、追い続ける覚悟を決めた。持久力がものを──否、脚を動かすのは執念だ。
想い人との勝負は、しかし、あっけなく幕を閉じた。執念に火をつける前に、フェアリーが高度を下げてきたのだ。民家の屋根すれすれまで、降下してきている。
行く手には林があった。ひと目にふれず羽を休めるには、もってこいの場所である。
風でゆれる枝葉のなかに、フェアリーが埋もれるように消えていった。
ぼくはフェンスの手前で立ちどまった。
私有地らしいので遠慮したわけでも、夜の林に恐怖したわけでもなく、たんに入り口を探しているだけだ。
視線を巡らせて数秒だけ探したが、結局見つからず、ぼくはフェンスに飛びついた。乗りこえるときに有刺鉄線をつかんでしまったが、気にせず地面に着地する。
フェアリーが林にはいったときの方向を考慮して、あてずっぽうで走り出した。
カンがあたったと自信が持てたのは、木々に付着したリンプンを発見したからだ。差し込む月光に輝き、まるで道しるべのようでああった。
リンプンに誘われるようにして、林の奥へむかって進むと、おぼろげな光がまたたくのが見えてきた。
ぼくは歩をゆるめ、慎重な足取りで、光へ近づいていった。
そこは、ひらけた場所だった。近づくにつれ、またたく光の正体に見当がついてきた。フェアリーの羽がひらいたり閉じたりしているに違いない。
幹から顔を半分だけだし、そっとフェアリーの様子をうかがう。降りそそぐ月光で、彼女の姿がよく見えた。
「あ……」
喉から飛び出しかけた叫びをかみ殺した。
フェアリーはうつ伏せに倒れていた。それでもスキップをやめず、だだをこねる子供のように、両手両足を地面にぶつけている。
いや、それはたんなる痙攣にすぎなかった。楽しそうなスキップに見えたのは、空中を飛んでいるという非現実からなる幻だった。
ぼくは自嘲で唇をゆがめた。否定するなら、そんなどうでもいいことではなく、もっと重要な事実を否定するべきではないのか。
横たわって痙攣しているのは、フェアリーではなく、たんなる人間の死体なのだ。顔や手、スカートからのぞく脚が、紙のように真っ白になっているのが、その証拠。生きている者の体色ではありえない。
しかし、リンプンをふりまく羽は、ゆったりと羽ばたいている。飛ぶための動きではなく、くつろぐためのゆったりした動作である。
死体の背中に取りつき、優雅に羽を上下させているのは、ぷっくりした胴体の巨大な蛾だった。
ふいに、脳内に映像が浮かんできた。
家路を急ぐ女性の上空に、赤ん坊くらいおおきい蛾が迫ってくる。リンプンの効果によって、だれにも目撃できない昆虫は、女性の背中にとりつき、そうして、連れ去っていくのだ。目的はおそらく捕食である。死体の体色が白くなっていることから、体液を吸いだしていると推測できた。
連れ去られる女性も、リンプンによって人間の目から隠されている。例外であるぼくも、フェアリーに会いたいという欲求によって、目が曇っていた。羽の動きが蛾の胴体を隠していたのと、暗かったせいもある。
だが、停止したいま、蛾の姿がはっきり見える。
羽のはえた妖精ではなく、死体に取りついた蛾。
前回のときも、この巨大蛾は人間をとらえており、それを目撃したぼくは、てっきりフェアリーだと思い込んだのだ。
失意でめまいがして、うしろへよろけてしまった。かかとの下で、小枝の折れる音がした。
巨大蛾の頭からのびる触覚が、ひくひくと波打った。
降りそそぐ月光に逆らうかのように、巨大蛾が飛び上がった。空中で反転し、丸いふたつの目がこちらをむく。
見つかった。捕まれば、体液を吸いだされてしまう。
ぼくは踵を返して、一目散に走り出した。
自慢の脚は、しかし木々が邪魔してトップスピードにいたれなかった。
それは巨大蛾も同じだけのはず。
ぼくは確認して安心するために、首だけをふりあおがせた。
背筋が凍った。
巨大蛾は木々を物ともせず、ひらりひらりと舞っていた。輝くリンプンが、木々のあいだを縫うようにのびている。
そうだった。ここは蛾の住処なのである。どこに木が生えているのか、熟知しているに違いない。一流のレーサーがここしかないというラインをなぞるように、巨大蛾もベストの道筋を飛来してくる。
「くそっ!」
いまの感情をそのまま吐露した。
左足で思いっきり地を蹴った。ぐんと前に進む。
あげようとした右足が、木の根にひっかかった。勢いがついたまま、もんどり打って倒れる。
直後、ずん、と背中に柔らかくて重いものが乗ってきた。
「うわ!」
悲鳴をあげた口に、リンプンが吸い込まれる。
ぼんのくぼに、管のようなものが刺さった。体液が逆流していく。ときおり、ジュルジュルという音も聞こえた。
蝶が花の蜜を吸うように、こうやって人間の体液を摂取していたのだ。
手足が痙攣しはじめた。つかまれて空中にいたとすれば、スキップしているように見られるだろう。
顔の筋肉も弛緩しはじめている。体液を吸いだされるとともに、痛みを感じなくさせる液体を注入され、それの副作用だろう。
ああ、これは終わったなと理解できた。
巨大蛾がぶるりと痙攣した。全身から力が抜け、羽も地面へついてしまう。
いくつかあるのぞき窓のひとつから、様子を観察していたぼくは、巨大蛾が死んだことを確認した。
出入り口は背中にある。皮膚のつなぎ目をひらき、シャツとジャージのすそをめくる。
蛾の白い腹が見えた。
「ああ、重いったら」
巨大蛾の体と、衣の隙間から、ぼくはようやっと這い出した。
外から見ると、元人間である衣は、体液をすべて抜き取られ、予想通り死んでいた。
いや、ぼくが襲って中にもぐりこんだときに、すでに死んでいるともいえるが、心臓が動いて呼吸をしていたのだから、生きていたといえなくもない。
「こいつ!」
巨大蛾を蹴っ飛ばす。ぼくよりもはるかにおおきなな蛾は、びくともしなかった。
しかし、ぷっくり膨れた腹の末端から、緑色の液体が滲んでいた。
衣の濁った血が、毒になったのだろう。いい気味だ。フェアリーがいるように思い込ませた罪だ。
同じ妖精でも、羽のはえている妖精は気品がある。ぜひ、妻として娶りたかったのに、たんなる昆虫だったとは。
ぼくはため息をひとつつくと、人間社会にもぐりこむための新しい衣を求めて、月光の降りそそぐなかを歩き出したのだった。
(完)
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